職場トラブル解決ガイド
31. 高度プロフェッショナル制度
法律上の重要なポイント
高度プロフェッショナル制度(以下「高プロ制度」)は、職務の範囲が明確な高度専門職で高所得者を対象として、労働時間、休憩、休日・深夜の割増賃金等の規定を適用除外とする制度です(労働基準法第41条の2)。
詳しい解説
高プロ制度の概要
「高度の専門的知識を必要とし、その性質上従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められる業務」のうち省令で定める5業務を対象として、年収1,075万円以上かつ職務が明確に定められている働く人について、以下の手続きを経ることにより、労働基準法の労働時間、休憩、休日・深夜の割増賃金等の規定を適用除外とする制度です。
必要な手続き
- 事業場の労使委員会における決議(対象業務、健康管理時間の把握、休日確保、健康・福祉確保措置等の10項目)
- 労働基準監督署への決議の届出
- 書面による本人同意の取得
労使委員会について
次の事項を、委員の5分の4以上の多数により決議する必要があります。
決議事項
- 対象業務
- 対象となる働く人の範囲
- 健康管理時間の把握
- 休日の確保
- 選択的措置
- 健康・福祉確保措置
- 同意の撤回に関する手続き
- 苦情処理措置
- 不利益取扱いの禁止
- その他厚生労働省令で定める事項
重要な注意点
- 決議とその有効期間の定めは再度決議しない限り更新されません
- 労使委員会は、少なくとも6ヶ月に1回、労働基準監督署への定期報告時に開催されます
対象業務について
「高度の専門的知識を必要とし、その性質上従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められる業務」のうち省令で定める次の5業務です。
5つの対象業務
- 金融商品の開発業務
- 金融商品のディーリング業務
- アナリストの業務(企業・市場等の高度な分析業務)
- コンサルタントの業務(事業・業務の企画運営に関する高度な考案または助言の業務)
- 研究開発業務
業務の判断基準
- 対象業務は、部署が担当する業務全体ではなく、対象となる働く人に従事させることとする業務。
- 対象業務の語句(例:研究、開発)に対応する語句をその名称に含む部署(例:研究開発部)において行われる業務のすべてが対象業務に該当するものではなく、対象となる働く人が従事する業務で判断。
- 業務に従事する時間に関して会社から具体的指示を受けて行うものは対象外。
対象外となる指示の例
- 出勤時間の指定等始業・終業時間や深夜・休日労働等労働時間に関する業務命令や指示。
- 働く人の働く時間帯の選択や時間配分に関する裁量を失わせるような成果・業務量の要求や納期・期限の設定。
- 特定の日時を指定して会議に出席することを一方的に義務づけること。
- 作業工程、作業手順等の日々のスケジュールに関する指示。
可能な指示
- 会社が働く人に対し業務の開始時に当該業務の目的、目標、期限等の基本的事項を指示すること。
- 中途において経過の報告を受けつつこれらの基本的事項について所要の変更の指示をすること。
適用除外の効果が生じない場合
- 対象業務以外の業務を決議しても労働時間規制等の適用除外の効果は生じません。
- 会社が労働時間に関わる働き方についての業務命令や指示(実質的に働く人の裁量を奪うものを含む)を行った時から、労働時間規制等の適用除外の効果は生じず、法定労働時間・割増賃金等を適用。
対象となる働く人
会社との間の合意に基づき職務が明確に定められており、1年間に支払われると見込まれる賃金額が1,075万円以上の働く人です。
賃金額の計算について
- 支払われると見込まれる賃金には、個別の労働契約または就業規則等において、あらかじめ具体的な額をもって支払われることが約束されている賃金が含まれます。
- あらかじめ支払額が確定していないもの(成果に応じた賞与、転居によって変動する通勤手当、扶養人数によって変動する家族手当等)は含まれません。
対象となる働く人の要件
- 対象となる働く人は、対象業務に常態として従事していることが原則。
- 対象業務以外の業務にも常態として従事する人は対象外。
健康管理時間に基づく健康確保措置等
健康管理時間の把握
- 会社は、客観的な方法等(タイムカードやパソコンの使用時間の記録等)によって健康管理時間(事業場内にいた時間と事業場外において労働した時間)を把握。
- 自己申告による把握は、事業場外にいて勤怠システムにログイン・ログオフできないような例外的な場合に限定。
記録の開示:健康管理時間の記録について、会社は、対象となる働く人からの求めがあれば、開示する必要があります。
適用除外の効果が生じない場合:健康管理時間を把握していない場合、労働時間規制等の適用除外の効果は生じず、法定労働時間・割増賃金等を適用。
休日の確保
- 年間104日以上かつ4週間を通じ4日以上の休日確保を義務化。
- 労働基準法による年次有給休暇の年5日の時季指定義務は対象となる働く人も対象。
- 休日確保が不可能と確定した時から、労働時間規制等の適用除外の効果は生じず、法定労働時間・割増賃金等を適用。
選択的健康管理措置
次のいずれかを実施する必要があります。
- 勤務間インターバルの確保かつ深夜業の制限。
- 1ヶ月または3ヶ月当たりの健康管理時間の上限措置。
- 2週間連続の休日。
- 臨時の健康診断。
選択的措置を実際に講じていない場合は、労働時間規制等の適用除外の効果は生じず、法定労働時間・割増賃金等を適用。
健康管理時間の状況に応じた健康確保措置
次のいずれかを実施する必要があります。
- 選択的措置のうち当該措置として決議したもの以外の措置。
- 医師の面接指導。
- 代償休日または特別な休暇の付与。
- 心とからだの相談窓口の設置。
- 配置転換。
- 産業医の助言指導に基づく保健指導。
重要事項
- 健康・福祉確保措置の未実施は、行政指導の対象。
- 1週間当たりの健康管理時間が40時間を超えた場合におけるその超えた時間が1ヶ月当たり100時間を超えた人に対する医師の面接指導の義務があります(面接指導の義務の対象外の人から申出があった場合の面接指導は努力義務)。
- 休日確保、選択的措置、健康・福祉確保措置の実施状況は、6ヶ月以内ごとに労働基準監督署に報告。
本人同意と撤回について
同意の取得
会社は、対象となる働く人に高プロ制度を適用するには、決議に従い、対象となる働く人本人の同意を得なければなりません。
事前の書面明示事項
本人同意を得る時期・方法を決議で明らかにしたうえで、対象となる働く人本人にあらかじめ次の事項を書面で明示する必要があります。
- 制度の概要
- 労使委員会の決議の内容
- 同意した場合に適用される賃金制度・評価制度
- 同意しなかった場合の配置および処遇並びに同意しなかったことに対する不利益取扱いは行ってはならないこと
- 同意の撤回ができることおよび同意の撤回に対する不利益取扱いは行ってはならないこと
同意書の作成
その上で、制度が適用される旨、少なくとも支払われる賃金の額、同意の対象期間を明記した書面(同意書)に、対象となる働く人が署名する形で同意を取得します。
賃金額の保証
少なくとも支払われる賃金の額は、求められる水準を達成できない場合でも全額支払われ、業績や成果・成績、休暇や休業の取得等を理由とした減額は不可。制度の対象とすることで賃金が減らないようにすることが必要です。
職務記述書
また、職務の範囲に関して、業務の内容、責任の程度(職位等)、求められる水準(成果)を明記した書面(職務記述書)に、対象となる働く人が署名する形で同意を取得します。
同意の更新
無期労働契約または1年以上の有期労働契約の働く人は1年ごとに確認・更新することや、対象期間終了ごとに必要に応じて評価制度・賃金制度を見直し、本人同意を取得することが適当であるとされています。
同意の撤回
- 対象となる働く人は、いつでも同意を撤回できます。
- 会社による一方的な本人同意の解除はできません。
- 同意撤回の申出時から労働時間規制等の適用除外の効果は生じず、法定労働時間・割増賃金等を適用。
- 不同意および同意撤回を理由とした不利益取扱いを禁止。
罰則
対象となる働く人で、健康管理時間が省令で定めた時間(週40時間を超えた場合におけるその超えた時間が月100時間)を超えた働く人に対し、医師による面接指導を行わなかった場合は、50万円以下の罰金。
関連する法律条文
- 労働基準法第41条の2
- 労働基準法施行規則第34条の2
- 労働安全衛生法第66条の8の4、第120条
- 労働安全衛生法施行規則第52条の7の4
詳細について
以下のURLを参照してください。
https://www.mhlw.go.jp/content/11650000/001280508.pdf
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- 2.労働基準法上の管理・監督者
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