人手不足を理由に退職を拒まれた事案で、希望どおりの退職日を確定した事例
- 2025.02.05
- 2025.02.05
| 実行日 | 2025年2月 |
|---|---|
| 組合員 | Eさん |
| 年齢 | 40代 |
| 地域 | 広島県 |
| 職種 | 事務職 |
| 雇用形態 | 正社員 |
| トラブル種別 | 人員不足につき退職拒否 |
1.相談に至るまでの経緯
Eさんは、広島県内の会社で事務職として勤務していた正社員です。
退職の意思を会社へ伝えたところ、会社から「後任が決まるまで退職はできない」と言われ、退職を拒まれていました。
当時、Eさんには精神的な不調があり、就業を継続することが困難な状況でした。しかし、会社は人員確保を優先し、後任者が決まるまで勤務を続けるよう求めていました。
「後任者が決まらなければ、本当に退職できないのだろうか」という不安を抱当に退職できないのだろうか」という不安を抱えたEさんは、退職手続を進めるため、当組合へ相談しました。
2.本件の法的な問題点
(1)無期雇用では、会社の承諾がなければ退職できないとは限らない
無期雇用契約の場合、労働者は原則として、会社に対していつでも雇用契約の解約を申し入れることができます。
民法第627条第1項では、期間の定めのない雇用契約について、解約の申入れから2週間を経過することで雇用契約が終了すると定められています。
そのため、退職の効力を生じさせるために、必ずしも会社の承諾や退職届の「受理」が必要になるわけではありません。ただし、就業規則や賃金の定め方などとの関係については、個別の事情を確認する必要があります。
(2)人手不足だけを理由に退職を無期限に先延ばしすることはできない
後任者の採用や人員配置は、会社が労務管理上対応すべき事項です。
人手が不足している事情があったとしても、それだけを理由として「後任が決まるまで退職できない」とし、退職時期を無期限に先延ばしすることはできません。
厚生労働省の地方労働局も、無期雇用の労働者から退職の申出があった場合について、「新しい人が見つかるまで、いつまでも退職を許可しないということはできない」と案内しています。
(3)引き継ぎの必要性と退職の可否は分けて考える必要がある
業務の引き継ぎは、円滑な事業運営のために必要となることがあります。
一方で、引き継ぎや後任者の確保が完了していないことによって、当然に退職できなくなるわけではありません。
会社は、退職日までの期間や業務状況を踏まえ、引き継ぎ方法や人員配置を検討する必要があります。労働者に対し、後任者が決まるまで勤務を継続するよう一方的に求められるものではありません。
3.労働組合による会社への対応
当組合は、労働組合法第6条に基づき、組合員のために会社へ通知および団体交渉の申入れを行いました。
実際に行った対応は、次のとおりです。
● Eさんの退職意思を会社へ正式に通知すること
● Eさんが無期雇用の正社員であることを前提に、民法第627条に基づく退職の考え方を文書で説明すること
● 人手不足や後任者が決まっていないことのみを理由として、退職時期を無期限に先延ばしすることはできない旨を説明すること
● Eさんが希望する退職日で手続を進めるよう申し入れること
当組合は、後任者の採用や人員配置は会社が対応すべき労務管理上の問題であり、その責任をEさんの退職制限という形で負わせることはできない旨を伝えました。
4.結果および成果
当組合からの通知および説明を受け、会社はそれまでの対応を改め、Eさんの退職届を受理しました。
退職日についても、Eさんが当初希望していた日で確定しました。
本件では、人手不足や後任者が決まっていないことを理由に退職を拒まれていましたが、無期雇用契約における退職の基本的な考え方を会社へ説明し、希望する退職日に向けて手続を進めることができました。
5.組合としての総括
人手不足の職場では、退職を申し出た際に「後任が見つかるまで辞められない」「引き継ぎが終わるまで退職を認めない」と言われることがあります。
責任感の強い労働者ほど、「自分が辞めたら職場に迷惑がかかるのではないか」と考え、心身に不調があっても勤務を続けてしまう傾向があります。しかし、後任者の採用や人員配置は、原則として会社が対応すべき労務管理上の課題です。
本件で重要だったのは、Eさんが無期雇用の正社員であることを確認したうえで、退職の申入れと人員不足の問題を切り分けて会社へ説明した点です。会社に人員上の事情があっても、それによって労働者の退職が無期限に制限されるわけではありません。
労働者本人だけで会社と話を進めることが難しい場合、労働組合が連絡窓口となり、退職日や退職手続について団体交渉を行うことで、法的な基本原則に沿った話し合いを進めることができます。
当組合は今後も、人手不足を理由とする退職拒否や退職日の先延ばしなどの雇用関係上の問題について、使用者に処分可能な事項の範囲内で、労働組合法に基づく団体交渉を通じて組合員の権利を守ってまいります。
6.本件で問題となり得た主な法令・参考判例
民法
第627条(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)
期間の定めのない雇用契約では、当事者はいつでも解約を申し入れることができ、原則として申入れから2週間を経過することで雇用契約が終了すると定められています。
労働組合法
第6条(交渉権限)
労働組合の代表者または労働組合から委任を受けた者が、組合員のために使用者と交渉する権限を有することを定めています。本件では、退職意思の通知、退職日および退職手続が団体交渉の対象となりました。
参考となる公表資料
大阪労働局「よくあるご質問(退職・解雇・雇止め)」
無期雇用契約では、会社の同意がなければ退職できないというものではないことが案内されています。
茨城労働局「退職の申出があった際には」
新しい人が見つかるまで、いつまでも退職を許可しないという対応はできない旨が案内されています。
※本事例は、個人および会社を特定できないよう、一部を匿名化・一般化しています。
※記載した法令は、会社の具体的な対応によって問題となり得る法令であり、本件において法令違反が確定したことを意味するものではありません。
※法的評価は、雇用契約の内容、会社の対応、証拠そ他の個別事情によって異なります。

