職場トラブル解決ガイド
30. みなし労働時間制(裁量労働制)
法律上の重要なポイント
裁量労働制とは、働く人を対象とする業務に就かせ、働く人に時間配分や仕事を委ねた場合、労使であらかじめ定めた時間働いたものとみなす制度(みなし労働時間制)です。
専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制があり、各制度の導入に当たっては労使協定や労使委員会の決議、届出義務などが決められています(労働基準法第38条の3、第38条の4)。
詳しい解説
専門業務型裁量労働制について
業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に働く人の裁量に委ねる必要がある業務として、厚生労働省令および厚生労働大臣告示によって定められた業務の中から、対象となる業務を労使で定め、働く人を実際にその業務に就かせた場合、労使であらかじめ定めた時間働いたものとみなす制度です。
対象となる業務(労働基準法第38条の3)
研究・開発関連
- 新商品・新技術の研究開発
- 人文科学・自然科学に関する研究の業務
- 情報処理システムの分析または設計の業務
メディア・編集関連
- 新聞・出版の事業における記事の取材・編集の業務
- 放送番組、有線ラジオや有線テレビの放送番組の制作のための取材・編集の業務
デザイン・制作関連
- 衣服・室内装飾・工業製品・広告等の新たなデザイン考案の業務
- 放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサーまたはディレクターの業務
コンサルティング・分析関連
- 広告、宣伝等における商品等の内容、特徴等に係る文章の案の考察の業務(いわゆるコピーライターの業務)
- 事業運営において情報処理システムを活用するための問題点の把握またはそれを活用するための方法に関する考案若しくは助言の業務(いわゆるシステムコンサルタントの業務)
- 建築物内における照明器具、家具等の配置に関する考案、表現または助言の業務(いわゆるインテリアコーディネーターの業務)
金融・IT関連
- ゲーム用ソフトウェアの創作の業務
- 有価証券市場における相場等の動向または有価証券の価値等の分析、評価またはこれに基づく投資に関する助言の業務(いわゆる証券アナリストの業務)
- 金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務
専門職関連
- 学校教育法に規定する大学における教授研究の業務(主として研究に従事するものに限る)
- 公認会計士の業務、弁護士の業務
- 建築士(一級建築士、二級建築士および木造建築士)の業務
- 不動産鑑定士の業務、弁理士の業務、税理士の業務
- 中小企業診断士の業務
制度導入の手続きについて
制度導入の要件は以下の2点です。
- 労使協定の締結
- 当該協定の労働基準監督署長への届出
労使協定で定めるべき事項
- 対象業務
- 業務の遂行の手段や方法、時間配分に関し、働く人に具体的な指示をしないこと
- みなし労働時間数
- 対象となる働く人の労働時間の状況に応じて実施する健康・福祉を確保するための措置の具体的内容
- 対象となる働く人からの苦情の処理のため実施する措置の具体的内容
- 協定の有効期間(3年以内とすることが望ましい)
- 上記措置に関し働く人ごとに講じた措置の記録を協定の有効期間およびその期間満了後3年間保存すること
重要な注意点
2004年1月1日施行により、既に専門業務型裁量労働制を導入している事業場においては、この事項を労使協定で定めた上で改めて労働基準監督署への届出が必要です。
企画業務型裁量労働制について
対象業務と対象事業場(労働基準法第38条の4)
以下のすべてを満たした業務が対象となり、ホワイトカラーの業務すべてが該当するわけではありません。
対象業務の基本的要件
- 企業全体の運営に影響を及ぼすもの
- 企画、立案、調査、分析を相互に組み合わせて行うもの
- 業務の性質上、客観的に働く人の裁量に委ねる必要性があるもの
- 作業をいつ、どのように行うかについて広範な裁量が働く人に認められているもの
対象業務となり得る業務の例
- 経営状態・経営環境等について調査および分析を行い、経営に関する計画を策定する業務
- 現行の社内組織の問題点やその在り方等について調査および分析を行い、新たな社内組織を編成する業務
- 現行の人事制度の問題点やその在り方等について調査および分析を行い、新たな人事制度を策定する業務
- 業務の内容やその遂行のために必要とされる能力等について調査および分析を行い、社員の教育・研修計画を策定する業務
- 財務状態等について調査および分析を行い、財務に関する計画を策定する業務
- 効果的な広報手法等について調査および分析を行い、広報を企画・立案する業務
- 営業成績や営業活動上の問題点等について調査および分析を行い、企業全体の営業方針や取り扱う商品ごとの全社的な営業に関する計画を策定する業務
- 生産効率や原材料等に係る市場の動向等について調査および分析を行い、原材料等の調達計画も含め全社的な生産計画を策定する業務
対象業務となり得ない業務の例
- 経営に関する会議の庶務等の業務
- 人事記録の作成および保管、給与の計算および支払、各種保険の加入および脱退、採用・研修の実施等の業務
- 金銭の出納、財務諸表・会計帳簿の作成および保管、租税の申告および納付、予算・決算に係る計算等の業務
- 広報誌の原稿の校正等の業務
- 個別の営業活動の業務
- 個別の製造等の作業、物品の買い付け等の業務
導入の手続きについて
以下が必要です。
- 労使委員会を設置すること(設置届は廃止)
- 労使委員会の出席者の5分の4以上の多数決による決議
- 労使委員会の決議を労働基準監督署長に届け出ること
- 対象となる働く人個人の同意を得ること
労使委員会の要件
労使委員会は、以下の要件を満たさねばなりません。
基本要件
- 事業場における賃金・労働時間その他の労働条件に関する事項を調査審議し、会社に意見を述べることを目的とする委員会であること
委員の要件
- 委員会の委員の半数については、当該事業場に、働く人の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、働く人の過半数で組織する労働組合がない場合においては働く人の過半数を代表する者に任期を定めて指名されていること(労使各1名の2名からなるものは不可)
議事の要件
- 議事について、議事録が作成・保存され、働く人へ周知されていること
労使委員会で決議すべき事項
決議の要件は出席委員の5分の4以上の多数決です。
必要的決議事項
- 対象業務(事業の企画・立案・調査・分析の業務であって、会社が仕事の進め方・時間配分に具体的指示をしないこととする業務)
- 対象となる働く人の範囲(対象業務を適切に遂行するために必要となる知識経験等を有する者(例:大学の学部卒業後、5年以上の経験を有し、主任以上の職能資格者等))
- みなし労働時間(1日あたりの時間数)
- 対象となる働く人の健康・福祉確保の措置(具体的措置とその措置を実施する旨)
- 対象となる働く人の苦情処理の措置(具体的措置とその措置を実施する旨)
- 働く人の同意を得なければならない旨およびその手続
- 不同意の働く人に不利益な取り扱いをしてはならない旨
- 決議の有効期間(3年以内が望ましい)
- 実施状況に係る働く人ごとの記録を保存すること(決議の有効期間中および満了後3年間)
労働基準監督署への定期報告
会社は、定期的に対象となる働く人の労働時間の状況、対象となる働く人の健康および福祉を確保するための措置の実施状況を、決議した日から起算して6ヶ月以内に1回、決められた様式により労働基準監督署に報告する必要があります。
労使委員会の決議で代替できる労使協定事項
以下の事項については「労使協定」を要件としますが、労使委員会を設置した事業場では「労使委員会の決議」に代えることができます。
- 1ヶ月単位の変形労働時間制(労働基準法第32条の2)
- フレックスタイム制(労働基準法第32条の3)
- 1年単位の変形労働時間制(労働基準法第32条の4)
- 1週間単位の非定型変形労働時間制(労働基準法第32条の5)
- 一斉休憩の適用除外(労働基準法第34条)
- 残業・休日労働(労働基準法第36条)
- 代替休暇(労働基準法第37条第3項)
- 事業場外労働制(労働基準法第38条の2)
- 専門業務型裁量労働制(労働基準法第38条の3)
- 時間単位の年次有給休暇の付与制度(労働基準法第39条第4項)
- 年次有給休暇の計画的付与(労働基準法第39条第6項)
- 年次有給休暇中の賃金(労働基準法第39条第9項)
関連する法律条文
労働基準法第32条の2、第32条の3、第32条の4、第32条の5、第34条、第36条、第37条第3項、第38条の2、第38条の3、第39条第4項、第39条第6項、第39条第9項
詳細について
以下のURLを参照してください。
https://www.mhlw.go.jp/content/001164346.pdf
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