- 退職の撤回は、会社の「承諾」前なら認められる余地がある
- 承諾後は原則不可。例外は強迫・錯誤など意思表示の傷
- 撤回は時間との勝負。だから伝える前の設計が全て

勢いで「辞めます」と言ってしまった…戻せる?



退職届を出したら、もう取り消せないの?
結論からお伝えします。退職の意思表示は、会社が「承諾」する前であれば撤回できる余地があります。しかし承諾された後は、原則として一方的に取り消すことはできません。撤回できるかどうかは、あなたが何をどう伝えたか、そして会社の誰がどう受け取ったかで決まります。
送信ボタンを押した直後に、指先から血の気が引いていく。あの一通を取り消したいという相談は、決して珍しいものではありません。
本記事では、退職の撤回が認められる場合と認められない場合の法律上の分かれ目、実際の裁判例が示した基準、うつ状態や強要されて出してしまった場合の例外、そして撤回を拒否されたときの相談先まで、労働組合の立場から解説します。
※この記事は2026年8月時点の情報をもとに作成しています。
退職の撤回はできる?答えは「何を出したか」で変わる
まず答えです。あなたの「辞めます」が法律上どちらの型だったかで、撤回の可否が分かれます。同じ退職の申し出でも、法律は2つの型を区別しています。
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| 型 | 典型的な伝え方 | 撤回できるか |
|---|---|---|
| 合意退職の申込み | 「退職させてください」(退職願・口頭のお願い) | 会社が承諾する前なら撤回できる余地あり |
| 辞職の通知 | 「◯月◯日で辞めます」(一方的な通告・退職届) | 会社に届いた時点で効力が生じ、撤回は原則不可 |
「退職させてください」というお願いの形は、会社との合意で契約を終わらせる申込みです。申込みである以上、相手が受け入れる(承諾する)前なら引っ込める余地があります。一方「辞めます」という一方的な通告は、会社の同意を必要としない意思表示なので、相手に届いた時点で効力が生じます。
実際の場面では、どちらの型だったかの線引き自体が争いになります。書面の題名が「退職願」か「退職届」かだけで機械的に決まるものではなく、文面や経緯から判断されます。だからこそ、この後の「承諾があったか」が実務の主戦場になるのです。
契約社員・パート・派遣でも考え方は同じ?
撤回の枠組み(申込みか通告か、承諾の前か後か)は、雇用形態を問わず同じです。ただし契約期間が決まっている契約社員や派遣社員は、そもそも期間の途中で辞めること自体に「やむを得ない事由」が求められる点が正社員と異なります。撤回を考える前提として自分の契約の型を確認してください。契約途中の退職の考え方は契約社員は退職代行を使える?契約途中の注意点と安全に辞める方法で解説しています。



「お願いした」のか「通告した」のか。まずここを思い出してください。
撤回のタイムリミットは「会社の承諾」まで|裁判例が示した基準
結論です。合意退職の申込み型なら、撤回のタイムリミットは「会社が承諾の意思表示をするまで」です。そして重要なのは、誰が受け取ったかで承諾の成立タイミングが変わることです。
基準を作った最高裁判例があります。人事部長に退職願を提出し、翌日に撤回を申し出た事案で、裁判所は「人事部長に退職承認の決定権があるなら、受理をもって承諾の意思表示があった」として撤回を認めませんでした(大隈鉄工所事件・最高裁昭和62年9月18日)。
逆に、提出から約2時間後の撤回を認めた裁判例もあります(白頭学院事件・大阪地裁)。会社に不測の損害を与えるなど信義に反する特段の事情がなければ、承諾前の撤回は認められるという考え方です。
- 受け取った相手に退職を承認する権限があったか(人事部長・役員など)
- 会社側の「受理・承認」の手続きがどこまで進んでいたか
- 撤回までの時間と、会社に生じる不利益の程度
直属の上司に伝えただけの段階なら、まだ会社の承諾が成立していない可能性があります。撤回したいなら、1時間でも早く、記録が残る形で撤回の意思を伝えてください。
会社に「承諾」されたかどうかを確かめる3つの着眼点
自分のケースがまだ間に合うのかを判断するには、会社側の動きを見ます。1つ目は、返答した人の立場です。直属の課長が「わかった」と言っただけなのか、人事部門や役員から正式な受理の連絡があったのかで意味が変わります。承諾になり得るのは、退職を承認する権限を持つ人の意思表示です。
2つ目は、社内手続きの進行です。退職承認の通知書が出た、離職票や貸与品返却の案内が届いた、後任の募集が始まった。こうした事実は、会社が退職を確定として扱い始めた表れです。3つ目は、就業規則です。「退職は社長の承認を要する」といった定めがあれば、誰の承諾で確定するかの手がかりになります。
- 直属の上司に口頭で伝えただけで、人事から連絡がない
- 退職日の確定通知や手続き書類がまだ届いていない
- 伝えてから日が浅く、会社側に準備の動きがない



撤回は早い者勝ちです。迷っている時間が一番もったいないんです。
撤回を申し出る方法|誰に・どう伝えるか(メール文例つき)
結論です。撤回の申し出は、退職願を出した相手と人事部門の両方へ、口頭とメールの二段構えで、その日のうちに行います。ポイントは、相談ではなく撤回の意思表示だとはっきり伝わる言葉を使うことです。
「やっぱり考え直したくて」という相談口調は、会社側に「まだ迷っている」と受け取られ、撤回の意思表示として扱われないおそれがあります。日付と対象を特定し、「撤回します」と言い切る形にしてください。
メール文例(上司と人事へ同時送信)
件名:退職願の撤回について(◯◯部・氏名)
◯◯部長、人事部◯◯様
◯月◯日に提出いたしました退職願について、撤回いたします。
一身上の都合により退職を申し出ましたが、再考の結果、勤務を継続したく存じます。
ご対応のほど、よろしくお願いいたします。
理由を長く書く必要はありません。事情説明を並べるほど「交渉の余地がある相談」に見えてしまいます。まず撤回を明確に届け、経緯の説明は求められてからで十分です。口頭で伝えた場合も、同じ内容のメールを直後に送って日時の記録を残してください。



「相談」ではなく「撤回します」。言い切る一通が、あなたを守ります。
承諾された後でも争える3つの例外|強要・勘違い・うつ状態
会社の承諾後は撤回できないのが原則ですが、例外があります。意思表示そのものに傷がある場合、撤回ではなく「取り消し」や「無効」を主張できる余地があります。
強要されて出したとき|強迫による取り消し
「出さなければ懲戒解雇にする」などと迫られて書いた退職届は、強迫による意思表示として取り消せる可能性があります。根拠のない懲戒をちらつかせた退職強要の場面が典型です。密室の面談で退職届の用紙を差し出され、その場で書かされたという経緯自体が、あなたの真意ではなかったことを示す事情になります。退職を迫る面談がどこから違法になるかは、早期退職の募集は拒否できる?黒字リストラで4,000人募集の事例と断る権利・応じる条件で詳しく解説しています。
重要な勘違いで出したとき|錯誤による取り消し
たとえば「休職期間はもう延長できない」と誤解して退職を申し出たが、実際には延長できたという場合、錯誤による取り消しを主張する余地があります。「懲戒解雇されるはずだ」と誤信して先に退職届を出したのに、実際には懲戒事由がなかったという場合も同様です。勘違いの内容が退職を決めた核心部分であったこと、そしてその前提が事実に反していたことが鍵になります。
うつ状態で送ってしまったとき|意思能力の問題
うつ病などで正常な判断ができない状態だった場合、意思表示をした時に意思能力を欠いていたなら、その意思表示は無効です。休職中に送った短いメッセージ1通が「本当に有効な退職の意思表示だったのか」が裁判で争われる事案も現実にあります。通院歴や診断書、当時の服薬状況、前後のやり取りの様子が判断材料になるため、医療記録の保全が特に重要です。
- 「退職届を書け」と言われたその場で書いてしまった
- 制度の説明を受けないまま、誤解した前提で申し出た
- 通院・服薬中で、送信した記憶があいまい
ひとつでも当てはまるなら、面談の録音やメモ、診断書、やり取りの画面など、当時の状況がわかる記録を今すぐ確保してください。これらの主張は「言った・言わない」になりやすく、記録の有無が結論を分けます。上司から退職を迫られている段階の対処は、退職代行と休職:上司に「退職しろ」と言われたときの正しい対処法は?で詳しく解説しています。



「もう出しちゃったから」で諦める前に、出した時の状況を思い出して。
撤回を拒否されたら|無料で使える相談先と現実的な選択肢
結論です。会社に撤回を拒否されたら、ひとりで交渉を続けるより、第三者を挟むほうが現実的です。無料で使える窓口があります。
各地の労働局・労働基準監督署に置かれた総合労働相談コーナーは、退職をめぐる個別トラブルの相談を無料で受け付けています。労働局長の助言・指導や、あっせんという話し合いの手続きにつながります。裁判所の労働審判は、地位確認(雇用契約がまだ続いていることの確認)を求めて争う場合の手続きです。
同時に、現実的な視点もお伝えします。撤回が法的に認められる場合でも、「辞めます」と言った職場に戻って働き続けられるかは別の問題です。一度退職を口にした事実は社内に残り、配置や評価の場面で見えない形で影響することもあります。戻った後に「もう一度辞めたい」と思ったとき、二度目の申し出はさらに切り出しにくくなります。
撤回を争ううちに、戻りたい気持ち自体が消えていくことも少なくありません。その場合は、撤回にこだわるより、退職日や有給消化などの条件を整えて円満に出る方向へ切り替えるのもひとつの判断です。どちらに進むにしても、判断材料になるのは「なぜ辞めると言ったのか」という最初の理由です。その原因が職場に残ったままなら、撤回は問題の先送りになります。
- 総合労働相談コーナーへ相談(無料・助言指導やあっせんへ)
- 地位確認を本気で争うなら弁護士へ(労働審判・訴訟)
- 戻る気が消えたなら、条件を整えて退職する方向へ切り替え



「戻る」だけがゴールではありません。損しない出口も並べて考えて。
これから辞める人へ|撤回できない前提で「伝える前」に全部決める
ここまで読んでいただくと、ひとつの結論が見えてきます。退職の意思表示は、一度出たら戻せないことがあるからこそ、伝える前にすべてを決めておくのが最も安全だということです。
先にお伝えしておくと、すでに承諾済みの退職の撤回を裁判で争う場面は、訴訟代理ができる弁護士の領域です。労働基準調査組合は労働組合であり、その代理はできません。私たちが力になれるのは、これから退職を伝える段階、そして退職の条件を交渉する段階です。
退職代行ローキでは、申込み後にヒアリングシートをもとに退職通知書を作成し、あなたの確認を得てから会社に送ります。退職日、有給休暇の消化、未払い給与や退職金の申し入れまで、内容を固めてから一度で伝えるので、「勢いで言ってしまって後悔する」という事態そのものが起きません。うつなどで休職中の方の退職にも対応しており、傷病手当のサポートも行っています。
料金は19,800円(税込)で、内訳は組合加入費2,800円と組合費17,000円です。相談は無料で、LINEなら24時間受け付けています。退職届をこれから書く方は、突然辞めるときの退職届の書き方|例文3種と即日退職を安全に進める方法もあわせてご覧ください。出社せずに辞める段取りは即日退職は可能?違法にならない条件と出社せず今日から辞める方法を徹底解説で解説しています。



伝えてから考えるのではなく、決めてから伝える。順番が逆なんです。
退職の撤回に関するよくある質問(FAQ)
口頭で「辞めます」と言っただけでも退職は成立しますか?
成立し得ます。退職の意思表示に書面は必須ではなく、口頭でも有効です。ただし「お願い」だったのか「通告」だったのか、誰に言ったのかによって撤回の余地が変わります。撤回したいなら、記録が残る形でできるだけ早く撤回の意思を伝えてください。
退職願と退職届で撤回のしやすさは違いますか?
傾向として違います。「退職願」はお願い(合意退職の申込み)と扱われやすく、会社の承諾前なら撤回の余地があります。「退職届」は一方的な通告と扱われやすく、会社に届いた時点で撤回が難しくなります。ただし題名だけで機械的に決まるわけではなく、文面と経緯で判断されます。
LINEやメールで送った退職の意思も有効ですか?
有効になり得ます。意思表示は相手に到達した時から効力を生じ、手段は問われません。一方で、短いメッセージは真意だったのかが争いになりやすい面もあります。うつ状態で送った場合など、意思表示の有効性自体を争う余地があるケースもあります。
会社が「退職を認めない」と言って撤回を強要してきます。応じる必要はありますか?
応じる必要はありません。撤回とは逆に、辞めたいのに会社が受け取りを拒む場面では、期間の定めのない雇用なら退職の申し入れから2週間で契約は終了します(民法627条)。会社の承認は退職の条件ではありません。引き止めが続く場合は、労働組合を通じて退職の連絡を行う方法があります。
退職代行で伝えた退職を、後から撤回することはできますか?
会社が承諾した後の撤回は、自分で伝えた場合と同じく原則できません。だからこそ退職代行ローキでは、退職通知書の内容をご本人に確認いただいてから会社に送る手順を取っています。迷いがある段階では送りません。相談は無料なので、決めきれない状態のままでもまずはご相談ください。
まとめ|撤回は時間との勝負。そして次の一手は「決めてから伝える」
退職の撤回は、合意退職の申込みなら会社の承諾前に限り認められる余地があります。承諾後は原則不可。ただし強要された場合、重要な勘違いがあった場合、うつ状態などで意思能力を欠いていた場合は、取り消しや無効を争う例外の道が残ります。どの道でも、記録の確保と速さが結論を左右します。
撤回を拒否されたら、総合労働相談コーナー(無料)やあっせん、本気で争うなら弁護士による労働審判という選択肢があります。同時に、「戻る」以外の出口も冷静に比べてください。
判断の軸をひとつ挙げるなら、「撤回に使う体力と、条件を整えて出直す体力のどちらが自分を守るか」です。これから退職を伝える方は、撤回が難しいからこそ、退職日・有給・未払い分まで決めてから一度で伝えるのが安全です。退職代行ローキは労働組合として、その設計と会社への交渉をまとめて引き受けます。相談は無料で、LINEなら24時間受け付けています。



言葉は戻せなくても、条件はこれから作れます。焦らずいきましょう。
「言ってしまった後」の相談も、「言う前」の設計も、LINEでお聞かせください。
退職代行ローキは労働組合として会社と直接交渉します。
料金は19,800円(税込)で、相談は無料です。
参考情報・出典
・e-Gov法令検索「民法」(3条の2・93条・95条・96条・97条・627条)
・愛知県雇用労働相談センター「退職願の撤回(労働契約の終了)」(大隈鉄工所事件・白頭学院事件の解説)
・厚生労働省「確かめよう労働条件」裁判例
・厚生労働省「総合労働相談コーナーのご案内」
・裁判所「労働審判手続」
執筆者


労働基準調査組合 執行委員長
谷本 祥子
私は飲食店勤務やメーカー代理店勤務など、さまざまな仕事を経験してきました。メーカー代理店では、商品販売の営業職として働いていました。現場では長時間労働や無理なノルマ強要が当たり前で、私も同僚たちも皆疲弊しきっていました。従業員たちが「辞めたい」と申し出ても、会社は「後任が見つかるまで待て」とか「引き継ぎが終わるまでダメだ」と拒み続け、退職を認めませんでした。中には精神的に追い詰められて鬱病になり、ある日突然来なくなってしまう同僚もいました。
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私自身も会社の方針に疑問を感じ、労働環境の改善を上層部に提案しましたが、全く聞き入れてもらえませんでした。それどころか「部下をもっと厳しく指導しろ」と圧力をかけられる始末でした。私も心身ともに不調をきたしたため、退職を申し出ましたが、やはり引き止められ、なかなか辞めることができませんでした。
最終的に、労働問題に明るい仲間達の力を借りて退職することができました。この経験から「働く人たちがもっと気軽に、安心して退職できる仕組みが必要だ」と痛感しました。このような辛い経験をした自分だからこそ、労働者の立場に立って支援したいと考え、現在は労働基準調査組合の執行委員長として活動しています。
同じように悩み苦しむ方々が孤立せず、労働現場で生じるあらゆる労働問題に真摯に向き合い、実効性ある労働法に則った支援を行ってまいります。









