年末年始の繁忙期を理由に引き止められていた組合員について、退職日を確定し手続を完了した事例
- 2025.12.26
- 2025.12.27
| 実行日 | 2025年12月 |
|---|---|
| 組合員 | Dさん |
| 年齢 | 30代 |
| 地域 | 千葉県 |
| 職種 | 百貨店販売員 |
| 雇用形態 | 正社員 |
| トラブル種別 | 退職妨害・メンタルヘルス |
1.相談に至るまでの経緯
Dさんは、百貨店販売員として正社員で勤務していました。しかし、精神的な体調不良により、これ以上業務を続けることが困難な状態になっていました。
そこでDさんは、上司に体調面の不調を伝えた上で、退職の意思を示しました。
ところが、会社からは年末年始の繁忙期であることを理由に、次のような発言が繰り返されました。
「この時期に辞められると現場が回らない」
「正社員なのだから責任を果たしてほしい」
Dさんが退職の意思を伝えても、会社による引き止めが続き、退職手続を進めることができない状態となっていました。
精神的な不調を抱えている中で、会社と直接やり取りを続けることにも負担を感じていたDさんは、退職手続を進めるため、当組合へ相談しました。
2.本件の法的な問題点
(1)繁忙期や人手不足だけを理由に、無期雇用労働者の退職を制限することはできません
Dさんは、雇用期間の定めがない正社員でした。
民法第627条第1項では、期間の定めのない雇用契約について、労働者と使用者のいずれも解約を申し入れることができ、原則として申入れから2週間が経過すると雇用契約が終了すると定められています。
年末年始の繁忙期や人員配置上の事情があるとしても、それだけで労働者による退職の意思表示の効力が失われるものではありません。就業規則や個別の事情を確認する必要はありますが、会社の承諾がなければ一切退職できないわけではありません。
(2)精神的な不調の申告を受けた会社には、健康状態へ配慮した対応が求められます
労働契約法第5条は、使用者に対し、労働者が生命や身体等の安全を確保しながら働けるよう、必要な配慮をすることを求めています。
精神的な体調不良を申し出ている労働者に対して、強い引き止めや心理的な負担を伴う対応を続けた場合、その具体的な内容によっては、安全配慮義務との関係で問題となる可能性があります。
会社には、繁忙期や業務上の都合だけでなく、労働者の健康状態を踏まえて対応することが求められます。
(3)本人への直接連絡を減らし、組合を窓口とする調整が必要でした
退職をめぐる会社との連絡が、労働者の精神的負担を大きくすることがあります。
会社が労働者本人へ連絡すること自体が、直ちに法令違反となるわけではありません。しかし、本人の健康状態や交渉の経緯を踏まえ、労働関係上の連絡窓口を労働組合に一本化するよう申し入れることは、本人の負担を軽減し、手続を整理する上で重要です。
本件でも、Dさんが会社と直接やり取りを続けることによる負担を避けながら、退職手続を進める必要がありました。
3.労働組合による会社への対応
当組合は、労働組合法第6条に基づき、組合員のために会社へ通知および団体交渉の申入れを行いました。
実際に会社へ申し入れた内容は、次のとおりです。
- Dさんの退職意思を正式に通知し、その意思表示を前提として退職手続を進めること
- Dさん本人への直接連絡を停止し、今後の労働関係上の連絡窓口を当組合とすること
- 最終賃金を適切に精算して支払い、退職に伴う必要書類を交付すること
- 会社貸与物の返却や社内手続について、Dさんの負担が過大とならない方法で整理すること
当組合は、会社を一方的に非難するのではなく、Dさんの退職意思と健康状態を伝えた上で、退職に必要な手続を進めるよう求めました。
4.結果および成果
会社は当組合からの申入れを受け、これ以上Dさんを引き止めないこととし、退職日が確定しました。
最終給与の支払いについても対応が行われ、退職に伴う必要書類についても問題なく手続が進められました。
無事に退職手続に関するすべてが完了しました。
Dさんは、会社から繰り返し引き止めを受ける状況から離れ、精神的な負担が軽減された状態で退職に至りました。
本件では、会社から退職の承諾を得ることを前提とするのではなく、Dさんの退職意思を正式に通知した上で、退職日や賃金、必要書類などの手続を整理したことが重要な成果となりました。
5.組合としての総括
年末年始などの繁忙期に退職を申し出ると、「今辞められると困る」「後任が見つかるまで待ってほしい」と引き止められることがあります。
会社側に人員配置や業務運営上の事情があることは否定できません。しかし、無期雇用の労働者が退職の意思を明確に示した場合、会社の都合だけで退職を無期限に先延ばしにできるわけではありません。
特に、労働者が精神的な体調不良を訴えている場合には、退職をめぐるやり取りそのものが大きな負担となることがあります。本件では、当組合が連絡窓口となり、退職意思の通知と必要な手続に関する申入れを行ったことで、Dさんが会社との直接対応を続ける負担を抑えながら退職手続を進めることができました。
退職に関する問題は、退職日の確定だけでなく、最終賃金、退職書類、貸与品の返却など、複数の手続が関係します。それぞれを整理し、労使間で確認しながら進めることが重要です。
当組合は今後も、雇用関係における退職日の調整、賃金の精算、退職書類の交付、連絡方法等の問題について、使用者に処分可能な事項の範囲内で、労働組合法に基づく団体交渉を通じて組合員の権利を守ってまいります。
6.本件で問題となり得た主な法令・参考判例
労働基準法
労働基準法第22条(退職時等の証明)
労働者が退職した場合に、使用期間、業務の種類、地位、賃金、退職の事由などについて証明書を請求したときは、使用者は遅滞なく交付しなければならないと定めています。
本件では、当組合が退職に伴う必要書類の交付を申し入れたこととの関係で問題となり得る条文です。
労働基準法第23条(金品の返還)
労働者が退職し、権利者から請求があった場合、使用者は原則として7日以内に賃金を支払い、労働者の権利に属する金品を返還しなければならないと定めています。
本件では、最終賃金の精算および支払いとの関係で問題となり得ます。
参考リンク:労働基準法|e-Gov法令検索
民法
民法第627条第1項(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)
期間の定めのない雇用契約では、各当事者はいつでも解約を申し入れることができ、原則として申入れから2週間が経過すると雇用契約が終了すると定めています。
Dさんは無期雇用の正社員であったため、退職意思の法的な取扱いを検討する上で中心となる条文です。
参考リンク:民法|e-Gov法令検索
その他の労働関係法令
労働契約法第5条(労働者の安全への配慮)
使用者は、労働者が生命や身体等の安全を確保しながら働くことができるよう、必要な配慮をしなければならないと定めています。
精神的な体調不良を申し出ている労働者に対する会社の対応内容によっては、同条との関係で問題となる可能性があります。
参考リンク:労働契約法|e-Gov法令検索
労働組合法
労働組合法第6条(交渉権限)
労働組合の代表者または労働組合から委任を受けた者が、労働組合または組合員のために、使用者と交渉する権限を有することを定めています。
本件では、退職意思の通知、退職手続、最終賃金、必要書類、貸与品の返却方法および連絡窓口について、当組合が会社へ団体交渉を申し入れる根拠となりました。
参考リンク:労働組合法|e-Gov法令検索
参考判例・公表事例
厚生労働省「退職、解雇、雇止めなど」
厚生労働省の労働条件に関する総合情報サイトでは、期間の定めのない労働契約について、労働者はいつでも退職を申し出ることができ、法律上は申出から14日が経過すると退職となることが説明されています。
参考リンク:退職、解雇、雇止めなど|厚生労働省「確かめよう労働条件」
※本事例は、個人および会社を特定できないよう、一部を匿名化・一般化しています。
※記載した法令は、会社の具体的な対応によって問題となり得る法令であり、本件において法令違反が確定したことを意味するものではありません。
※法的評価は、雇用契約の内容、会社の対応、証拠その他の個別事情によって異なります。

