退職代行ローキ(労働基準調査組合)

退職時に設備費28万円と3か月間の現場作業を求められたケースで、請求撤回と追加労働を求めない回答を得た事例

  • 2025.07.14
  • 2025.07.14
実行日 2025年7月
組合員 Sさん
年齢 40代
地域 大阪府
職種 建設業
雇用形態 正社員
トラブル種別 退職時の設備費請求・追加労働の要求

1.相談に至るまでの経緯


Sさんは、建設業の会社で無期雇用契約の正社員として勤務していました。

退職の意思を会社へ伝えたところ、会社から、社宅に設置されていたシャワールームやクーラーの設備費として、28万円を支払うよう求められました。

さらに会社からは、退職の条件として、日当制による3か月間の現場作業を行うよう提示されました。

Sさんによると、社宅へ入居した際、シャワールームやクーラーの設備費を本人が負担するとの説明はありませんでした。また、費用負担についてSさんが署名した契約書や覚書なども示されなかったとのことです。

Sさんは、設備費28万円を支払わなければならないのか、また、退職するために3か月間の現場作業へ応じなければならないのかという問題を抱え、当組合へ相談しました。
 

2.本件の法的な問題点

(1)設備費28万円の請求には、契約上の根拠と計算内容の確認が必要です


退職時に金銭を請求されたとしても、その請求だけで直ちに労働者の支払義務が確定するものではありません。

労働基準法第16条は、労働契約の不履行について違約金を定めたり、損害賠償額をあらかじめ予定したりする契約を禁止しています。一方で、実際に生じた損害や費用について、使用者が具体的な根拠を示して請求することまで一律に禁止する規定ではありません。

そのため、本件の設備費28万円についても、単に退職することへの違約金として請求されたのか、社宅設備に関する実際の費用負担として請求されたのかを区別する必要があります。

請求の適否を判断するためには、設備の所有関係、入居時の説明内容、費用負担に関する合意の有無、28万円の計算根拠などを個別に確認しなければなりません。

本件では、Sさんから「入居時に費用負担の説明はなかった」「署名した契約書や覚書も示されていない」との申告があったため、会社に対して請求根拠を明らかにするよう求める必要がありました。
 

(2)退職条件として3か月間の労働を受け入れる義務が当然に生じるわけではありません


無期雇用契約では、労働者は原則として、会社に対していつでも退職の申入れをすることができます。民法第627条第1項では、解約の申入れから2週間を経過することで雇用契約が終了すると定められています。

したがって、会社が退職を認める条件として、従来の雇用契約にはない3か月間の現場作業を提示したとしても、Sさんがその条件を当然に受け入れなければならないわけではありません。

また、労働契約法第8条は、労働条件を変更する場合には、労働者と使用者の合意によることを原則としています。追加の労働条件が成立するかどうかについても、労使間で合意があったかを確認する必要があります。
 

(3)退職時に初めて高額な負担を求める対応は、信義則との関係で問題となる可能性があります


民法第1条第2項は、権利の行使および義務の履行について、信義に従い誠実に行わなければならないと定めています。これは一般に「信義則」と呼ばれる原則です。

退職時に費用を請求したことだけで、直ちに信義則に反すると断定することはできません。

しかし、入居時には費用負担を説明せず、退職を申し出た段階で初めて高額な請求をした場合には、従前の説明内容、労使間の合意、請求の時期や目的などによって、信義則との関係で問題となる可能性があります。
 

3.労働組合による会社への対応


当組合は、労働組合法第6条に基づき、組合員であるSさんのために、会社へ通知および団体交渉の申入れを行いました。

実際に行った対応は、次のとおりです。
 

  1. 設備費28万円について、Sさんが入居時に費用負担の説明を受けておらず、署名済みの契約書や覚書も示されていないことを会社へ伝えました。
     
  2. 設備費の請求が、退職を理由としてあらかじめ定められた違約金や損害賠償額に当たる場合には、労働基準法第16条との関係で問題となる可能性があることを指摘しました。
     
  3. 退職時に初めて28万円の負担を求められた経緯について、入居時の説明内容、費用負担に関する合意の有無および請求時期を踏まえ、信義則との関係から請求方針を再検討するよう、団体交渉における回答書面で求めました。
     
  4. 退職条件として3か月間の現場作業を提示することについて、従来の雇用契約には含まれていない条件であり、Sさんが同意していないことを伝え、会社へ見直しを求めました。
     
  5. 設備費請求や追加の労働提供を退職の条件とせず、Sさんの退職手続を進めるよう申し入れました。
     

本件で当組合が対応したのは、Sさんと会社との雇用関係に伴う退職条件、設備費の負担および追加労働に関する事項です。
 

4.結果および成果

当組合からの書面を受けた会社は、社宅のシャワールームやクーラーに関する設備費28万円の請求を正式に撤回しました。

また、退職条件として提示していた3か月間の現場作業についても、Sさんへ求めないことを明言しました。

これにより、Sさんは設備費28万円を負担することや、追加の現場作業へ応じることを退職の条件とされることなく、予定どおり退職手続を進めることができました。

本件で確認できた成果は、次の3点です。
 

  1. 会社が設備費28万円の請求を正式に撤回したこと
  2. 会社が3か月間の追加労働を求めないと回答したこと
  3. Sさんが予定どおり退職手続を進められる状態になったこと
     

5.組合としての総括


退職を申し出た際に会社から高額な費用を請求されたり、「一定期間働かなければ退職を認めない」と言われたりすると、多くの労働者は「支払わなければ辞められないのではないか」と不安を感じます。

しかし、会社から請求を受けたという事実だけで、直ちに支払義務が確定するものではありません。まずは、請求の法的・契約上の根拠、金額の計算方法、事前説明や合意の有無を確認することが重要です。

特に労働基準法第16条は、労働者の退職など、労働契約の不履行に備えて違約金や損害賠償額をあらかじめ決めることを禁止しています。ただし、具体的な費用や実際に発生した損害の請求まで一律に禁止するものではないため、請求の性質を慎重に確認しなければなりません。

本件では、設備費請求と追加労働の根拠を確認するとともに、これらを退職の条件とすることの問題点を会社へ伝えた結果、会社から請求撤回と追加労働を求めないとの回答を得ることができました。

当組合は今後も、雇用関係に伴う退職条件、金銭請求および追加労働等の問題について、使用者に処分可能な事項の範囲内で、労働組合法に基づく団体交渉を通じて組合員の権利を守ってまいります。

 

当組合は、Sさんの設備費に関する法的な支払義務の有無または会社の請求の法的有効性を確定したものではありません。

本件では、雇用関係に伴う退職条件、社宅設備費の負担および追加労働の要求について、使用者に処分可能な事項として、請求および要求の見直しを団体交渉で求めました。
 

6.本件で問題となり得た主な法令・参考判例

労働基準法

第16条(賠償予定の禁止)

使用者が、労働契約の不履行について違約金を定めたり、損害賠償額をあらかじめ予定したりする契約を禁止しています。

ただし、実際に発生した損害や具体的な費用について、個別の根拠に基づいて請求することまで一律に禁止する規定ではありません。

民法

第1条第2項(信義誠実の原則)

権利の行使および義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならないと定めています。

事前の説明がない費用を退職時に請求する行為については、説明や合意の経緯などにより、同項との関係が問題となる可能性があります。

第627条第1項(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)

雇用期間の定めがない場合、各当事者はいつでも解約を申し入れることができ、原則として申入れから2週間の経過により雇用契約が終了すると定めています。

その他の労働関係法令

労働契約法

第8条(労働契約の内容の変更)

労働者と使用者は、双方の合意によって労働契約の内容である労働条件を変更できると定めています。

退職条件として従来の契約にはない労働を求める場合には、その内容について労使間の合意があるかが重要となります。

労働組合法

第6条(交渉権限)

労働組合の代表者または組合から委任を受けた者は、組合員のために、使用者と労働協約の締結その他の事項について交渉する権限を有すると定めています。

本件では、この規定に基づき、退職条件、設備費請求および追加労働に関する団体交渉の申入れを行いました。

参考判例・公表事例

厚生労働省・和歌山労働局「賠償予定の禁止(第16条)」

労働基準法第16条が禁止する違約金・損害賠償額の予定と、実際に発生した損害に関する請求との違いを説明した公表資料です。

公式資料

厚生労働省「退職、解雇、雇止めなど」

期間の定めのない労働契約における退職申出と、民法第627条第1項の基本的な考え方を説明した公表資料です。

公式資料

※本事例は、個人および会社を特定できないよう、一部を匿名化・一般化しています。
※記載した法令は、会社の具体的な対応によって問題となり得る法令であり、本件において法令違反が確定したことを意味するものではありません。
※法的評価は、雇用契約の内容、会社の対応、証拠その他の個別事情によって異なります。

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