「診断書がなければ話を聞かない」とされたケースで、診断書と退職通知書を送付し退職手続が成立した事例
- 2025.06.02
- 2025.06.02
| 実行日 | 2025年6月 |
|---|---|
| 組合員 | Oさん |
| 年齢 | 20代 |
| 地域 | 愛知県 |
| 職種 | 歯科衛生士 |
| 雇用形態 | 正社員 |
| トラブル種別 | 退職拒否事案 |
1.相談に至るまでの経緯
Oさんは、歯科衛生士として正社員で勤務していました。
精神的な体調不良を理由に退職を希望し、その意思を会社へ伝えようとしましたが、会社はOさんの申出を取り合わず、次のように告げました。
「診断書がない限り、一切話は聞かない」
会社が診断書の提出を退職の話に応じる条件としていたため、Oさんだけでは退職手続を進めにくい状況となっていました。
そこでOさんは、会社へ退職意思を正式に伝え、退職手続を進めるため、当組合へ相談しました。
2.本件の法的な問題点
(1)無期雇用の退職は、原則として会社の承諾を必要としません
期間の定めのない雇用契約では、労働者は会社に対して退職の申入れをすることができます。
民法第627条第1項では、期間の定めのない雇用について、各当事者がいつでも解約の申入れをすることができ、原則として申入れから2週間が経過することで雇用契約が終了すると定められています。
そのため、法的には、会社が退職を承認しなければ労働者が退職できないというものではありません。
ただし、実際の退職日や退職までの勤務、有給休暇、欠勤などについては、雇用契約や就業規則、個別の事情を踏まえた確認が必要です。
(2)診断書は、退職意思表示の法定要件ではありません
精神的または身体的な体調不良を理由に退職する場合であっても、民法第627条は、退職の申入れに診断書を添付することを要件としていません。
診断書は、病気による欠勤や休職、就業上の配慮などを会社へ求める場面では必要となることがあります。しかし、診断書がなければ退職意思そのものを伝えられない、または会社が退職の話を一切聞かなくてよいということには直ちにつながりません。
本件では、会社が診断書の提出を求めていたため、Oさんが無理なく退職手続を進められるよう、診断書を取得した上で退職通知書とともに送付する対応を取りました。
(3)労働組合は、組合員の退職に関する事項について会社と交渉できます
労働組合法第6条により、労働組合の代表者または委任を受けた者は、組合員のために、使用者と労働条件その他の事項について交渉する権限を有します。
退職意思の通知、退職日、退職までの出勤、欠勤、出勤免除その他の退職手続に関する事項は、使用者が対応可能な雇用関係上の問題であるため、労働組合による交渉や調整の対象となり得ます。
3.労働組合による会社への対応
当組合は、労働組合法第6条に基づく組合員のための会社対応として、退職意思の通知および退職手続に必要な対応を求める申入れを行いました。
実際に行った対応は、次のとおりです。
- Oさんから、退職希望および会社から告げられた内容を確認すること
- Oさんと連携し、メンタルクリニックで診断書を取得すること
- 取得した診断書と退職通知書を、会社へ郵送で正式に送付すること
- 書面の送付後、会社からの回答を確認すること
会社に対して感情的に反論するのではなく、Oさんの退職意思を正式な書面によって明確に伝え、会社が退職手続を進められる状態を整えました。
4.結果および成果
診断書と退職通知書を送付した後、会社から回答書が届き、会社との間で退職手続が成立したことを確認しています。
本件では、会社から「診断書がない限り、一切話は聞かない」と告げられ、Oさんだけでは退職の話を進めにくい状態となっていました。
そこで、会社が求めていた診断書を取得するとともに、退職通知書を正式に郵送することで、Oさんの退職意思を明確にし、会社から書面による回答を得ることにつながりました。
5.組合としての総括
体調不良を理由に退職を申し出た際、会社から「診断書がなければ退職の話には応じない」と言われると、「診断書を提出できなければ辞められないのではないか」と不安になる方もいます。
しかし、無期雇用契約の労働者による退職の申入れは、原則として会社の承諾を成立要件とするものではありません。また、民法第627条は、退職意思表示に診断書を添付することを要件としていません。
一方で、会社との対立を深めずに手続を進めるためには、会社が診断書を求める理由や、退職日までの出勤、欠勤などの事情を確認し、事案に応じた対応を取ることも重要です。
本件では、会社の要求を直ちに法令違反と断定するのではなく、Oさんと連携して診断書を取得し、退職通知書と併せて正式に送付しました。その結果、会社から回答書が届き、退職手続が成立したことを確認できました。
当組合は今後も、雇用関係に関する退職意思の通知、退職日および退職手続等の問題について、使用者に処分可能な事項の範囲内で、労働組合法に基づく団体交渉を通じて組合員の権利を守ってまいります。
6.本件で問題となり得た主な法令・参考判例
民法
民法第627条
期間の定めのない雇用契約では、各当事者はいつでも解約の申入れをすることができ、原則として申入れから2週間が経過することで雇用契約が終了します。
同条は、労働者による退職の申入れについて、会社の承諾や診断書の提出を要件としていません。
参考リンク:e-Gov法令検索「民法」
労働組合法
労働組合法第6条
労働組合の代表者または労働組合から委任を受けた者は、労働組合または組合員のために、使用者と労働協約の締結その他の事項について交渉する権限を有します。
本件では、組合員の退職意思の通知および退職手続に関する会社対応の根拠となる規定です。
参考リンク:e-Gov法令検索「労働組合法」
参考判例・公表事例
大阪労働局「よくあるご質問(退職・解雇・雇止め)」
大阪労働局は、期間の定めのない雇用契約について、会社が同意しなければ退職できないものではなく、民法第627条により、原則として解約の申入れから2週間で終了すると案内しています。
参考リンク:大阪労働局「よくあるご質問(退職・解雇・雇止め)」
※本事例は、個人および会社を特定できないよう、一部を匿名化・一般化しています。
※記載した法令は、会社の具体的な対応によって問題となり得る法令であり、本件において法令違反が確定したことを意味するものではありません。
※法的評価は、雇用契約の内容、会社の対応、証拠その他の個別事情によって異なります。

