職場トラブル解決ガイド
12. 休業中の賃金
法律上の重要なポイント
会社の責任による理由で休業する場合は、休業期間中は少なくとも平均賃金の60%以上の休業手当を支払わなければなりません(労働基準法第26条)。
全額請求できる場合もあります(民法第536条第2項)。
詳しい解説
休業について
労働基準法第26条による休業とは、労働契約上働く義務がある時間について、働く人が労働できなくなることで、集団的休業、個々人の休業もあります。
また、丸1日の休業だけでなく、1労働日の決められた労働時間の一部のみの休業もあります。
平均賃金について
労働基準法上の平均賃金とは、計算事由が発生した日以前3ヶ月間にその働く人に支払われた賃金の総額(残業代や通勤手当を含む)を、その期間中の総日数(暦日数)で除した金額を原則としています。
なお、日給・時給制などの場合の最低保障、現物給与、計算期間から除くべき期間・日数・賃金など、その取り扱いが労働基準法施行規則・告示により詳細に定められています(労働基準法第12条)。
休業中の賃金請求権について
- 休業の責任が労使ともにない場合:天災事変などの不可抗力に該当する場合等、働く人は休業中の賃金の請求権はありませんが、就業規則、労働協約等の定めに従うことになります。
- 休業の責任が会社にある場合:民法第536条第2項により、会社の「責任による事由」がある休業の場合には、働く人は休業中の賃金を全額請求できます。
ここでいう「責任による事由」は、不当解雇などによる本来支払われるべき賃金を想定しています。
労働基準法第26条の趣旨
働く人の最低生活保障のための規定であり、会社の民事上の賃金支払義務を減額する趣旨ではありません。
「責任による事由」は天災事変などの不可抗力に該当しない限りこれに含まれ、以下の場合でも会社は休業手当を支払う必要があります。
- 機械の検査
- 原材料の欠乏
- 流通機構の不円滑による資材入手難
- 監督官庁の勧告による操業停止
- 親会社の経営難のための資金・資材の獲得困難
- 自治体の休業要請
休業期間中の決められた休日
休業期間中に含まれる決められた休日は休業手当を支払うべき日数から除かれます。
決められた労働時間より短い場合の取り扱い
月給制の場合:週のある日の決められた労働時間が短く定められていても、その日の休業手当は平均賃金の1日分の60%以上の額でなければなりません。
半日休業や1日の一部の休業:半日や1日の一部のみ休業した場合にも、その日1日分について休業手当を支払う必要があります。
現実に労働した時間に対して支払われる賃金が休業手当に満たない場合には、その差額の支払いが必要です。
健診結果に基づく休業・短時間労働:労働安全衛生法第66条による健康診断の結果に基づくもので、不当な取り扱いでない限り、休業手当支払いの問題は生じません(通常の病欠扱い)。
日給制・週給制の場合:休業手当は日割りで計算し、平均賃金の60%の支払いが必要です。
休業中の賃金未払いへの対処
不況を理由とした生産調整のための休業(一時帰休、自宅待機等)は、会社に責任のある休業なので賃金全額の請求が可能です。
ただし、労働協約で6割支給とされている場合は注意が必要です。
また、雇用調整助成金が支給されているケースもあり、その場合は原資があると見なされます。
会社に責任のない休業の場合の救済
- 労働災害:労災保険法の休業補償給付
- 私傷病:健康保険法の傷病手当金
裁判での請求について
労働基準法第26条の未払い休業手当がある場合、裁判で同額の付加金を請求でき、さらに遅延損害金も請求できます(労働基準法第114条)。
罰則
労働基準法第26条違反は30万円以下の罰金です。
関連する法律条文
労働基準法第12条、第26条、第114条、第120条
労働基準法施行規則第3条、第4条 昭24労告5号
民法第536条第2項
詳細について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000154476.html
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