職場トラブル解決ガイド
24. 一時金・退職金
法律上の重要なポイント
就業規則等で規定や職場慣行があり、その要件に該当する場合には、一時金・退職金を支払う義務が生じます。
詳しい解説
退職の届出について
労働契約の期間に定めのない従業員からの労働契約解除・解約(退職)は、原則として告知から2週間後の時点でその効力が生じます(民法第627条)。
退職時の年次有給休暇消化について
退職時の残っている年次有給休暇のまとめ取りは違法とはなりません。
労働条件の明示について
労働基準法第15条で、労働契約に際し、退職に関する事項も文書で明示が義務づけられているので、必ず退職金の有無の確認をしてください。
就業規則等で内容確認
労働基準法では、賞与も賃金である(第11条)という規定以外に、賞与(一時金)・退職金についての定めはありません。
従って、雇用契約の際にどのような取り決めをしているかが具体的な支払の根拠となり、契約に違反した場合においてのみ、違反行為となります。そのため、具体的な支給内容や条件を確認することが必要です。
退職金の切り下げについて
退職金規程が知らないうちに不利益変更され、規定どおり支払われない事例がありますが、裁判では満額確保が通常となっています。証拠のためにも古い退職金規定は必ず保存してください。
倒産による退職金の不払いについて
倒産で退職金が支払われない場合は、未払い賃金の立替払い制度を活用できます。
退職金規程がない場合
退職金制度を設けるか否かは、会社の裁量に委ねられている事項です。従って定めがないのであれば、法律上は退職金を支払う必要がありませんが、以下の場合は対応が必要です。
- 求人広告等に記載されている場合:募集の際、求人広告等に書かれている場合は虚偽の条件で募集をした問題として会社と交渉し解決を迫る必要があります。
- 職場慣行がある場合:従来から退職に際して、それなりの額の退職金を支払ってきた場合(労使慣行)は退職金を支給することが労働契約の内容とされた裁判例があります。
7日以内の金品の返還と退職金の取り扱い
働く人の死亡または退職の場合、権利者が請求した場合には、7日以内に賃金を支払い、および働く人の権利に属する金品(社内預金等)を返還しなければなりません(労働基準法第23条)。
しかし退職金は通常の賃金ではないので、請求があっても、あらかじめ就業規則等で定められた支払時期に支払っても違法ではありません。
全額払いと相殺について
退職金からの控除についても労働基準法第24条の適用がありますが、その控除が民法上の相殺に該当する場合には、その額の4分の1までしか相殺できません(民法第510条、民事執行法第152条)。
時効について
賃金支払請求権の消滅時効期間は2年間ですが、退職金支払請求権は5年間です(労働基準法第115条)。
遅延損害金と付加金
時効前であれば退職日以降に支払日がある賃金(退職金を除く)の未払いについては、裁判上は支払日以降の期間について、年利14.6%の遅延損害金の請求ができ、また残業等の未払いについては、労働基準法第114条による付加金も請求できます。
改正労働基準法について
改正労働基準法では、賃金支払い請求権の消滅時効期間は5年とされ、経過措置として当面の間(施行日の2020年4月1日から5年)は3年とされています。
一時金支給日に在籍していない場合
一時金については、賃金の一部と見なされるので、支払時に働いていなくても、計算期間中に勤務していれば請求することができます。
注意点:ただし、労働協約、就業規則で一時金の支払は「支払い時在籍者のみ」と規定している場合があるので注意が必要です。
企業業績による不支給
最近は「企業業績が悪いので一時金は出さない」という場合も多くみられますが、それ自体は契約違反とはなりません。このような場合は労働組合との交渉事項となります。
退職時の証明と書面の交付
退職時において以下について働く人が請求した場合、書面で交付しなければなりません。
- 使用期間
- 業務の種類
- 地位
- 賃金
- 退職の事由(解雇の場合にはその理由を含む)
禁止事項
請求しない事項を記載したり、ブラックリストの回覧等、計画的な就業妨害は禁止されています(労働基準法第22条)。
関連する法律条文
労働基準法第11条、第15条、第22条、第23条、第24条、第114条、第115条
民法第510条、第627条
民事執行法第152条
賃金確保法第6条
詳細について
以下のURLを参照してください。
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/03/4-2.html
職場トラブル解決ガイド一覧
- 1.退職の権利
- 2.労働基準法上の管理・監督者
- 3.労災保険
- 4.変形労働時間制
- 5.妊産婦保護、妊娠に伴う不利益取扱い
- 6.就業規則
- 7.労働者派遣と派遣会社・派遣先会社の責任
- 8.倒産と未払い賃金の立替払い
- 9.健康診断
- 10.休憩時間
- 11.有期労働契約から無期労働契約への転換
- 12.休業中の賃金
- 13.社会保険
- 14.妊娠・出産、育児休業等に関するハラスメント
- 15.セクシュアル・ハラスメント
- 16.いじめ、パワー・ハラスメント
- 17.高齢者雇用(定年後の継続雇用制度)
- 18.ストレスチェック
- 19.育児休業・介護休業
- 20.育児・介護休業取得に伴う不利益取扱い
- 21.パートタイム労働者の税金
- 22.求職者支援制度
- 23.雇用保険
- 24.一時金・退職金
- 25.業務上のミスに対する損害賠償責任
- 26.賃金支払と一部控除
- 27.最低賃金
- 28.割増賃金・固定残業代
- 29.みなし労働時間制(職場外)
- 30.みなし労働時間制(裁量労働制)
- 31.高度プロフェッショナル制度
- 32.年次有給休暇
- 33.解雇
- 34.雇用形態の違いによる不合理な待遇差禁止
- 35.有期労働契約の雇い止め
- 36.有期労働契約の中途解除
- 37.労働者代表選出と労使協定
- 38.求人票・求人広告と労働条件の明示
- 39.採用内定の取り消し・延期について
- 40.36協定と特別条項付き協定について