職場トラブル解決ガイド
16. いじめ、パワー・ハラスメント
当時の状況をできる限り詳しく記録し、証拠の確保をしてください。
法律上の重要なポイント
いじめやパワハラは人格権侵害の不法行為であり、こうした行為に対しては、加害者だけではなく、会社も安全配慮義務を怠ったとして責任が問われる場合があります(労働契約法第5条)。
さらに、労働施策総合推進法(通称「パワハラ防止法」)により、企業の規模に関係なく、会社はパワハラ防止のために雇用管理上必要な措置を講じなければなりません。
詳しい解説
職場におけるパワハラとは
職場におけるパワハラとは、以下の3つの要素をすべて満たすものを指します。
- 優越的な関係を背景とした
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により
- 職場環境を害すること(身体的もしくは精神的な苦痛を与えること)
この定義においては、上司から部下に対するものに限らず、職務上の地位や人間関係(顧客や取引先等)といった「職場内での優位性」を背景にする行為も該当します。また、業務上必要な指示や注意・指導が行われている場合には該当せず、「業務の適正な範囲」を超える行為が該当することを定めています。
パワハラの類型
- 身体的な攻撃:暴行・傷害
- 精神的な攻撃:脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言
- 人間関係からの切り離し:隔離・仲間外し・無視
- 過大な要求:業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害
- 過小な要求:業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと
- 個の侵害:私的なことに過度に立ち入ること
会社が取らなければならない措置
労働施策総合推進法により、会社は以下の措置を取ることが義務となります。
- 相談体制の整備:働く人からの相談に対し、適切に対応するために必要な体制を整えること(同法第30条の2第1項)
- 不利益取扱いの禁止:相談を行った働く人に対して解雇等の不利益な取り扱いをしないこと(同法第30条の2第2項)
- 研修の実施:働く人がパワハラを行わない、パワハラに対して関心や理解を深めるために研修を実施すること(同法第30条の3第2項)
- 会社自らの注意義務:会社(会社の役員等)自らも、働く人に対する言動に必要な注意を払うこと(同法第30条の3第3項)
民法の不法行為責任について
民法第709条は、故意・過失によって他人の権利・法律上保護される利益を侵害した者は損害賠償責任を負うと定めています。また民法第715条は、会社に対して、相当の注意をしていた場合を除き、従業員が第三者に与えた場合の損害賠償責任を定めています。
ただし、どのような行為が違法性を問われるかは、一律に基準があるわけではなく、ケース・バイ・ケースで判断されます。パワハラやいじめが人事権の行使を伴う形で行われている場合、判例では、以下の3つの基準をもとに、その違法性が判断されています。
- 業務上の必要性:業務命令が業務上の必要性に基づいていない
- 命令の真の目的:外見的には業務上の必要性があるようでも、その業務命令の目的が退職強要等にある
- 不利益の程度:その業務命令が通常受け入れるべき程度を著しく超える不利益(肉体的、精神的苦痛を含む)を与えること
労働契約法の安全配慮義務
労働契約法第5条は、会社に対して、働く人が生命、身体等の安全を確保しつつ労働できるよう配慮義務(安全配慮義務)を課しています。したがって、会社にはいじめ、パワハラ等の行為の防止策を講じる義務があります。これを怠った場合には、会社は損害賠償責任が問われる場合があります。
対応手段について
- 記録と証拠の確保:状況をできる限り詳しく記録し(いつ、どこで、誰に、何をされたか等)、証拠を確保してください。
- 書面による要求:書面(内容証明)で加害者に対する行為の中止、会社に対する再発防止策を求めてください。
- 外部機関への相談:職場内部での解決が困難な場合は、以下を検討してください。
- 行政の窓口(労働局、法務局)
- 労働委員会
- 仮処分
- 労働審判申し立て
- 労災給付の検討:いじめ、パワハラ等が原因で肉体的、精神的疾病を発症した場合は、労災給付の可能性があるので、診断を踏まえ労働基準監督署等に相談してください。
相談先について
- 会社の相談窓口
- 労働組合
- 都道府県労働局
- 法務局人権擁護部
- 弁護士
関連する法律条文
労働施策総合推進法第30条の2第1項、第30条の2第2項、第30条の3第2項、第30条の3第3項。労働契約法第5条。民法第709条、第715条。
詳細について
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001ioii-att/2r9852000001ioo3.pdf
職場トラブル解決ガイド一覧
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