職場トラブル解決ガイド
8. 倒産と未払い賃金の立替払い
法律上の重要なポイント
「未払い賃金の立替払い制度」は、企業が倒産したために賃金が支払われないまま退職した働く人に対して、その未払い賃金の一定範囲について、独立行政法人労働者健康安全機構が会社に代わって立替払いする制度です(賃金確保法第7条)。
詳しい解説
対象となる倒産について
倒産は、以下の2つに分類されます。
- 法律上の倒産。破産、会社更生、民事再生、会社整理、特別清算
- 事実上の倒産。私的整理(中小企業のみ)
法律上の倒産の場合
労災保険の適用事業で1年以上事業活動を行ってきた事業主(法人・個人を問わない)が、法律上の手続きをとって倒産した場合が対象です。
事実上の倒産の場合(中小企業のみ)
事業活動が停止し、再開する見込みがなく、かつ賃金支払能力がない状態になったことについて労働基準監督署長の認定があった場合が対象です。
「常時使用する従業員数」の判断基準
- 在籍出向者。出向元・出向先、両方の従業員数に算入
- 移籍出向者(転籍者)。出向先の従業員数に算入
- 派遣社員。派遣会社の従業員数に算入
対象となる働く人
- 企業の倒産に伴い退職し、未払い賃金が残っていること(ただし未払い賃金の総額が2万円未満の場合は立替払いを受けられません)
- 倒産について、裁判所や労働基準監督署長に申し立てた日から起算して6ヶ月前の日以後2年間の期間内に退職していること
対象となる未払い賃金の範囲
退職日の6ヶ月前の日からの定期賃金または退職手当の未払い分です。
定期賃金とは
毎月一定期日に決まって支払われる賃金(税金、社会保険料など法定控除前の額)。毎月の賃金から控除されている社宅料や貸付金返済金は、未払い賃金から除かれます。
退職手当とは
退職手当規程に基づいて支給される退職一時金および退職年金です。
立替払いの限度額
立替払いされる額は、未払い賃金の総額の80%相当額であり、退職日における年齢に応じて上限額が定められています。
年齢別の上限額
- 45歳以上。未払い賃金の上限額370万円、立替払いの上限額296万円
- 30歳以上45歳未満。未払い賃金の上限額220万円、立替払いの上限額176万円
- 30歳未満。未払い賃金の上限額110万円、立替払いの上限額88万円
請求手続きについて
法律上の倒産の場合
- 裁判所・破産管財人等証明者に立替払い請求の必要事項についての証明を申請(証明が得られなかった場合は労働基準監督署長に確認申請)
- 証明書の交付後、独立行政法人労働者健康安全機構に立替払い請求書を提出
事実上の倒産の場合(中小企業のみ)
- 労働基準監督署長に事実上の倒産について認定を申請(立替払い請求者が2名以上いる場合はうち1名が認定を受ければ十分)
- 認定通知書交付後、労働基準監督署長に立替払い請求の必要事項について確認を申請
- 認定確認書の交付後、独立行政法人労働者健康安全機構に立替払い請求書を提出
請求期間
裁判所が破産等について決定した日または労働基準監督署長が認定した日の翌日から起算して2年以内です。
船員の場合
船員(船員法第1条)の場合は、立替払い請求書の提出先は地方運輸局になります。
賃金債権について
立替払いを受けた場合、働く人の賃金債権は独立行政法人労働者健康安全機構が立替払い金に相当する額について代位取得し、本来の支払責任者である会社に求償することになります。
倒産のきざしがある場合の対策
- 労働組合をつくる
- 働いた日の認定のためタイムカードのコピーや、手帳やカレンダー等に労働日と労働時間を記しておく
- 未払い賃金の金額確定のため過去の給料明細書を保存しておく
- 賃金の遅配・欠配・未払いが発生した時は、会社から未払い証明書(社印のあるもの)をもらっておく
- 賃金や労働条件に関する書類を整備しておく
倒産した場合の対応
- 労働組合をつくる
- 倒産でも無条件に解雇は認められず、合理的理由が必要。偽装や計画倒産等雇用を不当に奪う要素があれば認められない
- 解雇予告か予告手当の手続きは当然に必要
- 職場や施設、資材、商品を確保する
- 外部の債権者が混乱に乗じて、会社財産を持ち出さないよう働く人が結束して泊り込み体制(24時間)で監視する
- 実力で債権者が持ち出そうとする時は窃盗として警察を呼ぶ
関連する法律条文
賃金確保法第7条
詳細について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000122751_00003.html
職場トラブル解決ガイド一覧
- 1.退職の権利
- 2.労働基準法上の管理・監督者
- 3.労災保険
- 4.変形労働時間制
- 5.妊産婦保護、妊娠に伴う不利益取扱い
- 6.就業規則
- 7.労働者派遣と派遣会社・派遣先会社の責任
- 8.倒産と未払い賃金の立替払い
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- 10.休憩時間
- 11.有期労働契約から無期労働契約への転換
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- 40.36協定と特別条項付き協定について