- 規程があれば退職金は賃金。不支給には高い壁がある
- 不支給が許されるのは長年の功労を消すほどの背信行為だけ
- 請求の時効は5年。規程と就業規則の確保が先

「規則違反したから退職金なし」って言われた…



会社が払わないと言ったら、もう終わりなの?
結論からお伝えします。退職金の規程があり支給の条件を満たしているなら、退職金は法律上の賃金であり、会社が「不祥事があったから払わない」と決めるだけでは不支給にできません。裁判所が不支給を認めるのは、長年の勤続の功労を帳消しにしてしまうほどの著しい背信行為があった場合に限られます。
退職金の欄が空欄の給与明細を、何度も見返してしまう。そこから先に進むための知識を、この記事にまとめました。
本記事では、2026年8月に報じられた「退職金1000万円超の支払い命令」の判決を入口に、不支給が違法になる判断基準、逆に全額不支給が適法とされた対照的な最高裁判例、そして退職金を払ってもらえないときに取るべき手順まで、労働組合の立場から解説します。
※この記事は2026年8月時点の情報をもとに作成しています。
退職金1000万円超の支払い命令|2026年8月に報じられた東京地裁判決
2026年8月20日の労働新聞社の報道によると、歯科技工業の会社を退職した60歳代の労働者が退職金の不支給を争った訴訟で、東京地方裁判所は2026年7月8日、会社に1000万円超の退職金の支払いを命じました。
報道によれば、この労働者には不適切な行為があったとされています。それでも裁判所は不支給を認めませんでした。理由は2つ報じられています。ひとつは、これまで特段の注意処分を受けていなかったこと。もうひとつは、その行為が「20年以上の功労を抹消・減殺してしまうほどではない」ことです。
問題行動があった事実と、退職金を没収できるかは、まったく別の問題として審査されるということです。
さらにこの判決では、会社側の「定年退職に基づく計算」という主張も退けられています。裁判所は、再雇用ではなく雇用が継続していたと認定したと報じられています。退職金を減らす理屈として持ち出された定年の区切り自体が、認められなかった形です。



「問題を起こした人にも払え」ではなく「消せるほどの功労か」を測るんです。
退職金の不支給はなぜ簡単に認められないのか|賃金の後払いという性格
なぜ会社の一存で消せないのか|賃金の後払いという性格
理由は退職金の法的な性格にあります。退職金は、就業規則や退職金規程で支給条件が決まっていれば、労働の対価である賃金の後払いとしての性格を持ちます。毎月の給料を「態度が悪かったから返せ」と言えないのと同じで、すでに働いた分の対価を会社の一存で消すことはできません。
一方で退職金には、長年の勤務に報いる功労報償としての性格もあります。この二面性があるため、裁判所は「勤続の功労を打ち消すほどの背信があったか」という物差しで不支給の有効性を判断してきました。
不支給・減額が有効になるための最低条件
そもそもの前提として、会社が退職金を不支給や減額にするには、就業規則や退職金規程にその旨の定め(不支給条項・減額条項)があることが必要です。規程に何も書かれていないのに「素行が悪かったから減らす」ことはできません。条項があって初めて、その適用が妥当かという次の審査に進みます。あなたの会社の規程に不支給条項があるか、あるならどんな場合と書かれているか。ここが出発点です。
基準になっているのは、裁判例で繰り返し使われてきた考え方です。不支給や大幅な減額が許されるのは、それまでの勤続の功を抹消または減殺してしまうほどの著しく信義に反する行為があった場合に限る、というものです。厚生労働省の「確かめよう労働条件」の裁判例ページでも、この枠組みの代表的な判決が紹介されています。
- 就業規則・退職金規程に不支給の定めがそもそもあるか
- 行為の重大さが長年の功労を打ち消すほどか
- それまでの勤務状況や処分歴とのバランス
だからこそ今回の判決では「特段の注意処分を受けていなかった」ことが効きました。20年以上まじめに働いてきた実績は、それ自体が守られるべき財産として扱われるのです。
全額不支給が認められない場合でも、行為の程度に応じて一部の減額にとどめる判断がなされることがあります。過去の裁判例には、背信性の程度を踏まえて何割かの支給を命じたものもあり、ゼロか満額かの二択ではありません。また、退職した後に問題行為が発覚した場合に退職金の返還を求められるかも、同じ物差しで争われます。「もう辞めたから関係ない」とも「発覚したから全額返せ」とも、単純には決まらないのです。



規程で約束した以上、退職金は「ごほうび」ではなく後払いの賃金です。
全額不支給が適法になった例もある|1,000円の着服で1,200万円が消えた最高裁判決
逆の結論になった判決も知っておく必要があります。2025年4月17日、最高裁判所は、乗客から受け取った運賃1,000円を着服した市営バスの運転手について、約1,200万円の退職手当の全額不支給を適法と判断しました。
金額は1,000円です。それでも最高裁は、公金を扱う業務の中での着服という行為の性質と、事業への信頼を損なった点を重く見ました。この判決は厚生労働省の裁判例ページにも掲載されています。
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| 比較 | 2026年報道の東京地裁判決 | 2025年の最高裁判決 |
|---|---|---|
| 結論 | 不支給は認められず1000万円超の支払い命令 | 約1,200万円の全額不支給が適法 |
| 行為 | 不適切な行為はあったが注意処分歴なし | 乗客運賃1,000円の着服(公金・信頼の中核) |
| 分かれ目 | 20年以上の功労を消すほどではない | 職務の核心を裏切る行為で信頼を大きく損ねた |
2つの判決を並べると、分かれ目は金額の大小ではないことがわかります。職務の信頼の核心を裏切ったかどうか、そして勤続の実績を消すほどかどうか。ここが物差しです。「不祥事イコール退職金没収」でもなければ、「少額なら大丈夫」でもありません。
よくある会社側の言い分と、その通用度
実際の相談で会社側がよく使う理屈も整理しておきます。「懲戒解雇だから退職金はゼロが当然」という言い分は、そのままでは通りません。懲戒解雇の有効性と退職金の不支給は別々に審査され、懲戒解雇が有効な場合ですら、功労を消すほどの背信でなければ一部支給を命じた裁判例があります。
「業績が悪くて払えない」も、支払いを拒む理由にはなりません。規程上の支給条件を満たした退職金は賃金債権であり、経営状況は支払義務を消しません。支払えないほどの経営難であれば、それは分割払いの交渉や、倒産時の未払賃金立替払制度の話であって、不支給の根拠ではないのです。



金額ではなく「仕事の信頼の芯を折ったか」で結論が割れています。
退職金を払ってもらえないときに今日からできること
やることは3つです。規程を確保する、支給条件を確かめる、書面で請求する。この順番で進めます。
手順1・2|規程の確保と支給条件の確認
まず退職金規程と就業規則です。会社には就業規則を見やすい場所に備え付けるなどして労働者に周知する義務があります。在職中なら閲覧を申し出て、写真やコピーで手元に確保してください。退職後でも請求できますが、在職中のほうが確実です。あわせて、勤続年数がわかる雇用契約書や、支給額の計算に使われる賃金がわかる給与明細もそろえます。
次に支給条件です。勤続何年から支給されるか、自己都合と会社都合で係数が違うか、不支給や減額の条項がどう書かれているか。今回の判決のように、会社が定年や再雇用の区切りを理由に減額してくる場合もあるため、雇用契約がどこで切れてどこで続いているかも確認のポイントになります。
手順3|書面で請求する(文例つき)
請求は口頭ではなく、日時と内容が残る形で行います。メールでも構いませんが、会社が無視する場合は配達証明付きの内容証明郵便に切り替えると、請求した事実と日付が公的に残ります。
請求文の例(メール・書面共通)
件名:退職金の支払いについて(元◯◯部・氏名)
私は◯年◯月◯日に貴社を退職いたしました。
退職金規程第◯条にもとづき、退職金◯◯円の支払いを請求いたします。
◯月◯日までに、下記口座へのお振込みをお願いいたします。
なお、支払いに応じられない場合は、その理由と根拠となる規程の条文を書面でご回答ください。
最後の一文が実務では効きます。会社に「支払わない理由」を文字で書かせると、その説明が規程と食い違っていた場合に、後の話し合いや手続きであなたの証拠になるからです。なお時効の5年は、規程で定められた支払日から数えます。退職日ではなく支払日が起点である点も覚えておいてください。
退職金の請求権の時効は5年です。未払い残業代などの賃金(当分の間3年)より長く、あとからでも争えます。
それでも会社が請求に応じない場合は、労働基準監督署への相談や、裁判所の労働審判という選択肢があります。手続きの種類と使い分けは労働問題解決の選択肢としての労働審判と少額訴訟や保全手続で解説しています。
中退共など「会社の外」に積み立てられた退職金は止めにくい
もうひとつ、必ず確認してほしいのが退職金の積み立て先です。中小企業退職金共済(中退共)に会社が加入している場合、退職金は勤労者退職金共済機構から退職者本人に直接支払われる仕組みで、会社の口座を経由しません。会社とトラブルになっていても、本人が機構に請求すれば受け取れる可能性が高いお金です。
自分の会社が中退共に加入しているかは、入社時の労働条件通知書、給与明細の控除欄、会社案内の福利厚生欄で確認できます。「会社が退職金を払わないと言っている」と諦める前に、そもそも支払い主体が会社なのか機構なのかを確かめてください。
なお、退職金がいつ支払われるものなのかを先に知りたい方は、退職金はいつもらえる?支給時期の目安と振り込まれないときの対処法をご覧ください。



証拠の確保が先、請求はその後。順番を守ると強く戦えます。
これから辞める人へ|退職金の請求は労働組合が交渉できます
先にお伝えしておきます。今回の判決のように、すでに不支給の通告を受けて金額を裁判で争う段階なら、訴訟代理ができる弁護士が適しています。労働基準調査組合は労働組合であり、団体交渉はできますが訴訟の代理人にはなれません。
一方で、これから辞める段階なら打てる手が多くあります。実際の相談で多いのは、「辞めると言ったら退職金を払わないと言われそうで、言い出せない」というものです。ここは労働組合の出番です。
退職代行ローキは、労働基準調査組合という労働組合が運営しています。労働組合には会社と交渉する権限があるため、退職の連絡と同時に、退職金の支払いの申し入れまで本人に代わって行えます。退職金規程があり支給の条件を満たしている場合、支払われないケースはほとんどありません。※会社への借金や、業務中の事故などで会社に損害を与えているケースは除きます。
- 退職金の支払いの申し入れと支給条件の確認
- 残っている有給休暇の消化と退職日の調整
- 未払いの給与や賞与の支払いの申し入れ
料金は19,800円(税込)で、内訳は組合加入費2,800円と組合費17,000円です。相談は無料で、LINEなら24時間受け付けています。退職代行を使うと退職金がもらえなくなるのでは、という不安への答えは退職代行を使うと退職金はもらえない?退職金をもらえる辞め方についてにまとめています。



「払わないと言われそう」の段階なら、辞める前の設計で守れますよ。
退職金の不支給に関するよくある質問(FAQ)
就業規則違反をしたら退職金はもらえなくなりますか?
違反があった事実だけでは不支給にできません。裁判所は、長年の勤続の功労を抹消・減殺してしまうほどの著しい背信行為があったかどうかで判断します。2026年8月に報じられた東京地裁判決でも、不適切な行為はあったものの注意処分歴がなく、20年以上の功労を消すほどではないとして、1000万円超の支払いが命じられています。
退職金の請求に時効はありますか?
あります。退職手当の請求権の時効は5年です(労働基準法115条)。未払い残業代などの賃金の時効(当分の間3年)より長いため、退職から時間が経っていても請求できる場合があります。
退職金規程がない会社でも退職金はもらえますか?
規程や労働契約に定めがない場合、法律上の支払い義務は原則として発生しません。ただし、求人票や労働条件通知書に退職金の記載がある場合や、過去の退職者に慣行として支払われてきた場合は、支払い義務が認められることがあります。まずは手元の書類を確認してください。
退職代行を使ったことを理由に退職金を減らされることはありますか?
退職代行を使ったこと自体は、退職金を不支給や減額にする正当な理由になりません。退職の意思を第三者を通じて伝えることは適法な行為であり、功労を打ち消す背信行為にはあたらないためです。規程の支給条件を満たしていれば、通常どおり請求できます。
会社が「懲戒解雇にするから退職金はない」と言ってきたらどうすればいいですか?
まず、懲戒解雇と退職金の不支給は別々に有効性が判断されるものです。退職金規程・就業規則・これまでの処分歴の記録を確保し、記録が残る形でやり取りをしてください。退職したことに対して懲戒解雇処分がなされた場合、退職代行ローキでは顧問弁護士が追加料金なしで撤回交渉を行います。※故意による損害や横領など、退職と無関係な事由による処分は対象外です。
まとめ|「払わない」と言われても、勤続の実績はあなたの財産
退職金の規程があり条件を満たしているなら、退職金は賃金の後払いです。会社が不支給にできるのは、長年の功労を帳消しにするほどの著しい背信行為があった場合に限られます。2026年8月に報じられた東京地裁判決は、不適切な行為があっても処分歴がなく功労を消すほどではないとして、1000万円超の支払いを命じました。
一方で、1,000円の着服でも全額不支給が適法とされた最高裁判決もあります。分かれ目は金額ではなく、職務の信頼の核心を裏切ったかどうかです。自分のケースがどちらに近いかは、規程の文言と勤務実績の記録で決まります。時効は5年。証拠の確保から始めてください。
判断の軸をひとつ挙げるなら、「言われた金額をのむ前に、規程を見たか」です。規程を見ずに諦めるのは、後払いの賃金を置いて帰るのと同じことです。これから辞める方なら、退職代行ローキが労働組合として、退職の連絡から退職金の支払いの申し入れ、有給消化までまとめて交渉します。相談は無料で、LINEなら24時間受け付けています。



20年の勤続は、20年分の後払い賃金。置いて帰らないでくださいね。
退職金を払ってもらえるか不安な方も、まずはLINEで状況をお聞かせください。
退職代行ローキは労働組合として会社と直接交渉します。
料金は19,800円(税込)で、相談は無料です。
参考情報・出典
・労働新聞社「退職金1000万円超の支払い命令 不支給事由を認めず 東京地裁」(2026年8月20日)
・厚生労働省「確かめよう労働条件」退職金不払いに関する裁判例
・e-Gov法令検索「労働基準法」(89条・115条・附則143条)
・厚生労働省「都道府県労働局(労働基準監督署)所在地一覧」
・裁判所「労働審判手続」
執筆者


労働基準調査組合 執行委員長
谷本 祥子
私は飲食店勤務やメーカー代理店勤務など、さまざまな仕事を経験してきました。メーカー代理店では、商品販売の営業職として働いていました。現場では長時間労働や無理なノルマ強要が当たり前で、私も同僚たちも皆疲弊しきっていました。従業員たちが「辞めたい」と申し出ても、会社は「後任が見つかるまで待て」とか「引き継ぎが終わるまでダメだ」と拒み続け、退職を認めませんでした。中には精神的に追い詰められて鬱病になり、ある日突然来なくなってしまう同僚もいました。
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私自身も会社の方針に疑問を感じ、労働環境の改善を上層部に提案しましたが、全く聞き入れてもらえませんでした。それどころか「部下をもっと厳しく指導しろ」と圧力をかけられる始末でした。私も心身ともに不調をきたしたため、退職を申し出ましたが、やはり引き止められ、なかなか辞めることができませんでした。
最終的に、労働問題に明るい仲間達の力を借りて退職することができました。この経験から「働く人たちがもっと気軽に、安心して退職できる仕組みが必要だ」と痛感しました。このような辛い経験をした自分だからこそ、労働者の立場に立って支援したいと考え、現在は労働基準調査組合の執行委員長として活動しています。
同じように悩み苦しむ方々が孤立せず、労働現場で生じるあらゆる労働問題に真摯に向き合い、実効性ある労働法に則った支援を行ってまいります。









