職場トラブル解決ガイド
28. 割増賃金・固定残業代
法律上の重要なポイント
変形労働時間制による場合を除き、1日・1週の法律で決められた労働時間を超えた労働が残業であり、法律で決められた休日は割増賃金(35%・25%)の違いからあらかじめ定めなければなりません。
労働基準法は最低基準であり、労使で法を上回る協定を定めたときは、労使協定が優先されます(労働基準法第37条)。
詳しい解説
決められた労働時間と法律で決められた労働時間について
就業規則等に定められた労働時間を「決められた労働時間」といい、「法律で決められた労働時間」は1日8時間・週40時間です。
労働基準法上の残業とは、法律で決められた労働時間を超えた労働時間であり、決められた労働時間を超えても法律で決められた労働時間以内であれば、その時間に対する割増が支払われなくても法律上は問題がありません。
具体例(週休二日制で1日7時間労働の場合)
- 8時間までの1時間
- 35時間(7時間×5日)を超え40時間に達するまでの時間
これらは法律上の残業ではないため、通常の賃金の支払いで足ります。
法律で決められた労働時間以内の「決められた時間外」労働時間について、労使で法を上回る取り扱いを定めたときは、労働基準法より優先されます。
休日労働について
労働基準法上35%以上の割増率が求められる休日労働とは、1週1回または4週4日の法律で決められた休日における労働です。
週休二日制では、法律で決められた休日のほかにもう1日休日があるため、その日に働いても「法律で決められた休日労働」には該当しません。これについても労使で上回る取扱いを定めたときはそれによることになります。
法律で決められた労働時間の定義
- 一週間:日曜日から土曜日の暦週
- 一日:午前0時から午後12時までの暦日
継続勤務が2暦日にわたる場合も一勤務とし、始業時刻の属する日を「一日」とします。
完全週休二日制の例(1日7時間労働)
土曜日に7時間勤務した場合:
パターン1:休・8・7・7・8・7・(7)
- 週の総労働時間:44時間
- 法定残業:4時間(44−40)
- 土曜日勤務が3時間以内であれば法定残業にならない
パターン2:休・7・8・7・9・9・(7)
- 木・金で2時間が法定残業
- 土曜日7時間中5時間が法定割増賃金対象
35時間を超え40時間までは、時間賃金の支払いが必要です。
割増率について
残業
- 基本:25%以上
- 特別条項付き協定:努力義務で率を上げる
- 月60時間超:50%(中小企業は2023年4月から適用)
1ヶ月の残業時間区分
- 45時間まで:通常の36協定(25%)
- 45時間超:特別条項付き協定
- 60時間超:50%以上、有給代替休暇も可
その他の割増率
- 休日労働:35%以上
- 深夜労働:25%以上
代替休暇の例
月92時間残業:
- 32時間分が50%の割増対象(92−60)
- 上乗せ分(25%)=8時間 → 有給代休1日可
割増賃金の計算基礎
- 時給:その全額
- 日給:日給 ÷ 労働時間
- 月給:月給 ÷ 労働日数 ÷ 労働時間
除外される手当
- 家族手当
- 住宅手当
- 通勤手当
- 一時金
住宅手当の扱い
除外される例:
- 家賃やローンの定率支給
- 費用区分に応じて支給
含まれる例:
- 住宅形態ごとの定額支給
- 扶養家族数に応じて支給
- 全員に一律支給
端数処理
労働時間
- 30分未満:切り捨て
- 30分以上:切り上げ
賃金額
- 50銭未満:切り捨て
- 50銭以上:1円に切り上げ
手当
- 1円未満:同上の方法で処理
原則1分単位。ただし1日単位での端数処理は不可。
パートタイム労働者
契約時間を超えても法定労働時間に達するまでなら割増不要。ただし労使合意で上回ることが可能です。
固定残業代について
制度として明文化されていませんが、次の要件が裁判で示されています:
- 通常の賃金と割増賃金を明確に区分
- 実際の残業代が上回れば差額支払い義務あり
罰則
労働基準法第32条、第36条、第37条違反:6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金
関連する法律条文
労働基準法第32条、第35条、第36条、第37条、第138条、割増賃金令
詳細について
以下のURLをご参照ください。
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000184068.pdf
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