職場トラブル解決ガイド
26. 賃金支払と一部控除
法律上の重要なポイント
賃金支払の5原則が定められており、賃金からの一方的な控除は全額払いの原則に反し許されません。
適法に行うには控除に関する協定の締結が必要です(労働基準法第24条)。
詳しい解説
賃金支払の5原則、未払い賃金の請求権の消滅時効と記録の保存について
賃金支払の5原則
賃金は、以下の5つの原則に従って支払わなければなりません(労働基準法第24条)。
- 通貨で
- 直接本人に
- 全額を
- 毎月
- 一定期日に
未払い賃金の請求権の消滅時効
未払いがあった場合の賃金請求権の消滅時効は以下の通りです(労働基準法第115条)。
- 2020年4月1日以降に支払われるはずであった賃金:当面の間3年
- それよりも前に支払われるはずであった賃金:2年
記録の保存義務
会社は、賃金台帳などを作成して3年間保存する義務があります(労働基準法第109条)。
控除について
ここでいう控除とは、支払い期日が来ている賃金債権について、その一部を支払わない(減らす)ことです。
控除に当たらない例
例えば、本人の申し入れに応えて給料の前払い(すでに履行済みの債権となる)をし、それを翌月の給料から天引きして支払うことは控除に当たりません。
控除に関する協定について
過半数労働組合(ない場合は過半数を代表する人)との間で協定を締結した場合にのみ、賃金からの控除ができます。この場合、控除の対象となる項目を具体的に明記する必要があります。
口座振込について
個々の働く人の同意が必要です。退職手当についても、本人の同意のもとで口座振込・小切手払いが認められています。
賃金のデジタル払いについて
働く人の同意が必要です。送付先は、厚生労働大臣の指定を受けた資金移動業者の口座に対してのみ認められます。
代理人・使者への支払いについて
働く人が委任したとしても「代理人」への支払いは許されません(代理人が働く人の債権者の場合が想定されるため)。
しかし、本人が病気で出社できない場合などで家族が「使者」として受領することはできます。
現物給与について
労働協約による定めが必要です。また、その評価額を労働協約中に定めるとともに、平均賃金に含めることが必要となります。
賃金等の支払明細書発行義務について
労働基準法には、賃金明細等の支払明細書を渡さなければならないとは記載されていませんが、所得税法第231条においてその発行を義務付けています。
違反した場合の罰則
発行を怠った場合、もしくは虚偽の記載をした際には会社に対する罰則があります。
- 1年以下の懲役または20万円以下の罰金(所得税法第242条)
関連する法律条文
- 労働基準法第24条、第109条、第115条
- 労働基準法施行規則第7条の二第3項
- 所得税法第231条、第242条
詳細について
以下のURLをご参照ください。
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/faq_kijyungyosei05.html
職場トラブル解決ガイド一覧
- 1.退職の権利
- 2.労働基準法上の管理・監督者
- 3.労災保険
- 4.変形労働時間制
- 5.妊産婦保護、妊娠に伴う不利益取扱い
- 6.就業規則
- 7.労働者派遣と派遣会社・派遣先会社の責任
- 8.倒産と未払い賃金の立替払い
- 9.健康診断
- 10.休憩時間
- 11.有期労働契約から無期労働契約への転換
- 12.休業中の賃金
- 13.社会保険
- 14.妊娠・出産、育児休業等に関するハラスメント
- 15.セクシュアル・ハラスメント
- 16.いじめ、パワー・ハラスメント
- 17.高齢者雇用(定年後の継続雇用制度)
- 18.ストレスチェック
- 19.育児休業・介護休業
- 20.育児・介護休業取得に伴う不利益取扱い
- 21.パートタイム労働者の税金
- 22.求職者支援制度
- 23.雇用保険
- 24.一時金・退職金
- 25.業務上のミスに対する損害賠償責任
- 26.賃金支払と一部控除
- 27.最低賃金
- 28.割増賃金・固定残業代
- 29.みなし労働時間制(職場外)
- 30.みなし労働時間制(裁量労働制)
- 31.高度プロフェッショナル制度
- 32.年次有給休暇
- 33.解雇
- 34.雇用形態の違いによる不合理な待遇差禁止
- 35.有期労働契約の雇い止め
- 36.有期労働契約の中途解除
- 37.労働者代表選出と労使協定
- 38.求人票・求人広告と労働条件の明示
- 39.採用内定の取り消し・延期について
- 40.36協定と特別条項付き協定について