職場トラブル解決ガイド
25. 業務上のミスに対する損害賠償責任
法律上の重要なポイント
働く人にわざとやうっかりミスがある場合は、会社が働く人に損害の弁償を請求すること自体は違法ではありません。
しかし、会社は働く人の働きによって利益を上げており、業務上のリスクを働く人にすべて負担させることは不公平であり、働く人への責任追及が制限されるケースは多くあります。
詳しい解説
損害の弁償責任が発生するケース
働く人がわざと(故意)、あるいは通常であればするべきことをしなかった、してはならないことをしてしまったこと(過失)によって会社に損害を与えた場合は、その損害を弁償する責任が発生します。
具体例
- 業務上の指示に反する取引をして会社に損害を与えた
- 指示に反する操作をして機械を壊した
- 仕事中に不適切な言動をしたことにより会社がクレームを受けた
- 社内の機密情報や顧客情報をSNS等で公開し、会社がクレームを受けた
- 社用車を運転中に事故を起こし、第三者の身体や物品に損害を与え、会社が賠償金を支払った
働く人が負担すべき弁償額について
以下の事情を考慮して判断されます。
- 働く人本人の責任の程度
- 違法性の程度
- 会社が教育訓練や保険に加入するなどの損害を防止する措置を取っていたか
重要な注意点:
損害の弁償額は会社の言い値ではないので、請求額に納得がいかない場合は、直ちに支払いに応じないよう注意が必要です。
弁償金の給料からの控除について
会社は一方的に弁償金分を給料から差し引くことは法律違反となります(労働基準法第24条)。
また、「備品の損壊1回につき10,000円を働く人が弁償する」などの定額設定も禁止されています(労働基準法第16条)。
懲戒処分について
損害の弁償責任とは別に、会社の秩序に違反する行為について懲戒処分として減給の制裁を受けることがあります。
減給制裁の制限
- 1回の減給額:平均賃金の1日分の半額を超えてはならない
- 総額:一賃金支払期における賃金総額の10分の1を超えてはならない
減給制裁の注意点
- 1回の減給額とは、対象となる事案1件のこと
- 同一事案について数日間にわたって減給制裁を重ねることはできない
- 複数の事案について減給制裁を行う場合、その合計も制限の対象
働かない時間の取扱いについて
遅刻・早退など働かない時間に相当する賃金の減額(給料カット)は、労務の提供がない範囲であれば違法ではありません。
給料計算の端数の取扱いについて
遅刻・早退・欠勤等の端数処理:
5分の遅刻を30分としてカットするのは、25分分が違法となります(労働基準法第24条)。
就業規則による制裁として行う場合は合法とされます(労働基準法第91条)。
割増賃金計算における端数処理:
1ヶ月における残業等の合計に対して、30分未満切り捨て、30分以上切り上げは、違反にはなりません。
罰則について
- 労働基準法第24条、第91条違反:30万円以下の罰金
- 労働基準法第37条違反:6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金
関連する法律条文
労働基準法第16条、第24条、第37条、第91条
詳細について
以下のURLを参照してください。https://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/12/dl/s1211-13o10.pdf
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