職場トラブル解決ガイド
40. 36協定と特別条項付き協定について
現在月25時間の36協定を結んでいますが、会社から月50時間の協定を提案されました。
これは可能でしょうか?
これは可能でしょうか?
月の上限は原則45時間です。
50時間にするには特別条項付き協定が必要で、厳しい条件があります。
50時間にするには特別条項付き協定が必要で、厳しい条件があります。
法律上の重要なポイント
詳しい解説
36協定とは
会社が従業員に残業や休日出勤をさせる場合、労働基準法第36条に基づき「36協定」を労働組合(または従業員代表)と結び、労働基準監督署に届け出る必要があります。
2019年の法改正による変化
- 2019年3月まで。時間外労働の限度時間(月45時間・年360時間)は目安でしかありませんでした
- 2019年4月以降。これらの限度時間が法的に義務となり、違反すると罰則が科されるようになりました
現在の時間外労働の上限
- 原則。月45時間・年360時間まで
- 1年単位の変形労働時間制の場合。月42時間・年320時間まで
特別条項付き協定とは
臨時的で特別な事情がある場合のみ、上記の限度時間を超えて働かせることができる協定です。ただし、以下の厳しい上限があります。
- 年間の時間外労働。720時間以内
- 休日労働を含めて。単月100時間未満
- 休日労働を含めて。2~6か月平均で80時間以内
- 月45時間を超える残業。年6回まで
業種による特例
一部の業種では、2024年4月から段階的に規制が適用されています。
自動車運転業務
- 年間上限。960時間
- ただし月100時間未満・複数月平均80時間以内の規制は適用されない
建設業
- 2024年4月から一般則を適用
- 災害復旧事業は一部例外あり
医師
- 2024年4月から上限規制を適用
- 具体的な上限時間は別途検討中
研究開発業務
- 時間外労働の上限規制は適用されない
- ただし健康確保措置が必要
「臨時的で特別な事情」とは
特別条項を使うには、以下の条件を満たす必要があります。
認められる事情の例
- 予期しない納期変更による納期の切迫
- 予期しない大規模クレームへの対応
- 予期しない重大な機械トラブルへの対応
認められない事情の例
- 「業務の都合上必要な時」(理由が曖昧)
- 「業務繁忙な時」(理由が曖昧)
- 「会社が必要と認める時」(理由が曖昧)
- 年間を通じて常に適用される事情
労働時間の管理義務
会社は、管理職を含むすべての従業員の労働時間を客観的に把握する義務があります。
把握方法
- タイムカードによる記録
- パソコンの使用時間記録
- ICカードによる記録
- その他客観的な方法
自己申告制の注意点
やむを得ず自己申告制を使う場合。
- 従業員への十分な説明が必要
- 在社時間との大きな差がある場合は実態調査が必要
- 申告時間に上限を設けてはいけない
医師による面接指導
以下の従業員には医師の面接指導が必要です。
- 月80時間超の時間外・休日労働をして疲労が蓄積している人(本人の申出による)
- 研究開発業務で月100時間超の時間外労働をした人(義務)
36協定に記載すべき事項
- 対象となる従業員の範囲
- 対象期間
- 時間外労働をさせる場合の条件
- 1日・1か月・1年それぞれの延長時間
- 協定の有効期間
- 健康福祉確保措置(特別条項の場合)
- 割増賃金率
協定締結時の注意点
- 時間外労働は必要最小限に抑える
- 業務の範囲を明確にする
- 短期間に集中した過重労働は避ける
- 従業員の健康と安全に配慮する
健康福祉確保措置
特別条項で限度時間を超える場合、以下から1つ以上の措置を取る必要があります。
- 医師による面接指導
- 深夜勤務の回数制限
- 勤務間インターバル(休息時間)の確保
- 代休や特別休暇の付与
- 健康診断の実施
- 連続休暇の取得
- 健康相談窓口の設置
- 配置転換
- 産業医による指導
割増賃金について
- 月45時間まで。25%以上の割増賃金
- 月45時間超。25%を上回る率での支払いに努める
- 月60時間超。50%以上の割増賃金(義務)
- 深夜労働。上記に25%を追加
罰則
- 上限規制違反。6か月以下の懲役または30万円以下の罰金
- 労働時間把握義務違反。50万円以下の罰金
まとめ
月50時間の協定を結ぶには特別条項付き協定が必要で、厳格な条件と手続きが求められます。従業員の健康を最優先に考え、本当に必要な場合のみ検討するべきです。
参考条文
労基法第32条、第35条、第36条、第37条、第119条 安衛法第66条、第120条
詳細について
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