退職後も返金時期が示されなかった社宅の預かり金について、会社への交渉により返還を確認した事例
- 2026.05.12
- 2026.05.14
| 実行日 | 2026年5月 |
|---|---|
| 組合員 | Sさん |
| 年齢 | 40代 |
| 地域 | 愛知県 |
| 職種 | サービス業 |
| 雇用形態 | 正社員 |
| トラブル種別 | 預かり金(保証金)の返還遅延 |
1.相談に至るまでの経緯
組合員のSさんは退職に伴い、社宅へ入居した際に会社へ預けていた預かり金の返還を求めていました。
これに対し、会社からは「退職後、管理会社との精算が完了するまで返金できない」との説明がありました。しかし、具体的な返金時期や返還される金額について、明確な案内はありませんでした。
Sさんは「精算後に返金する」と説明されていたものの、その後も十分な連絡がなく、いつ返金されるのか分からない状態が続いていました。
預かり金の精算状況は会社側で管理されていたため、Sさん自身では進捗を確認することが難しい状況でした。返金の見通しが立たないことに不安を感じたSさんは、当組合へ相談しました。
2.本件の法的な問題点
(1)退職後の預かり金は「労働者の権利に属する金品」に当たる可能性がある
退職後に労働者へ返還すべき預かり金や保証金は、労働基準法第23条の「労働者の権利に属する金品」に該当する可能性があります。
同条では、労働者が退職し、権利者から請求があった場合、使用者は原則として請求から7日以内に、保証金その他の労働者の権利に属する金品を返還しなければならないと定めています。
本件では社宅規程に定められた精算条件の確認、預かり金の性質や返還条件を個別に確認する必要がありました。
(2)精算が必要な場合でも、返還対象や進捗を確認することが重要
社宅の退去に伴い、管理会社との間で原状回復費用などの精算が必要となる場合があります。
もっとも、「精算が終わるまで返金できない」との説明だけでは、労働者は精算の進捗、返還予定日、控除される項目などを把握できません。
預かり金の金額について争いがある場合でも、労働基準法第23条第2項により、異議のない部分については返還の対象となります。そのため、会社に対して、精算状況、返還予定時期、返還額の算定根拠を具体的に確認することが重要です。
(3)退職後の社宅に関する金銭清算も団体交渉の対象となり得る
本件の預かり金は、会社が提供していた社宅への入居に伴って預けられたものであり、雇用関係に付随する金銭問題です。
労働組合法第6条は、労働組合の代表者または委任を受けた者に、組合員のために使用者と交渉する権限を認めています。
そのため、会社が返還すべき預かり金の有無、精算状況、返還時期などについて確認し、返還手続を求めることは、雇用関係上の清算問題に関する団体交渉として行うことができます。
3.労働組合による会社への対応
当組合は、労働組合法第6条に基づき、組合員のために会社へ通知および団体交渉の申入れを行いました。
会社に対して申し入れた内容は、次のとおりです。
● 預かり金の返金時期について、具体的に説明すること
● 精算完了後、速やかに返金手続を行うこと
● 今後の手続や進捗について、適切に連絡すること
また、Sさんが「返金時期が分からず不安を感じている」ことも会社へ伝え、預かり金の返還に向けて誠実に対応するよう求めました。
当組合が行ったのは、会社が管理する預かり金の精算状況と返還手続に関する交渉です。管理会社との精算そのものを代理したものではありません。
4.結果および成果
当組合による申入れ後、会社からは、預かり金の返還手続を進めるとの回答がありました。
その後、会社から振込処理を行うとの連絡があり、Sさんへの預かり金の返還が実現しました。
返金時期が明確になり、実際に返還されたことで、Sさんが抱えていた「いつ返金されるのか分からない」という不安も解消されました。
本件では、会社に精算状況と返還時期を具体的に確認し、返還手続を求めたことにより、退職後に残っていた預かり金の問題について解決に至りました。
5.組合としての総括
退職時の預かり金や保証金をめぐっては、会社から「後日返金する」「精算が終わってから返金する」と説明されたものの、具体的な返金日が示されないケースがあります。
社宅の退去に伴う精算が必要な場合、返還額が直ちに確定しないこともあります。しかし、精算中であることを理由に、返還時期や手続の進捗が分からない状態が長期間続けば、労働者は大きな不安を抱えることになります。
本件で重要だったのは、会社に対して単に返金を求めるだけでなく、精算状況、返還予定時期、今後の手続を具体的に確認した点です。会社が把握している情報を明らかにすることで、返還手続を進めることができました。
退職後の問題であっても、雇用関係に付随する社宅の預かり金や保証金の清算は、団体交渉の対象となり得ます。労働者が会社へ直接確認することが難しい場合には、労働組合が交渉窓口となることにも意義があります。
当組合は今後も、退職に伴う未返還金、預かり金および社宅の清算等の問題について、使用者に処分可能な事項の範囲内で、労働組合法に基づく団体交渉を通じて組合員の権利を守ってまいります。
6.本件で問題となり得た主な法令・参考判例
労働基準法
第23条(金品の返還)
労働者が退職し、権利者から請求を受けた場合、使用者は原則として7日以内に、保証金その他名称を問わず、労働者の権利に属する金品を返還しなければなりません。
返還する金品の範囲や金額について争いがある場合でも、異議のない部分については返還する必要があります。
労働組合法
第6条(交渉権限)
労働組合の代表者または労働組合から委任を受けた者は、組合または組合員のために、使用者と労働協約の締結その他の事項について交渉する権限を有します。
本件では、雇用関係に付随する社宅の預かり金について、精算状況や返還時期を会社へ確認し、返還手続を求める根拠となります。
参考となる公表資料
- 資料名 兵庫労働局「解雇・退職」
- 公表機関 兵庫労働局
- 本件との関係 退職後の保証金等について、労働者から請求があった場合の返還期限や、金額に争いがある場合の取扱いが説明されています。
- 公式資料 兵庫労働局「解雇・退職」
※本事例は、個人および会社を特定できないよう、一部を匿名化・一般化しています。
※記載した法令は、会社の具体的な対応によって問題となり得る法令であり、本件において法令違反が確定したことを意味するものではありません。
※法的評価は、雇用契約の内容、会社の対応、証拠その他の個別事情によって異なります。

