- 「残らないと怒られる」練習は名目が自主練でも労働時間。残業代の対象になる
- タイムカードを切らせて練習させるのは労働時間の不適正な把握で違法
- 練習時間はLINE・施錠記録・投稿時刻で証明でき、3年分をさかのぼって請求できる

打刻してから練習してるけど、これって残業じゃないの?



自主練を断ったら「やる気がない」って評価される…
閉店後、タイムカードを押してからウィッグを取り出す。カットの練習をしながら壁の時計を見ると22時を過ぎている。明日も朝礼は9時。この時間が「自分のため」なのか「店のため」なのか、考えないようにして帰る日が続いている方は少なくありません。
2026年9月15日にまいどなニュース(デイリースポーツ onlineにも転載)が配信した記事で、社会保険労務士の香川昌彦さんが「美容院の終業後の自主練習は、タイムカード打刻後でも残業になるのか」という相談に回答しています。最大のポイントは練習に「強制性」があるかどうかで、「やっておけ」と指示されたり、練習しないと叱責や評価に響いたりする環境なら、名目が自主練習でも実質的な業務命令とみなされると解説されています。この記事では、その判断基準を法律と裁判例で裏づけたうえで、美容室で起きやすい「見えない残業」の型、練習時間を証拠に残して取り戻す方法、そして在職中に言い出せない人が退職時にまとめて請求する流れを、労働組合の立場から解説します。
※この記事は2026年9月時点の情報をもとに作成しています。
美容院の終業後の自主練習は残業になる?社労士が示した「強制性」の判断基準
結論から言うと、「断れない練習」は労働時間であり、残業代の対象になります。記事で社労士が示した判断のポイントは次の4点です。
| 相談の場面 | 社労士の回答(要旨) |
|---|---|
| 「やっておけ」と指示される。練習しないと昇進に響く | 名目が自主練習でも実質的な業務命令。断れない状態なら法的な労働時間で、残業代の支払い義務が発生する |
| 直接の命令はないが、残らないと怒られる・居づらい | 明確に強制とみなされる可能性が高い。不参加による不利益が示唆されていれば自発的な練習とは認められない |
| 先輩が付き添って指導している | 会社の指示や業務の一環なら、教わる側も教える側も労働時間。好意だけのアドバイスは判断が分かれる |
| タイムカードを切らせてから練習させる | 労働時間の不適正な把握で完全に違法。練習時間・指示内容・LINE・施錠記録を証拠として残せば後から請求できる |
出典:まいどなニュース「『いつまで見習いでいるつもりだ!』美容院の終業後に自主練習 タイムカード打刻後でも残業になりますか?【社労士が解説】」(2026年9月15日)をもとに作成。
相談の設定は、タイムカードを切った後に練習しないと先輩から「なんで練習しないんだよ!いつまで見習いでいるつもりだ!」と怒られる、というものです。この一言が出た時点で、練習は「自分の意思でやってもやらなくてもよいもの」ではなくなっています。社労士は、心理的な圧迫によって拒否できない状況を作っている時点で労働時間と判定される要因になる、と述べています。



「自主練」という言葉は、店の側が労働時間を隠すために便利な言葉でもあります。名前ではなく中身で決まります。
なぜ「自主練」でも労働時間になるのか。裁判所と厚労省が示す労働時間の決まり方
答えは「労働時間かどうかは、店の呼び方や就業規則ではなく、会社の指揮命令の下に置かれていたかどうかで客観的に決まる」からです。最高裁は、労働時間とは労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、それは就業規則などの定めではなく客観的に決まると判断しています。業務の準備行為であっても、会社から義務づけられていたり、余儀なくされていたりすれば労働時間に当たります。
厚労省のガイドラインは「研修・学習の時間」を労働時間の例に挙げている
厚生労働省が2017年1月に定めた労働時間の把握に関するガイドラインは、会社の指示で業務に必要な学習や研修を行っていた時間を労働時間の例として明記しています。さらに、自己申告で労働時間を把握している会社に対して、申告した時間以外に職場にいた時間について「休憩や自主的な研修、学習だった」と本人が申告していても、実際には業務をしていたり指揮命令下にあったりすれば労働時間として扱うよう求めています。タイムカードを先に切らせて練習させるやり方は、このガイドラインが禁じる「労働時間の適正な把握を妨げる措置」そのものです。
| 労働時間と判断されやすい練習 | 労働時間と判断されにくい練習 |
|---|---|
| 店長や先輩から「残ってやれ」と言われる | 誰にも言われず、自分で日時を決めて始めた |
| やらないと叱責・評価ダウン・デビューが遅れる | やらなくても不利益がないと明確に示されている |
| 課題やチェック(合格テスト)が店から出されている | 課題も期限もなく、内容を自分で決めている |
| 先輩が店の指示で付き添い、指導している | 先輩の個人的な好意で、たまに助言をもらう程度 |
| 店の営業時間外に店内でしか練習できない仕組み | 自宅や外部の練習場所を自由に選べる |
出典:厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(2017年1月20日)と最高裁判例をもとに作成。個別の判断は状況によって異なります。



タイムカードを先に切らせる店ほど、実は「これは労働時間だ」と分かっています。分かっているから隠すのです。
美容室で起きやすい「見えない残業」の型。練習だけではない
結論は「営業時間だけを労働時間として数える店では、練習以外にも払われていない時間が毎日積み上がっている」です。美容室の勤務は、開店前と閉店後に付随する仕事が多く、そのほとんどが本来は労働時間です。
開店前の準備・掃除、閉店後の片付け・予約管理
開店30分前に来てタオルをたたみ、床を掃き、ワゴンをセットする。閉店後にシャンプー台を洗い、翌日の予約を確認し、店のSNSに投稿する。これらは店の指示で行う業務そのもので、営業時間の前後であっても労働時間です。「アシスタントは早く来て当然」という慣行は、法律の根拠にはなりません。
休憩が取れない、講習・撮影会が休日にある
予約が詰まって昼休憩が10分になる日が続けば、その分は労働時間です。労働時間が6時間を超えれば45分、8時間を超えれば1時間の休憩を与えなければならず、取れなかった時間は賃金の対象になります。店の指示で参加する外部講習や撮影会、コンテストの準備も、参加が実質的に義務なら労働時間で、休日に行われれば休日労働の割増が発生します。
「固定残業代込み」と「基本給が最低賃金ぎりぎり」の組み合わせ
アシスタントの求人には「月給20万円(固定残業代30時間分を含む)」といった表記が多くあります。固定残業代は、あらかじめ定めた時間分を先に払う仕組みであって、それを超えた残業を無料にする仕組みではありません。30時間分が含まれていて実際に50時間働けば、差の20時間分は別に支払う義務があります。さらに、練習や準備の時間を足して実際の労働時間で基本給を割ると、時給が地域の最低賃金を下回っている例が珍しくありません。2026年度の最低賃金は全国平均で時給1,177円です。詳しくは最低賃金2026はいつからいくら?全国平均1,177円・47都道府県一覧と時給が上がらない時の対処法をご覧ください。
- 打刻前の開店準備・掃除、打刻後の片付け・予約管理・SNS投稿
- 閉店後の練習、店の課題・合格チェックに向けた練習、先輩の付き添い指導
- 取れなかった休憩、休日の講習・撮影会・コンテスト準備



営業時間が10時から19時でも、あなたの労働時間が10時から19時とは限りません。数えていないだけです。
練習時間を証拠に残して取り戻す方法。何を、どう記録し、いつまで請求できるか
やることは「今日から時間を記録する」「店からの指示を残す」「3年の時効を意識する」の3つです。社労士も、練習時間や指示内容の記録、先輩とのLINE、SNSの投稿履歴、店の施錠・退室記録を証拠として残すよう勧めています。タイムカードが実態を映していない店ほど、タイムカード以外の記録が効きます。
今日から残せる記録
スマートフォンのメモに、出勤時刻、打刻時刻、練習を始めた時刻、店を出た時刻を毎日書きます。店の鍵を閉めた時刻、セキュリティの解除と設定の記録、練習中に撮った写真や動画の撮影時刻、練習を報告するLINEやグループチャットの送信時刻は、後から客観的に時間を示す証拠になります。「残って練習しろ」「明日までにこの課題」といった指示は、スクリーンショットで保存します。口頭で言われたら、その日のうちに日時と言葉をメモしておきます。証拠の集め方は介護職のサービス残業は違法?保険外業務でも賃金が出る理由と、未払い3年分を請求する方法でも詳しく説明しています。
請求できるのは給料日から3年分
未払いの残業代は、給料日から3年で時効にかかります。逆に言えば、今日から3年前までの分は請求できます。毎日1時間の練習が労働時間と認められれば、月20日として月20時間、時給1,200円なら割増を含めて月3万円、3年で100万円を超える計算になります。時効は請求するたびに止まるわけではないので、内容証明などで正式に請求した時点で6か月間、時効の完成が猶予されます。古い月から順に消えていくため、迷っているうちに減っていきます。
在職中に店と争わずにできること
在職中に自分で店へ請求するのが難しくても、労働基準監督署に申告する方法があります。タイムカードを切らせて働かせている実態は労働基準法違反の疑いがある事実で、申告は本人の名前を伏せて調査してもらうよう求めることもできます。労働基準監督署は店に是正を求めますが、未払い分を本人に代わって回収する機関ではないため、取り戻す手続きは別に必要です。全国の総合労働相談コーナーでは、どの手段が合うかを無料で相談できます。
- 「練習は自分のためだから」と最初から諦めて、時間を記録しない
- 店の言い分どおりにタイムカードを切り、それ以外の時刻の証拠を何も残さない
- 辞めてから請求しようと思っているうちに、古い月から時効で消えていく
証拠は「店に見せるため」ではなく「後で自分が計算するため」に残します。在職中に店と争う必要はなく、記録だけ積み上げておけば、辞めるときにまとめて請求できます。



記録は誰にも見せなくていい。毎日3行のメモが、3年分の請求の土台になります。
労働組合の現場から。アシスタントが在職中に言い出せない理由と、退職時にまとめて請求する流れ
結論は「在職中に店へ残業代を請求するのは現実には難しく、多くの人は退職を決めたときにまとめて請求している」です。私たちの相談窓口に美容師のアシスタントから届く相談には、共通した事情があります。練習を指示する先輩がスタイリストデビューの可否を決める人でもあること、店が少人数で誰が言ったかすぐ分かること、「この業界はこういうもの」と美容学校時代から刷り込まれていること。残業代の話を持ち出した瞬間に居場所がなくなる恐れがあるため、在職中は口にできません。
「今辞めたら育ててもらった恩を裏切る」は、辞められない理由にならない
美容室の退職相談で特徴的なのは、「お世話になったから」「デビュー前に辞めるのは申し訳ない」という言葉が最初に出ることです。しかし、期間の定めのない雇用であれば、退職の申し出から2週間で辞められます。店側の「せめて次の人が入るまで」「デビューしてから」という引き留めに法的な拘束力はありません。練習の名目で払われていない時間があるなら、その店に対して恩を感じる必要は、本来はもっと小さいはずです。
労働組合の退職代行なら、退職の通知と同時に未払い残業代を請求できる
退職代行ローキは労働組合が運営しているため、退職の意思を店に伝えるだけでなく、有給休暇の消化や退職日を交渉できます。タイムカードのコピーや練習時間の記録など証拠がそろっていて、ご本人が未払い額を計算できる場合は、退職連絡の際に未払い残業代の請求も追加料金なしで行います。組合から請求すると、多くの会社は支払いに応じています。組合が店に通知した日から、本人が出勤することも、店長や先輩と直接話すこともありません。
※ローキが行うのは退職に関する交渉と、それに伴う未払い賃金の請求です。店が支払いを拒否した場合の労働審判や訴訟の代理は行っておらず、その場合は労働問題を扱う弁護士が適しています。ただし、退職したことを理由に店から損害賠償請求や懲戒解雇処分を受けた場合は、追加料金なしで顧問弁護士が撤回交渉を行います。故意による損害や横領など、退職とは無関係な請求は対象外です。
- 在職中は毎日の時刻と指示を記録し、店とは争わない
- 辞めると決めたら、記録から実労働時間を出して未払い額を計算する
- 組合が退職の通知と同時に請求し、有給消化・退職日とあわせて交渉する
未払い残業代の請求をローキに依頼するときの条件は未払い残業代を請求してもらうことは可能ですか?で、同じく技術職で辞めにくい歯科衛生士の退職については退職代行で歯科衛生士を辞めることは出来ますか?で解説しています。



「育ててもらった」と「ただ働きさせられた」は両立します。恩と請求は、分けて考えてよいのです。
よくある質問(FAQ)
美容室の閉店後の練習は残業代が出ますか?
店や先輩から指示されている、やらないと叱責や評価に響く、店の課題やチェックのために必要といった事情があれば、名目が自主練習でも労働時間に当たり、残業代の対象になります。誰にも言われず自分で始め、やらなくても不利益がない練習は労働時間に当たりにくいとされます。
タイムカードを切ってから練習しています。証拠がないと請求できませんか?
タイムカード以外の記録で証明できます。店の施錠やセキュリティの記録、練習中の写真や動画の撮影時刻、練習を報告するLINEの送信時刻、毎日のメモが証拠になります。会社に打刻を強制されて実態を隠された場合、労働時間の不適正な把握として会社側の責任が問われます。
固定残業代が給料に含まれています。練習の分は請求できませんか?
請求できます。固定残業代は、定められた時間分をあらかじめ払う仕組みで、それを超えた残業を無料にするものではありません。練習や準備を含めた実際の残業時間が固定分を超えていれば、超えた分は別に支払う義務があります。基本給を実労働時間で割って最低賃金を下回っていれば、その差額も請求できます。
辞めた後でも練習分の残業代を請求できますか?いつまでですか?
退職後でも請求できます。時効は各給料日から3年で、古い月から順に消えていきます。退職を決めた時点で記録から未払い額を計算し、退職の通知とあわせて請求するのが、時効の面でも精神的な負担の面でも現実的です。
アシスタントですが、デビュー前に辞めると損害賠償を請求されませんか?
期間の定めのない雇用なら、退職の申し出から2週間で辞められ、辞めること自体を理由に損害賠償が認められることは通常ありません。講習費用の返還を求められる場合も、会社が負担すべき教育費用であれば返す義務はないことが多く、内容を確認したうえで対応します。労働組合の退職代行を使えば、こうした店側の主張も組合が受けて交渉します。
まとめ|「自主練」の名前で隠された時間は、あなたの労働時間
- 「やっておけ」と指示される、残らないと怒られる練習は、名目が自主練でも労働時間で残業代の対象
- 労働時間は店の呼び方ではなく指揮命令下にあったかで客観的に決まる。打刻を切らせて練習させるのは違法
- 開店前の準備・閉店後の片付け・取れない休憩・固定残業代超過分・最低賃金割れも請求の対象
- 毎日の時刻と指示を記録し、3年分を退職時にまとめて請求する
「技術は自分で盗むもの」「アシスタント時代は修行」という言葉は、美容業界で長く受け継がれてきました。その言葉が悪いのではなく、その言葉を使って労働時間を払わない仕組みが問題です。今回の社労士の解説が示したのは、練習の名前が何であれ、断れない時間は労働時間だという当たり前の結論でした。
判断の軸は「その練習を断ったら何が起きるか」の一点です。何も起きないなら自主練、叱責や評価や居心地に響くなら労働時間。在職中に店と争う必要はありません。毎日の時刻を記録し、辞めるときにまとめて請求する。それだけで、失った時間の一部は取り戻せます。
練習の時間が払われていない、店長や先輩に辞めると言い出せない、辞めるときに残業代もまとめて請求したいという方は、労働組合が運営する退職代行ローキにご相談ください。組合が店に通知した日から、あなたが出勤することも、先輩と話すこともありません。相談は無料で、LINEなら24時間受け付けています。



練習した時間は、あなたの技術になっています。同時に、あなたの労働時間でもあります。両方を受け取ってください。
「この練習、労働時間になる?」「辞めるときに請求できる?」の確認だけでも、まずはLINEでお聞かせください。
退職代行ローキは労働組合として会社と直接交渉します。
料金は19,800円(税込)で、相談は無料です。
参考情報・出典
・まいどなニュース「『いつまで見習いでいるつもりだ!』美容院の終業後に自主練習 タイムカード打刻後でも残業になりますか?【社労士が解説】」(2026年9月15日)
・デイリースポーツ online(同記事の転載・2026年9月15日)
・厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(2017年1月20日策定)
・e-Gov法令検索「労働基準法」(24条・32条・34条・37条・115条・附則143条)
・e-Gov法令検索「民法」(627条)
・厚生労働省「総合労働相談コーナーのご案内」
執筆者


労働基準調査組合 執行委員長
谷本 祥子
私は飲食店勤務やメーカー代理店勤務など、さまざまな仕事を経験してきました。メーカー代理店では、商品販売の営業職として働いていました。現場では長時間労働や無理なノルマ強要が当たり前で、私も同僚たちも皆疲弊しきっていました。従業員たちが「辞めたい」と申し出ても、会社は「後任が見つかるまで待て」とか「引き継ぎが終わるまでダメだ」と拒み続け、退職を認めませんでした。中には精神的に追い詰められて鬱病になり、ある日突然来なくなってしまう同僚もいました。
続きを読む
私自身も会社の方針に疑問を感じ、労働環境の改善を上層部に提案しましたが、全く聞き入れてもらえませんでした。それどころか「部下をもっと厳しく指導しろ」と圧力をかけられる始末でした。私も心身ともに不調をきたしたため、退職を申し出ましたが、やはり引き止められ、なかなか辞めることができませんでした。
最終的に、労働問題に明るい仲間達の力を借りて退職することができました。この経験から「働く人たちがもっと気軽に、安心して退職できる仕組みが必要だ」と痛感しました。このような辛い経験をした自分だからこそ、労働者の立場に立って支援したいと考え、現在は労働基準調査組合の執行委員長として活動しています。
同じように悩み苦しむ方々が孤立せず、労働現場で生じるあらゆる労働問題に真摯に向き合い、実効性ある労働法に則った支援を行ってまいります。









