就業規則の「1週間前申請」を理由に有給休暇を拒否されたケースで、残り20日すべての取得が認められた事例
- 2024.10.23
- 2024.10.23
| 実行日 | 2024年10月 |
|---|---|
| 組合員 | Mさん |
| 年齢 | 40代 |
| 地域 | 千葉県 |
| 職種 | 事務職 |
| 雇用形態 | 契約社員 |
| トラブル種別 | 労基法違反 |
1.相談に至るまでの経緯
Mさんは、千葉県内の会社で事務職として勤務していた有期雇用の契約社員です。
退職にあたり、Mさんには20日分の年次有給休暇が残っていました。そこで、退職までの期間に残っている有給休暇を取得しようと会社へ申請しました。
しかし、会社からは、就業規則に「有給休暇は1週間前までに申請しなければならない」と定められていることを理由に、取得を認めないとの回答がありました。
このままでは、20日分の有給休暇を取得できないまま退職することになるため、Mさんは当組合へ相談しました。
2.本件の法的な問題点
(1)就業規則だけを理由に有給休暇の権利を失わせることはできない
年次有給休暇は、労働基準法第39条が定める要件を満たした労働者に発生する法定の権利です。
会社が就業規則で有給休暇の申請期限を定めること自体は、休暇の取得時季を調整するための手続として設けられる場合があります。
もっとも、就業規則は法令に反する内容を定めることができません。そのため、「1週間前までに申請しなかった」という理由だけで、労働者が保有する年次有給休暇を一律に取得できないものとして扱う場合には、労働基準法第39条および第92条との関係で問題となる可能性があります。
(2)会社が取得時季を変更できる場合は限定される
年次有給休暇は、原則として、労働者が指定した時季に与えなければなりません。
会社は、請求された時季に休暇を与えることが「事業の正常な運営を妨げる」場合に限り、別の時季へ変更することができます。これを「時季変更権」といいます。
時季変更権を行使できるかどうかは、人員配置や業務の繁忙状況などを踏まえ、個別的かつ客観的に判断されます。単に就業規則上の申請期限を過ぎたという事情だけで、当然に有給休暇を拒否できるものではありません。
(3)退職日を越えて有給休暇の時季を変更することはできない
退職予定者であっても、会社に在籍している期間は、残っている年次有給休暇を取得できます。
会社が時季変更権を行使する場合には、別の取得日を設定できることが前提となります。しかし、退職日を過ぎれば雇用関係が終了するため、退職日より後の日へ有給休暇を変更することはできません。
したがって、退職日までに他の取得日を確保できない場合には、会社が時季変更権を行使できる余地は実質的に限られます。
3.労働組合による会社への対応
当組合は、労働組合法第6条に基づき、組合員のために会社へ通知および団体交渉の申入れを行いました。
実際に会社へ行った対応は、次のとおりです。
● Mさんに20日分の年次有給休暇が残っていることを確認しました。
● 会社が、就業規則に定められた「1週間前までの申請」を理由として、有給休暇の取得を拒否している状況を確認しました。
● 就業規則よりも労働基準法が優先されることを説明し、就業規則上の申請期限だけを理由とする取得拒否について、再検討を求めました。
● 退職日以降へ有給休暇の取得時季を変更することはできないため、退職時には会社の時季変更権の行使が実質的に制限されることを説明しました。
● 取得拒否が続く場合には、労働基準監督署への申告も検討する旨を会社へ通知しました。
4.結果および成果
当組合からの説明と申入れを受け、会社はそれまでの対応を改めました。
その結果、Mさんが保有していた20日分すべての年次有給休暇について、取得が認められました。
元記事には、具体的な退職日や退職手続の完了状況までは記載されていません。そのため、本件で確認できる成果は、会社が有給休暇の取得拒否を見直し、残っていた20日分すべての取得を認めた点です。
また、会社とのやり取りを組合が行ったことによるMさんの精神的負担の変化については、元記事に具体的な記載がないため、本記事では評価していません。
5.組合としての総括
退職時にまとまった日数の有給休暇を申請すると、「申請期限を過ぎている」「引継ぎが終わっていない」などの理由で、会社から取得を認められないケースがあります。
しかし、年次有給休暇は、会社の任意の福利厚生ではなく、労働基準法に基づく労働者の権利です。就業規則に申請手続が定められていても、その規定だけを根拠として、有給休暇の権利そのものを失わせることができるとは限りません。
本件では、会社の就業規則と労働基準法上の年次有給休暇制度との関係を整理し、退職日以降へ取得時季を変更できないことを説明した点が重要でした。
労働者本人が会社へ説明しても対応が変わらない場合には、労働組合が団体交渉の窓口となり、取得拒否の理由や時季変更権の根拠を確認したうえで、法令に沿った取扱いを求めることができます。
当組合は今後も、雇用関係における年次有給休暇の取得や退職時の労働条件等の問題について、使用者に処分可能な事項の範囲内で、労働組合法に基づく団体交渉を通じて組合員の権利を守ってまいります。
6.本件で問題となり得た主な法令・参考判例
労働基準法
第39条(年次有給休暇)
一定の継続勤務期間と出勤率の要件を満たした労働者に、年次有給休暇を付与することを定めています。使用者は、事業の正常な運営を妨げる場合を除き、労働者が指定した時季に有給休暇を与える必要があります。
第92条(法令および労働協約との関係)
就業規則は、法令や事業場に適用される労働協約に反してはならないと定めています。就業規則上の申請期限を運用する場合も、労働基準法第39条に基づく権利との整合性が必要です。
労働組合法
第6条(交渉権限)
労働組合の代表者または委任を受けた者が、組合員の労働条件その他の事項について、使用者と交渉する権限を有することを定めています。
参考判例・公表事例
白石営林署事件
- 裁判所名および判決日:最高裁判所第二小法廷・1973年3月2日
- 本件との関係:年次有給休暇は法定要件を満たすことで当然に発生し、使用者が適法に時季変更権を行使しない限り、使用者の承認を成立要件としないことを示した判例です。
- 最高裁判所判決・公式資料
※本事例は、個人および会社を特定できないよう、一部を匿名化・一般化しています。
※記載した法令は、会社の具体的な対応によって問題となり得る法令であり、本件において法令違反が確定したことを意味するものではありません。
※法的評価は、雇用契約の内容、会社の対応、証拠その他の個別事情によって異なります。

