職場トラブル解決ガイド
3. 労災保険
法律上の重要なポイント
労災保険は、原則としてすべての産業・すべての事業所が強制加入となっており、雇用の形態に関係なく、雇われているすべての人が対象となります(労災保険法第3条)。
仕事中や通勤中に働く人がケガをしたり、病気にかかったりした場合などに、本人やその家族に対して決められた保険給付を行う制度です。
詳しい解説
強制加入について
労災保険は、1人でも従業員を雇っている事業所は、事業を始めた時点から強制的に加入することが原則となっています(例外:農水産業のうち5人未満の個人経営の事業などは任意加入)。保険料は全額会社が負担します。
働く人の定義について
労働基準法第9条では「労働者とは、職業の種類を問わず、事業場で働き、賃金を受け取る人をいう」と定められています。そのため、派遣社員やパートタイマーはもちろん、学生アルバイトも働く人に含まれます。
また、建築関係などの個人事業主や中小企業の経営者も、一定の条件を満たせば特別に加入することができます(労災保険法第33条~第36条)。
労働災害の認定について
労働災害かどうかは、「業務遂行性」と「業務起因性」があったかどうかで判断されます。
業務遂行性とは、働く人が労働契約に基づいて会社の管理下(指示・命令を受ける状態)にあることを指します。
業務起因性とは、ケガ・病気・死亡と業務の間に因果関係があるかどうかで判断されます。例えば、仕事中であっても同僚との個人的なケンカでケガをした場合には、業務起因性があるとは認められません。あくまでも仕事が原因であることがポイントです。
精神的な病気の場合
うつ病などの精神的な病気については、「心理的負荷による精神障害の認定基準」(2011年12月)に基づいて判断されます。
主なポイントは以下の通りです。
- 心理的負荷評価表(ストレスの強さを測る表)を設定
- いじめやセクシュアル・ハラスメントのように繰り返される出来事については、その開始時からのすべての行為を対象としてストレスを評価
- 精神科医による合議での判定を、判断が難しい案件のみに限定
申請手続きについて
労働災害の申請は、医師の診断書など必要な書類を添えて、ケガをした本人または家族が労働基準監督署に請求します(請求内容によって書式が労働基準監督署に用意されています)。通常は、会社が労働基準監督署に代理で申請しますが、これは手続きを代行しているだけです。
会社が証明を拒否する場合もありますが、その場合には会社の証明印がなくても、本人または家族が労働基準監督署へ申請することができます。
過労死の認定について
仕事の過重さやパワハラ、違法な業務を命じられたなど具体的な出来事によって、その強さの基準が示されています。
長時間労働による過労死については、残業時間の長さで判断されます。
- 発症前1ヶ月間におおむね100時間の残業
- 2ヶ月間から6ヶ月間にわたって1ヶ月当たりおおむね80時間を超える残業
これらの状況が認められると、業務と発症の関連性が強いと評価されます。
また、基準が見直され(2021年9月14日)、上記の時間に達しなかった場合でも、これに近い残業を行った場合には、労働時間以外の負担要因(休日のない連続勤務、勤務間の休憩時間が短い勤務、出張を伴う業務、心理的・身体的負担を伴う業務など)の状況も十分考慮し、業務と発症との関係が強いと評価できることが明確化されました。
労働時間の把握について
労働時間の把握は会社の義務です。ただし、自己防衛として、時間管理をしない事業所の場合、普段から自分で手帳やパソコンで出退勤について記録しておくことが必要です。
解雇制限の原則
会社は、働く人が仕事中にケガをしたり病気にかかったりして療養のために休んでいる期間とその後30日間は、その人を解雇できません(労働基準法第19条1項)。この解雇制限は通勤災害には適用されません。
長期療養の場合
療養開始から3年経過しても治らない場合において、労働基準法第81条に基づいて打切補償(平均賃金の1,200日分)が支払われたときは、解雇制限が解除されます(労働基準法第19条第1項、第81条)。
なお、療養開始から3年経過時点で傷病補償年金を受けている場合には3年経過の時点で、療養開始から3年以上経過してから傷病補償年金を受けることになった場合は年金を受けることになった時点で、上記の打切補償が支払われたものとみなされ、解雇制限は解除されます(労災保険法第19条)。
詳細な給付内容と手続きについて
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/rousai/gaiyou.html
関連する法律条文
労働基準法第19条第1項、第81条。労災保険法第3条、第19条、第33条~第36条
職場トラブル解決ガイド一覧
- 1.退職の権利
- 2.労働基準法上の管理・監督者
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- 4.変形労働時間制
- 5.妊産婦保護、妊娠に伴う不利益取扱い
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- 7.労働者派遣と派遣会社・派遣先会社の責任
- 8.倒産と未払い賃金の立替払い
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