退職代行ローキ(労働基準調査組合)

人手不足と就業規則を理由に有給休暇を拒否された会社と交渉し、退職日までに全日取得して退職手続を完了した事例

  • 2025.12.04
  • 2025.12.10
実行日 2025年11月
組合員 Aさん
年齢 20代
地域 大阪府
職種 販売員
雇用形態 正社員
トラブル種別 退職妨害・年次有給休暇の不承認

1.相談に至るまでの経緯

Aさんが勤務していた職場では、慢性的な人手不足が続いていました。

Aさんが会社へ退職の意思を伝えたところ、会社からは「今辞められると現場が回らない」「就業規則では有給申請は3日前まで」などと告げられました。そのうえで、退職日までの年次有給休暇について、一切取得を認めないとの対応を受けました。

上司からの引き止めも連日続き、「有給を取るなら退職日を延ばせ」と求められました。

このままでは、退職日までに年次有給休暇を取得できず、退職日の延長まで求められる状況にあったため、Aさんは当組合へ相談しました。

2.本件の法的な問題点

(1)Aさんは年次有給休暇の付与要件を満たしていた

Aさんは、同一の事業所で6か月以上継続して勤務し、全労働日の8割以上を出勤していました。そのため、労働基準法第39条が定める年次有給休暇の付与要件を満たしていました。

年次有給休暇は、法律上の要件を満たすことによって発生する権利です。原則として労働者が取得日を指定することができ、使用者の「承認」がなければ発生しない制度ではありません。

(2)退職日より後へ取得時季を変更することはできない

会社には、労働者が指定した日に有給休暇を与えることで「事業の正常な運営を妨げる」場合、他の時季へ変更する権限があります。これを時季変更権といいます。

ただし、単に人手が不足しているという事情だけで、直ちにすべての有給休暇を拒否できるわけではありません。事業場の規模、業務内容、代替要員を確保できるかなどの事情から、個別かつ客観的に判断する必要があります。

また、退職予定者については、退職日より後の日を変更先として指定することができません。退職日までに他の取得日を設定できないにもかかわらず、有給休暇を一律に認めない対応は、労働基準法第39条との関係で問題となる可能性があります。

(3)就業規則の申請期限だけで一律に拒否できるとは限らない

会社が、年次有給休暇の申請期限や申請方法を就業規則で定めること自体は、直ちに問題となるものではありません。業務上の調整に必要な範囲で、合理的な手続を設けることは認められ得ます。

一方、その手続を形式的に適用し、取得できるはずの年次有給休暇をすべて失わせるような運用については、法定の権利を実質的に制限するものとして問題となる可能性があります。

本件では、会社が「3日前までの申請」という就業規則を理由に、退職日までの年次有給休暇を一切認めないとしていたため、申請期限の合理性だけでなく、退職日までに取得できる日が残されているかを踏まえて検討する必要がありました。

(4)会社が一方的に退職日を延長できるわけではない

Aさんは、雇用期間の定めがない正社員でした。

民法第627条第1項では、期間の定めのない雇用契約について、労働者はいつでも解約を申し入れることができ、原則として申入れから2週間が経過すると雇用契約が終了すると定められています。

会社が退職日の延長を求めることはできますが、Aさんが同意していない退職日へ会社が一方的に変更できるわけではありません。有給休暇を取得する条件として、退職日の延長に応じなければならないものでもありません。

3.労働組合による会社への対応

当組合は、労働組合法第6条に基づき、組合員のために会社へ通知および団体交渉の申入れを行いました。

Aさんの有給休暇の残日数と退職日までの期間を確認したうえで、会社に対して次の事項を申し入れました。
 

  1. Aさんが労働基準法第39条に基づく年次有給休暇の取得要件を満たしていること
  2. 時季変更権には要件があり、退職予定者の有給休暇取得を一律に拒否することは相当でないこと
  3. 就業規則上の申請期限のみを理由として、退職日までの有給休暇をすべて不承認とする運用を見直すこと
  4. 退職日までの年次有給休暇の取得を前提として、最終賃金を適切に精算し、支払うこと
     

本件では、会社の人員配置そのものに介入するのではなく、Aさんの年次有給休暇、退職日および最終賃金という労働関係上の事項について交渉しました。

4.結果および成果

会社は当組合からの申入れを受け、Aさんが退職日までに年次有給休暇を全日取得することを認めました。

「有給休暇を取得するのであれば退職日を延ばす」という会社の当初の対応とは異なり、退職日を変更することなく、有給休暇の取得を前提として退職手続が進められました。

最終給与についても支払いが行われ、Aさんの退職手続は完了しました。

本件では、退職日までの年次有給休暇の取得と最終賃金の支払いが確認され、会社との間で問題となっていた事項が整理されました。

5.組合としての総括

退職を申し出た際、「人手が足りない」「繁忙期だから辞められない」などと言われると、労働者は退職や有給休暇の取得を諦めなければならないのではないかと不安を感じることがあります。

しかし、人手不足という事情だけで、年次有給休暇を当然にすべて拒否できるわけではありません。時季変更権を行使できるかどうかは、事業の正常な運営に与える影響や代替要員の確保など、具体的な事情を踏まえて判断する必要があります。

また、就業規則に有給休暇の申請期限が定められていても、その規定を理由として退職日までの取得を一律に認めず、結果として年次有給休暇を失わせる運用が常に認められるわけではありません。特に、退職後の日を変更先として指定できない点が重要です。

本件では、有給休暇の取得と退職日の延長を結び付けず、それぞれの法的な取扱いを整理して会社と交渉したことにより、Aさんは退職日までに年次有給休暇を取得し、退職手続を完了することができました。

当組合は今後も、雇用関係に関する年次有給休暇、退職日、賃金の精算等の問題について、使用者に処分可能な事項の範囲内で、労働組合法に基づく団体交渉を通じて組合員の権利を守ってまいります。

6.本件で問題となり得た主な法令・参考判例

労働基準法

第39条(年次有給休暇)

6か月以上継続して勤務し、全労働日の8割以上を出勤した労働者には、年次有給休暇が付与されます。

年次有給休暇は原則として労働者が指定した時季に与える必要があります。ただし、事業の正常な運営を妨げる場合には、使用者が他の時季へ変更できる場合があります。

参考:労働基準法|e-Gov法令検索

民法

第627条(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)

雇用期間の定めがない場合、労働者は原則としていつでも退職を申し入れることができ、申入れから2週間が経過することによって雇用契約が終了します。

本件では、Aさんが無期雇用の正社員であったため、退職日の取扱いを検討する際に関係する規定です。

参考:民法|e-Gov法令検索

労働組合法

第6条(交渉権限)

労働組合の代表者または労働組合から委任を受けた者は、労働組合や組合員のために、使用者と交渉する権限を有します。

本件では、年次有給休暇の取得、退職日および最終賃金の精算について、同条に基づく団体交渉を行いました。

参考:労働組合法|e-Gov法令検索

参考判例・公表事例

白石営林署事件

  • 裁判所名および判決日 最高裁判所・1973年3月2日
  • 本件との関係 年次有給休暇は、原則として労働者による時季指定によって具体化し、使用者の承認を要しないとする基本的な考え方が示されています。
  • 参考リンク 厚生労働省「年次有給休暇」

沖縄労働局「退職予定者には年休を与えなくてもよいか」

  • 公表機関 沖縄労働局
  • 本件との関係 退職予定者であっても、在籍中は年次有給休暇を取得でき、退職日より後へ時季を変更することはできないとの考え方が示されています。
  • 参考リンク 沖縄労働局「労働相談事例 年休Q1」

※本事例は、個人および会社を特定できないよう、一部を匿名化・一般化しています。
※記載した法令は、会社の具体的な対応によって問題となり得る法令であり、本件において法令違反が確定したことを意味するものではありません。
※法的評価は、雇用契約の内容、会社の対応、証拠その他の個別事情によって異なります。

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