長期の無断欠勤中に退職状況を確認し、未受領給与の振込・退職金支給等を整理した事例
- 2026.06.18
- 2026.06.22
| 実行日 | 2026年6月 |
|---|---|
| 組合員 | Kさん |
| 年齢 | 20代 |
| 地域 | 茨城県 |
| 職種 | 作業員 |
| 雇用形態 | 正社員 |
| トラブル種別 | 長期無断欠勤、給与支払い、退職金、有給休暇の取扱い |
1.相談に至るまでの経緯
組合員のKさんは、精神的な負担等により出勤することが難しくなり、長期間にわたって無断欠勤の状態となっていました。
会社との連絡も十分に取れない状況が続いており、自分で退職意思を伝えることが困難になっていました。
また、Kさんの給与は手渡しで支給されていたため、受け取っていない給与を今後どのような方法で受領するのかも分からない状態でした。
さらに、退職金の支給対象となるのか、有給休暇がどのように処理されるのかについても不明な点が残っていました。
そこでKさんは、退職状況と退職後の金銭・手続を整理するため、当組合へ相談しました。
2.本件の法的な問題点
(1)無断欠勤中でも退職意思を伝えることはできる
長期間の無断欠勤が続いていても、労働者が退職意思を表示すること自体ができなくなるわけではありません。
ただし、退職の効力が発生する時期は、雇用契約に期間の定めがあるかによって異なります。
期間の定めがない雇用契約では民法第627条、期間の定めがある雇用契約を契約期間の途中で終了する場合には民法第628条などが問題となります。本件では雇用期間の定めが確認できないため、適用関係を確定するには雇用契約書等の確認が必要です。
また、本件では会社側が既に退職処理を進めていました。そのため、新たな退職日の交渉に入る前に、退職日や雇用契約の終了理由を確認する必要がありました。
(2)既に働いた分の給与は、欠勤や退職だけで失われるものではない
無断欠勤期間がある場合でも、それ以前に提供した労務に対する給与まで失われるものではありません。
労働基準法第24条は、使用者に対して賃金を労働者へ支払うことを定めています。また、退職後に労働者から請求があった場合には、同法第23条により、原則として7日以内に賃金や労働者の権利に属する金品を支払う必要があります。
本件では給与が手渡しとなっていたため、退職後に確実に受け取れるよう、振込による支払へ変更できるかを会社と調整する必要がありました。
(3)退職金の支給は会社の規程等によって判断される
退職金制度は、すべての会社に法律上当然に設けられているものではありません。
会社に退職金制度がある場合は、就業規則や退職金規程などに定められた適用対象、勤続期間、支給条件、支払時期等に基づいて、支給の有無が判断されます。
そのため、本件では、Kさんが会社の退職金制度の支給対象となるかを確認する必要がありました。
(4)退職時の有給休暇の買い取りは、会社の処理内容を確認する必要がある
年次有給休暇は、本来、労働者が賃金の支払いを受けながら休むための制度です。会社が買い取りを理由として、在職中の有給休暇の取得を妨げることは認められません。
一方、退職によって消滅する有給休暇について、会社が残日数に応じて任意に金銭を支給することは、必ずしも労働基準法に違反するものではありません。ただし、会社に買い取りを義務付ける一般的な規定はありません。
本件では、会社から、有給休暇については買い取りとして既に処理しているとの説明がありました。
3.労働組合による会社への対応
当組合は、労働組合法第6条に基づき、組合員のために会社へ通知および団体交渉の申入れを行いました。
会社に対して申し入れた主な内容は、次のとおりです。
● 未受領給与の支払方法について協議すること
● 退職金制度の適用の有無を確認すること
● 有給休暇の処理状況を確認すること
● 退職に必要な書類の発行手続を進めること
本件では、退職意思を通知するだけでなく、会社側で既に退職処理が行われている可能性も踏まえ、現在の雇用状況を確認しました。
そのうえで、雇用関係に由来する未受領給与、退職金および有給休暇の取扱いについて、会社へ説明と対応を求めました。
4.結果および成果
当組合からの通知と確認に対し、会社からは、Kさんについて既に退職処理を進めていたとの説明がありました。
未受領給与については、従来の手渡しではなく、振込によって支払うことが決まりました。
退職金については、Kさんが支給対象であり、会社が支給に必要な手続を進めることが確認されました。
有給休暇については、会社側で買い取りとして処理済みであるとの回答を得ました。
また、退職手続についても、既に完了していることを確認しました。
これにより、長期間会社と十分な連絡を取れずにいたKさんは、組合を通じて退職状況を確認できました。未受領給与の受取方法、退職金の支給、有給休暇の処理についても整理され、退職後の金銭面および手続面に関する不安の解消につながりました。
5.組合としての総括
無断欠勤が長期間続くと、「会社ではどのような扱いになっているのか」「既に解雇や退職として処理されているのではないか」「給与や退職金を受け取れないのではないか」と、不安を抱える方も少なくありません。
しかし、無断欠勤中であっても、既に働いた分の給与が当然に失われるわけではありません。退職金についても、会社の就業規則や退職金規程に基づいて、支給条件を確認する必要があります。
本件で重要だったのは、会社が既に行っていた退職処理の状況を確認したうえで、未受領給与、退職金および有給休暇をそれぞれ分けて整理したことです。
労働者本人が会社との連絡に強い負担を感じている場合でも、労働組合が雇用関係上の連絡窓口となり、使用者に説明を求めることで、退職後に残された手続や金銭問題を整理できる場合があります。
当組合は今後も、無断欠勤、退職状況の確認、未受領給与、退職金、有給休暇等の問題について、使用者に処分可能な事項の範囲内で、労働組合法に基づく団体交渉を通じて組合員の権利を守ってまいります。
6.本件で問題となり得た主な法令・参考判例
労働基準法
第23条(金品の返還)
労働者が退職し、権利者から請求があった場合、使用者は原則として7日以内に賃金や労働者の権利に属する金品を支払い、または返還しなければなりません。
第24条(賃金の支払)
賃金を労働者に直接、その全額を支払うことなどを定めています。無断欠勤や退職があっても、既に発生している賃金の支払について問題となる条文です。
第39条(年次有給休暇)
一定の要件を満たした労働者に年次有給休暇を付与することを定めています。買い取りを理由として在職中の有給休暇の取得を妨げることはできませんが、退職によって消滅する日数の買い取りを会社に義務付ける規定ではありません。
【法令】労働基準法|e-Gov法令検索
民法
第627条(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)
雇用期間の定めがない場合、労働者から雇用契約の解約を申し入れることができます。
第628条(やむを得ない事由による雇用の解除)
雇用期間の定めがある場合に、やむを得ない事由によって契約期間の途中で雇用契約を終了する場面で問題となります。
【法令】民法|e-Gov法令検索
労働組合法
第6条(労働組合の代表者等による交渉権限)
労働組合の代表者等が、組合員のために使用者と交渉する権限を定めています。本件で当組合が退職状況、未受領給与、退職金および有給休暇の処理について確認・交渉した主な法的根拠です。
【法令】労働組合法|e-Gov法令検索
参考判例・公表事例
参考となる公的資料を掲載します。
長野労働局「労働条件整備ハンドブック・労働基準監督署へ多く寄せられる相談事例」
退職の意思表示、退職金の支払、有給休暇の買い取りなど、退職時に問題となりやすい事項について解説した公表資料です。
【公式資料】長野労働局「労働条件整備ハンドブック」(PDF)
茨城労働局「退職金はないと言われたのですが」
退職金制度の設置は法律上一律に義務付けられていないものの、就業規則等に支給条件が定められている場合は、その内容に基づいて支給の有無が判断されることを解説しています。
【公式資料】茨城労働局「退職金はないと言われたのですが」
※本事例は、個人および会社を特定できないよう、一部を匿名化・一般化しています。
※記載した法令は、会社の具体的な対応によって問題となり得る法令であり、本件において法令違反が確定したことを意味するものではありません。
※法的評価は、雇用契約の内容、会社の対応、証拠その他の個別事情によって異なります。

