職場トラブル解決ガイド
32. 年次有給休暇
法律上の重要なポイント
年次有給休暇(以下「有給休暇」)は、継続して働くこと(雇い入れの日から6ヶ月間、以後1年間)と出勤の割合(全労働日の8割以上の出勤)の2つの要件を満たせば、最低10日が付与されます。
短時間労働者にも、決められた労働時間・日数に応じて労働日数に応じた付与がされます(労働基準法第39条)。
詳しい解説
年次有給休暇について
年次有給休暇とは、一定期間継続して働いた人に対して、心身の疲労を回復し、ゆとりある生活を保障するために付与される休暇です。
休暇と休日の違い
- 休暇:労働の義務が発生している日における労働の義務を免除された日
- 休日:労働の義務がない日(法律で決められた休日、法律外の休日)
そのため休日に年次有給休暇を取得したり、充当したりすることはできません。
有給休暇の2つの要件
継続して働くこととは労働契約の存続期間、すなわち在籍期間です。
その判断を要する場合には、勤務の実態に即して行うべきとされており、たとえば定年退職と嘱託再雇用とが日を置かずになされる場合には、労働関係が継続していることとなり、勤務期間に通算されることとなります。
また、6ヶ月に満たない短期の契約であっても、契約を更新して6ヶ月を超えて継続して働くときは、6ヶ月を超えて継続して働いた1年ごとに新しく有給休暇は付与されることになります。
算定の基礎となる全労働日とは、就業規則等に定められた決められた休日を除いた日をいいます。
なお、育児・介護休業期間は出勤の割合の算定上、出勤したものと取り扱われます。
付与日数について
週の決められた労働時間が30時間以上、または週5日以上の場合:
- 継続年数6ヶ月:年次有給休暇日数10日
- 1年6ヶ月:11日
- 2年6ヶ月:12日
- 3年6ヶ月:14日
- 4年6ヶ月:16日
- 5年6ヶ月:18日
- 6年6ヶ月:20日
週の決められた労働時間が30時間未満で週4日以下の人、または1年間の決められた労働日数が定められている人について、週の決められた労働日数に応じて有給休暇日数が決められています。
時期指定義務について
有給休暇が10日以上の働く人(管理者含む)に対して、そのうち年5日について、会社は時期を指定して取得させなければなりません。
なお、時期指定にあたっては、働く人の意見を聞き取り、その意見を尊重するよう努めなければなりません。
控除について
働く人が自ら申し出て取得した日数や、計画的付与で取得した日数については、5日から控除できます。
管理簿の作成
有給休暇管理簿(時期、日数、基準日を働く人ごとに明らかにした書類)を作成の上、3年間保存する必要があります。
時間単位の有給休暇取得について
労使協定を締結することによって、有給休暇の日数のうち5日分以内の日数について、時間単位で取得できます。
- 取得できる対象者の範囲(利用目的で対象者の範囲を定めることは不可)
- 時間単位有給休暇の日数(年間5日以内)
- 1日分の時間単位有給休暇の時間数
- 端数の処理について
(労働基準法第39条第4項)
時効・買い上げについて
有給休暇の消滅時効は2年です。従って、本年に繰り越されるのは前年分の残日数です。
法律で付与される有給休暇分を、会社が買い上げること(一定の金銭を支払うことによって日数を減ずること)は、働く人が希望しても許されません。
- 法定を上回る有給休暇(例えば、時効にかかった未消化の有給休暇や企業独自の特別休暇)の買い上げは許されます(労使の自由)
- 働く人が退職時までに行使しなかった有給休暇を会社が買い上げることは許されます
計画的付与について
有給休暇取得率の向上と労働時間の短縮、あるいは長期連続休暇の実現を目的として、有給休暇のうち5日を超える部分について計画的付与ができることとなっています。
- 就業規則の定め
- 労使協定の締結
有給休暇取得時の賃金の扱い
有給休暇の期間については、以下のいずれかの支払いが必要です。
- 平均賃金
- 決められた労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金
- 健康保険の標準報酬日額(この場合は労使協定が必要)
いずれとするかは、就業規則に定められなければなりません。
曜日によって勤務時間の異なる時給制の場合の平均賃金は、以下の二通りの計算をして、金額の大きい方で支給します。
- 直近3ヶ月の賃金の総額を休日も含んだ日数で割る
- 直近3ヶ月の賃金の総額を労働日数で割った額の6割
不利益取扱いの禁止
有給休暇を取得した働く人に対して、賃金の減額等の不利益な取り扱い(例えば、精勤・皆勤手当や賞与の額の算定に際し有給休暇取得日を欠勤として取り扱うこと等)は許されません(労働基準法第136条)。
時期変更権について
働く人は、自由にいつでも有給休暇を取得でき、その使用目的も会社の関知するところではありません。ただし、「事業の正常な運営を妨げる」場合には、会社は他の時期に変更することができます。この場合には、その事由消滅後速やかに与えなければなりません。
退職にあたり残りの年次有給休暇を一括で取得(時期指定)した後に退職する場合のように、もはや他の時期に年次有給休暇を与える余地が無い場合、時期変更権を行使できません(年次有給休暇の取得を拒否できません)。
罰則
労働基準法第39条違反は6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金。
関連する法律条文
- 労働基準法第39条、第114条、第119条、第136条
- 労働基準法施行規則第24条の3、第25条
詳細について
以下のURLを参照してください。
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/dl/140811-3.pdf
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/faq_kijyungyosei06.html
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