職場トラブル解決ガイド
17. 高齢者雇用(定年後の継続雇用制度)
法律上の重要なポイント
法改正(2021年4月1日施行)により、65歳までの雇用確保が義務づけられたことに加え、65歳から70歳までの就業機会の確保が努力義務となり、さらなる高年齢者就業確保措置を講じることが企業に求められるようになりました。
詳しい解説
高年齢雇用安定法の継続雇用制度について
高年齢者雇用安定法は、公的年金の支給開始年齢の引き上げも踏まえて、65歳までの雇用確保措置を講ずることを会社に義務づけています。
定年年齢は60歳を下回ってはならず、企業は、以下のいずれかの措置を講じなければなりません。
- 定年の引上げ
- 継続雇用制度の導入
- 定年の廃止
さらに、2021年4月より施行されている改正高年齢者雇用安定法では、70歳までの就業確保が努力義務化されました。
なお、継続雇用を希望しない働く人は、60歳になったら定年退職をすることは可能であり、必ずしも65歳までの雇用を企業に対して義務づけるものではありません。
改正高年齢者雇用安定法における高年齢者就業確保措置について
法改正により、65歳から70歳までの就業機会を確保するための努力義務が課されるようになりました。その内容は以下のいずれかです。
雇用による措置
- 70歳までの定年引上げ
- 定年制の廃止
- 70歳までの継続雇用制度の導入
雇用以外の措置
- 70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
- 70歳まで継続的に事業に従事できる制度の導入
- 会社が自ら実施する社会貢献事業
- 会社が委託、出資(資金提供、事務所スペースの提供等)する団体が行う社会貢献事業
働く人の保護の観点からも、雇用による措置(継続雇用制度)が望ましく、創業支援等措置についても、導入に当たっては過半数労働組合等の同意を得ることが求められています。
高年齢者就業確保措置を講ずるに当たっての留意事項
上記の措置のうち、いずれかの措置を講じるのかは労使の十分な協議、高年齢で働く人のニーズに応じた措置を講じることが望ましいとされています。複数の措置を講じることも可能ですが、個々の高年齢者に配慮し、本人の希望を十分尊重することが重要であり、高年齢で働く人が従前と異なる業務を行う場合、研修や教育、訓練を必要に応じて行うことが望ましいとされています。
労使協定による対象者の基準設定の禁止
継続雇用制度を導入する場合に、過半数労働組合(ない場合は、過半数を代表する者)との労使協定により継続雇用制度の対象者の基準を設定することは認められません。
経過措置について
ただし、厚生年金の報酬比例部分は支給開始年齢に合わせた経過措置が設けられており、2012年の法改正前に基準を定めていた会社については、以下の適用が可能となっています。
- 2021年まで:63歳以上の人に対して継続雇用制度の対象者基準の適用
- 2024年まで:64歳以上の人に対して継続雇用制度の対象者基準の適用
継続雇用制度の再雇用先の企業の範囲
継続雇用制度の対象者を再雇用する企業は、自社に限らず、以下の企業も含まれます。
- 議決権の過半数を有する子会社
- 議決権の20%以上を有する関連企業
なお、グループ内の会社で従業員の継続雇用を行う際は、継続雇用の事前契約が必要です。
有期契約労働者への適用
雇用確保措置は、有期労働契約が繰り返され、実質的に定年制の対象となる働く人と同等に考えられる場合は、この対象となり得ると解されています。
継続雇用が会社に拒否された場合の相談対応
労働協約・就業規則等で、継続雇用制度がどのような内容となっているかを確認することが必要です。その上で、以下の対応が考えられます。
- 労働組合がある職場:労働組合に相談する
- 法的手続き:地位確認や損害賠償を求める労働審判や本訴
- 行政機関:労働委員会や労働局での斡旋
- 労働組合加入:地域ユニオンに加入した上での団体交渉
男女別定年は無効
なお、公的年金支給開始年齢の引き上げスケジュールは、女性は男性よりも5年遅れですが、このことを以て、定年年齢の引き上げを男性よりも女性を5年遅らせて実施することは、公序良俗に反し、男女雇用機会均等法にも抵触するので注意が必要です。
関連する法律条文
高年齢者雇用安定法第8条、第9条。高年齢者雇用安定法施行規則第4条の3。高年齢者雇用確保措置の実施及び運用に関する指針(令和2年厚生労働省告示第351号)
詳細について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/jigyounushi/page09_00001.html
職場トラブル解決ガイド一覧
- 1.退職の権利
- 2.労働基準法上の管理・監督者
- 3.労災保険
- 4.変形労働時間制
- 5.妊産婦保護、妊娠に伴う不利益取扱い
- 6.就業規則
- 7.労働者派遣と派遣会社・派遣先会社の責任
- 8.倒産と未払い賃金の立替払い
- 9.健康診断
- 10.休憩時間
- 11.有期労働契約から無期労働契約への転換
- 12.休業中の賃金
- 13.社会保険
- 14.妊娠・出産、育児休業等に関するハラスメント
- 15.セクシュアル・ハラスメント
- 16.いじめ、パワー・ハラスメント
- 17.高齢者雇用(定年後の継続雇用制度)
- 18.ストレスチェック
- 19.育児休業・介護休業
- 20.育児・介護休業取得に伴う不利益取扱い
- 21.パートタイム労働者の税金
- 22.求職者支援制度
- 23.雇用保険
- 24.一時金・退職金
- 25.業務上のミスに対する損害賠償責任
- 26.賃金支払と一部控除
- 27.最低賃金
- 28.割増賃金・固定残業代
- 29.みなし労働時間制(職場外)
- 30.みなし労働時間制(裁量労働制)
- 31.高度プロフェッショナル制度
- 32.年次有給休暇
- 33.解雇
- 34.雇用形態の違いによる不合理な待遇差禁止
- 35.有期労働契約の雇い止め
- 36.有期労働契約の中途解除
- 37.労働者代表選出と労使協定
- 38.求人票・求人広告と労働条件の明示
- 39.採用内定の取り消し・延期について
- 40.36協定と特別条項付き協定について