就業規則上の申請期限を理由に有給休暇を拒否されたケースで、残っていた有給休暇を消化して退職した事例
- 2026.01.15
- 2026.01.16
| 実行日 | 2026年1月 |
|---|---|
| 組合員 | Fさん |
| 年齢 | 20代 |
| 地域 | 山口県 |
| 職種 | 運送業 |
| 雇用形態 | 正社員 |
| トラブル種別 | 有給休暇取得拒否 |
1.相談に至るまでの経緯
Fさんは、退職にあたり、退職日までの期間に残っている有給休暇を取得したいと考えていました。
ところが、会社からは、次のような理由で有給休暇の取得を認めないとの回答がありました。
「就業規則では、有給休暇の申請は1か月前までに申請書を提出する必要がある」
Fさんは、すでに労働基準法第39条に定める有給休暇の付与要件を満たしており、未使用の有給休暇も残っていました。
しかし、会社は、就業規則で定められた申請期限までに手続が行われていないことを理由として、退職日までの有給休暇の取得を認めない姿勢を示していました。
そこでFさんは、希望する有給休暇の取得と退職手続を進めるため、当組合へ相談しました。
2.本件の法的な問題点
(1)有給休暇は法律上の要件を満たすことで発生する権利です
年次有給休暇は、労働基準法第39条に基づく労働者の権利です。
原則として、同一の使用者のもとで6か月以上継続して勤務し、その期間の全労働日の8割以上出勤した労働者には、有給休暇が付与されます。
本件では、Fさんがこの付与要件を満たし、未使用の有給休暇が残っていたことが確認されていました。
(2)就業規則の申請期限だけで取得を一律に拒否できるとは限りません
会社が、事業運営上の調整を行うため、有給休暇の申請期限や申請方法を就業規則で定めること自体は考えられます。
ただし、その申請期限を過ぎたことだけを理由として、すでに発生している有給休暇の取得を一律に認めない取扱いは、労働基準法第39条との関係で問題となる可能性があります。
労働者が有給休暇の取得日を指定した場合、会社は、後述する時季変更権を適法に行使できる場合を除き、原則として指定された時季に有給休暇を与える必要があります。
本件で確認できる会社の拒否理由は、「1か月前までに申請書が提出されていない」という就業規則上の手続に関するものでした。
(3)退職日を越えて有給休暇の時季を変更することはできません
労働基準法第39条第5項では、労働者が請求した時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合、会社が他の時季に変更できると定めています。これを「時季変更権」といいます。
もっとも、時季変更権は、有給休暇の取得自体を消滅させる権利ではなく、取得日を別の時季へ変更するためのものです。
退職日が確定しており、退職日までにほかの取得可能な労働日が存在しない場合、退職日より後へ有給休暇を移すことはできません。
厚生労働省の公式情報においても、退職日をもって有給休暇の権利が消滅するため、退職間近の残存有給休暇については、使用者が退職日を越えて時季変更権を行使することはできないと説明されています。
3.労働組合による会社への対応
当組合は、労働組合法第6条に基づき、組合員のために会社へ通知および団体交渉の申入れを行いました。
本件で会社へ申し入れた内容は、次のとおりです。
- 労働基準法第39条に基づき、Fさんの有給休暇の取得を認めること
- 退職日を越えて有給休暇の時季を変更できないことを踏まえ、退職日までの有給休暇取得について協議すること
- 退職手続および必要書類の交付を適切に進めること
本件では、有給休暇の取得および退職手続という、Fさんと会社との雇用関係に直接関係する事項について交渉しました。
4.結果および成果
当組合から申入れを行った結果、会社は、それまでの対応方針を変更し、Fさんによる有給休暇の取得を認めました。
これにより、Fさんは、退職日までに残っていた有給休暇を消化したうえで、退職することができました。
本件で確認できた成果は、就業規則上の申請期限を理由として当初認められていなかった有給休暇について、会社が取得を認める対応へ変更し、有給休暇の取得と退職手続が進められたことです。
5.組合としての総括
会社から「就業規則で決まっている」「申請期限を過ぎている」と言われると、労働者は、「もう有給休暇を取得できないのではないか」と不安を感じることがあります。
しかし、就業規則上の申請手続と、労働基準法によって発生した有給休暇の権利は、分けて考える必要があります。会社が申請方法や期限を定めていたとしても、その定めだけで有給休暇の権利が当然に消滅するわけではありません。
本件では、Fさんに有給休暇が残っていること、退職日までの取得を希望していること、会社が就業規則上の申請期限を理由に取得を認めていなかったことを整理したうえで、会社へ申入れを行った点が重要でした。
労働者個人では会社へ説明しにくい場合でも、労働組合が雇用関係上の問題を整理し、団体交渉を通じて会社と協議することで、手続が進むことがあります。
当組合は今後も、雇用関係に関する有給休暇の取得、退職日および退職手続等の問題について、使用者に処分可能な事項の範囲内で、労働組合法に基づく団体交渉を通じて組合員の権利を守ってまいります。
6.本件で問題となり得た主な法令・参考判例
労働基準法
第39条(年次有給休暇)
一定の継続勤務期間と出勤率の要件を満たした労働者に、年次有給休暇を付与することを定めています。
同条第5項では、使用者は原則として労働者が請求した時季に有給休暇を与えなければならず、事業の正常な運営を妨げる場合に限り、他の時季へ変更できるとされています。
参考:労働基準法|e-Gov法令検索
参考:年次有給休暇|厚生労働省「確かめよう労働条件」
民法
第627条(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)
期間の定めのない雇用契約について、労働者または使用者から行う解約の申入れに関する基本的な規定です。
参考:民法|e-Gov法令検索
労働組合法
第6条(交渉権限)
労働組合の代表者または労働組合から委任を受けた者が、組合員のために使用者と交渉し、労働協約を締結する権限を有することを定めています。
本件では、この規定に基づき、有給休暇の取得および退職手続について会社へ団体交渉を申し入れました。
参考判例・公表事例
白石営林署事件
- 裁判所・判決日 最高裁判所第二小法廷・昭和48年3月2日
- 本件との関係 労働者が具体的な有給休暇の取得時季を指定した場合、使用者による適法な時季変更権の行使がない限り、その指定によって休暇日が定まるという年次有給休暇の基本的な考え方に関係する判例です。
- 公式参考資料 年次有給休暇|厚生労働省「確かめよう労働条件」
沖縄労働局「退職予定者には年休を与えなくてもよいか」
- 公表機関 厚生労働省沖縄労働局
- 本件との関係 退職予定者も在籍中は有給休暇を取得でき、退職日より後へ取得時季を変更できないことを説明した公表事例です。
- 公式参考資料 労働相談事例・年休Q1|沖縄労働局
※本事例は、個人および会社を特定できないよう、一部を匿名化・一般化しています。
※記載した法令は、会社の具体的な対応によって問題となり得る法令であり、本件において法令違反が確定したことを意味するものではありません。
※法的評価は、雇用契約の内容、会社の対応、証拠その他の個別事情によって異なります。

