職場トラブル解決ガイド
33. 解雇
法律上の重要なポイント
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を乱用したものとして無効です(労働契約法第16条)。
労働基準法上の手続きとしては、少なくとも30日前にその予告をするか、予告をしないときは平均賃金の30日分以上の支払いが必要です(労働基準法第20条)。
詳しい解説
解雇、合意解約、辞職の違い
解雇 会社による一方的な労働契約の解約
合意解約 両当事者の合意に基づいて労働契約が終了すること
辞職 働く人の一方的な意思表示による労働契約の解約。期間の定めのない労働契約の場合、2週間前に申し入れればいつでも解約できます(民法第627条第1項)
重要な確認事項
いずれにあたるのかは、いつ、どこで、誰と、どのような状況での話なのかなど、事実関係をよく確認する必要があります。
退職勧奨と退職強要について
退職勧奨 働く人が自由意思で退職する気持ちになるよう誘いかける行為。合意解約の申し込みまたはその誘引に過ぎず、働く人は、勧奨に応じる義務はありません。
退職強要 社会通念を超えて違法性を帯びる場合は、「退職強要」となり、損害賠償の対象となる場合もあります。
解雇の種類
解雇は、以下の3つに大きく分けられます。
- 普通解雇
- 懲戒解雇
- 経済上の理由による解雇(整理解雇)
解雇権の乱用について
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は、権利を乱用したものとして無効です(労働契約法第16条)。
法令で定める解雇の禁止・制限
以下の解雇は法令で禁止され、無効となります。
基本的権利に関する禁止
- 国籍、信条または社会的身分を理由とする解雇(労働基準法第3条)
療養・出産に関する禁止
- 制限期間中の解雇(労働基準法第19条)
- 業務上の傷病のため療養する期間およびその後30日間
- 産前産後の休業期間およびその後30日間
申告・通報に関する禁止
- 申告を理由とする解雇その他の不利益な取り扱い(労働基準法第104条、労働安全衛生法第97条、賃金確保法第14条、じん肺法第43条の2)
妊娠・出産に関する禁止
- 女性の結婚、妊娠、出産または産休を理由とする解雇(男女雇用機会均等法第9条)
育児・介護に関する禁止
- 育児・介護休業の申し出または育児・介護休業をしたこと(子の看護休暇を含む)を理由とする解雇(育児・介護休業法第10条、第16条、第16条の4,第16条の7)
労働組合活動に関する禁止
- 労働組合活動を理由とする解雇=不当労働行為(労働組合法第7条)
その他の禁止
- 労働協約、就業規則に違反する解雇
- 信義則・権利の乱用・公序良俗に反する解雇(民法第1条、第90条)
例外的な場合
以下の場合は制限が適用されません。
- 療養補償を受ける働く人が、療養開始後3年を経過しても傷病が治癒せず、会社が1,200日分の平均賃金を打切補償として支払った場合
- 天災事変などで事業の継続が困難になったとき
整理解雇の4要件
会社の業績悪化や企業規模の縮小など、経済上の都合による人員整理に伴う解雇である整理解雇の場合、働く人には理由のない解雇であることから、裁判例では次の4つの要件が満たされているかを判断基準としています。
- 人員削減の必要性 会社の維持・存続を図るために人員整理が必要で、かつ最も有効な手段であること
- 解雇回避努力 新規採用の中止、希望退職の募集、一時帰休の実施などの努力をした上での解雇であること
- 被解雇者選定の合理性 解雇対象者の選定基準の公正・合理性、基準が合理的・公正なもので、その進め方も合理的・公正であること
- 説明・協議などの手続き 解雇の必要性、解雇回避の方法、時期、規模・方法・基準などについて十分説明をし、納得を得られるように協議をした上での解雇であること
解雇予告制度(解雇予告手当の支払い)
会社は、働く人を解雇しようとする場合には、少なくとも30日前にその予告をしなければなりません。30日前に予告をしない場合は、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければなりません。
予告期間の短縮
なお、1日について平均賃金を支払った場合には、その日数を短縮することができます(たとえば、20日前に予告し10日分以上の平均賃金を支払う)。
重要な注意点
ただし、上記の手続きを踏んだからといって、解雇は自由に行えるわけではありません。
また裁判上は労働基準法第114条による付加金と判決確定の翌日から法定利率による遅延損害金の請求もできます。
解雇予告制度の例外と解雇予告除外認定
例外対象者
上記の解雇予告制度は、以下の人については適用されません。
- 日々雇い入れられる人
- 2ヶ月以内の期間を定めて働く人
- 季節的業務に4ヶ月以内の期間を定めて働く人
- 試用期間中の人
ただし、それぞれ一定期間を超えて引き続き働くに至った場合は、適用されることになります。
予告なし解雇が可能な場合
以下の場合には、労働基準監督署の解雇予告除外認定を受けて、予告なしに解雇することができます。
- 天災事変その他やむを得ない事由により事業の継続が不可能となった場合
- 働く人の責任による事由により解雇する場合
なお、両者の取り扱いについての認定基準が定められています。
解雇理由の明示
働く人に解雇を予告した場合に、働く人が解雇の理由について証明書を請求した時は、会社は遅滞なく証明書を交付しなければなりません(労働基準法第22条)。
懲戒解雇について
懲戒解雇とは、懲戒処分として行われる解雇です。会社は、懲戒処分を行うには、就業規則上の根拠が必要です。
懲戒解雇の要件
裁判例などでは、就業規則に規定があっても、以下が必要とされます。
- 処分対象となる働く人の行為の性質と処分との相当性
- 先例を踏まえた平等取り扱い
- 適正な手続き
働く人の行為の性質および態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない懲戒処分は、権利乱用として無効です(労働契約法第15条)。
そのため、懲戒解雇の相談に対しては、懲戒解雇の要件が満たされているか否かを、確認する必要があります。
雇用保険の受給日数の違い
雇用保険の失業手当の受給日数は、退職理由によって異なり、自己都合の退職になると、給付の受給時期が、会社都合による退職や解雇の場合よりも2ヶ月遅れます。
対応方法
解雇なのに、「自己都合退職」扱いにされたような場合には、以下の方法が考えられます。
- 会社に退職理由の書き直しを求める
- ハローワークに解雇理由を確定できる資料を持って出向く
不当な解雇への対応
解雇通告に納得がいかない場合、以下の手順で対応してください。
- 解雇理由の明確化 まず、解雇理由を文書などで明らかにさせる
- 意思表示 口頭か文書で、解雇は了解できない旨を通告
- 解雇予告手当の扱い 解雇予告手当を一方的に支払ってきた場合でも、給料分として受領した旨を明示しておく
- 法的手続き その上で解雇の不当性を主張し、以下を活用できます。
- 裁判所への申し立て
- 労働局・労働委員会の活用
- 労働組合の活用 できるだけ早い時期に労働組合が介在して経営側と交渉することが望ましいです。
罰則
労働基準法第3条、第19条、第20条、第104条違反は6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金。
関連する法律条文
労働基準法第3条、第19条、第20条、第21条、第22条、第75条、第104条、第119条 労働基準法施行規則第7条 労働契約法第15条、第16条 労働安全衛生法第97条 労働組合法第7条 賃金確保法第14条 じん肺法第43条の2 男女雇用機会均等法第9条 育児・介護休業法第10条、第16条、第16条の4、第16条の7 民法第1条、第90条、第627条第1項
詳細について
以下のURLを参照してください
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudouseisaku/chushoukigyou/keiyakushuryo_rule.html
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