社長個人から飲食代を請求される中、金銭問題と切り分けて退職手続を完了した事例
- 2026.04.29
- 2026.04.30
| 実行日 | 2026年4月 |
|---|---|
| 組合員 | Yさん |
| 年齢 | 30代 |
| 地域 | 北海道 |
| 職種 | 製造業 |
| 雇用形態 | 正社員 |
| トラブル種別 | 退職時の金銭請求・労使間トラブル |
1.相談に至るまでの経緯
組合員のYさんは、在職中から会社との間でさまざまな問題を抱えていました。
職場内の人間関係や勤務上のトラブルが積み重なったことで退職を決意しましたが、会社との関係はすでに悪化していました。そのため、Yさん自身で退職の話を進めることが難しい状況となり、当組合へ退職に関する対応を依頼されました。
さらに、過去に社長と飲食店で食事をした際の費用負担について、Yさんと社長との間で認識に食い違いがありました。退職に際して、社長個人からYさんに対し、食事代の支払いを求める話が出ていたのです。
Yさんは、「退職時にさらに請求が増えるのではないか」「会社との関係が悪化し、退職手続を進められないのではないか」と強い不安を抱えていました。
そこで、会社との直接的なやり取りを避けながら退職手続を進めるため、当組合へ相談されました。
2.本件の法的な問題点
(1)無期雇用契約では、原則として退職の申入れから2週間で契約が終了する
Yさんは、雇用期間の定めがない無期雇用契約の正社員でした。
民法第627条第1項では、期間の定めのない雇用契約について、労働者はいつでも解約を申し入れることができ、原則として申入れから2週間が経過することで雇用契約が終了すると定められています。
本件では、この原則を踏まえ、実行日から2週間後の日を退職日として手続を進めました。
会社との関係が悪化していることや、別の金銭問題が残っていることだけで、退職の意思表示が当然に無効となるものではありません。
(2)退職手続と社長個人による飲食代請求は分けて整理する必要がある
本件の飲食代請求は、会社による請求ではなく、社長個人によるものでした。
会社との雇用契約を終了させるための退職手続と、社長個人との間で生じていた飲食代の問題は、法的には分けて整理する必要があります。
社長個人から飲食代の支払いを求められていたとしても、その問題が残っていることだけを理由として、会社との退職手続が当然に停止されるものではありません。
本件では、飲食代をめぐる認識の違いによって退職手続が妨げられないよう、両者を明確に切り分けて進めることが重要でした。
(3)飲食代の支払義務は、当時の合意内容によって判断される
飲食代の支払義務については、食事の際に誰が費用を負担すると話していたのか、Yさんと社長との間でどのような合意があったのかなどを個別に確認する必要があります。
社長個人から請求があったという事情だけで、直ちにYさんの支払義務が確定するものではありません。
支払いの約束の有無や当時の具体的なやり取りを踏まえて判断する必要があります。
本件では、飲食代についてYさんと社長との間で合意には至らず、最終的には明確な結論が出ないまま終結しました。
(4)感情的な対立を避けながら退職手続を進める必要があった
本件では、在職中からの人間関係や勤務上のトラブルに加え、社長個人との飲食代をめぐる認識の違いもありました。
Yさん本人と会社側が直接やり取りを続けた場合、過去の経緯をめぐって感情的な対立に発展し、退職手続が複雑化する可能性がありました。
そのため、会社との雇用関係に関する退職手続と、社長個人による金銭請求を混同せず、冷静に整理して進めることが重要でした。
3.労働組合による会社への対応
当組合は、労働組合法第6条に基づき、組合員のために会社へ通知および団体交渉の申入れを行いました。
実際に会社へ行った対応は、次のとおりです。
● 無期雇用契約における退職の原則を踏まえ、実行日から2週間後の日を退職日として申し入れること
● 退職に必要な手続を進めるよう求めること
● 社長個人による飲食代請求と会社との退職手続を切り分けるよう求めること
● Yさんへの直接連絡を控え、退職その他の労働関係上の連絡窓口を当組合とするよう求めること
● 飲食代に関する請求が社長個人によるものであることと、その主張内容を確認すること
飲食代については、社長個人との間の一般民事上の問題となり得るため、当組合が支払義務の有無を決定したり、Yさんに代わって合意したりすることは行っていません。
当組合は、飲食代をめぐる問題が会社との退職手続を妨げないよう、雇用関係上の問題と切り分けて対応しました。
4.結果および成果
当組合が会社との連絡窓口となったことで、Yさん本人と会社側との直接的な対立を避けながら、退職手続を進めることができました。
会社との間では、実行日から2週間後の日を退職日として手続が進められ、Yさんは同日をもって退職しました。
社長個人からは食事代の支払いを求める話がありましたが、そのことによって会社との退職手続が妨げられることはありませんでした。
飲食代については、Yさんと社長との間で支払いや請求撤回などの合意には至りませんでした。最終的には、明確な結論が出ないまま、うやむやな状態で終結しています。
したがって、本件は飲食代請求そのものが解決した事例ではありません。本件で確認できた成果は、社長個人との金銭問題を会社との退職手続から切り分け、実行日から2週間後の日をもって退職手続を完了したことにあります。
また、当組合が労働関係上の連絡窓口となることで、Yさんが会社と直接やり取りする負担を軽減し、大きな紛争や法的手続へ発展することなく退職に至りました。
5.組合としての総括
退職時には、過去の人間関係や勤務上のトラブルに加え、会社の代表者や上司から金銭の支払いを求められることがあります。
このような状況では、「金銭問題が終わらなければ退職できないのではないか」「請求に応じなければ退職手続を進めてもらえないのではないか」と不安を感じる方も少なくありません。
しかし、会社との雇用契約を終了させるための手続と、会社の代表者個人との間に生じた金銭問題は、原則として分けて整理する必要があります。金銭請求を受けていることだけで、労働者の支払義務が直ちに確定するものではなく、退職できなくなるものでもありません。
本件では、Yさんが無期雇用契約の正社員であったことを踏まえ、民法第627条に基づく退職手続を進める一方、社長個人による飲食代請求については、退職問題とは別の問題として扱ったことが重要でした。
飲食代について明確な合意や解決には至りませんでしたが、その問題を理由として退職手続が停滞することを避け、実行日から2週間後の日をもって退職することができました。
当組合は今後も、退職時の金銭請求、退職日の調整、会社との連絡方法その他の雇用関係上の問題について、使用者に処分可能な事項の範囲内で、労働組合法に基づく団体交渉を通じて組合員の権利を守ってまいります。
6.本件で問題となり得た主な法令・参考判例
民法
民法第627条
期間の定めがない雇用契約について、当事者はいつでも解約を申し入れることができ、原則として申入れから2週間が経過することで雇用契約が終了すると定めています。
Yさんは無期雇用契約の正社員であり、本件では実行日から2週間後の日を退職日として手続が進められました。
労働組合法
労働組合法第6条
労働組合の代表者または労働組合から委任を受けた者が、労働組合または組合員のため、使用者と交渉する権限を有することを定めています。
本件では、当組合がYさんの退職意思および退職日を会社へ通知し、退職手続や労働関係上の連絡方法について申し入れた根拠となる規定です。
なお、社長個人による飲食代請求そのものは、会社との労働関係上の問題とは区別して検討する必要があります。
参考判例・公表事例
本件では、飲食代に関する合意内容や具体的な請求金額が明らかでなく、最終的な合意にも至っていないため、個別の判例は掲載していません。
※本事例は、個人および会社を特定できないよう、一部を匿名化・一般化しています。
※記載した法令は、会社の具体的な対応によって問題となり得る法令であり、本件において法令違反が確定したことを意味するものではありません。
※法的評価は、雇用契約の内容、会社の対応、証拠その他の個別事情によって異なります。

