- 「辞めたら研修費を返せ」の定めは原則として無効
- 給料からの天引きは本人の同意なくできない
- 請求を盾に引き止められたら労働組合が代わりに通告できる

「研修費を返せ」って言われた…払うの?



誓約書にサインしちゃったけど、もう手遅れ?
退職を申し出たとたん、上司の口調が変わって「研修にいくらかかったと思ってるんだ」と切り出される。金額を言われた瞬間、辞める話がどこかへ行ってしまう方は少なくありません。
2026年8月24日、オトナンサーが「半年で退職…『研修費を返せ』と請求されたら? 実は拒否できるワケ」と題した弁護士解説記事を配信しました。この記事では報道内容を踏まえ、研修費の返還請求がどこまで有効なのか、支払いを求められたときに何をすればよいのかを、労働組合の立場から整理します。
※この記事は2026年8月時点の情報をもとに作成しています。
「半年で退職なら研修費を返せ」は拒否できる|2026年8月24日報道
報道の結論は明快です。入社後まもなく退職した人に研修費の返還を求める定めは、労働基準法16条に反して無効となる可能性が高い、というものです。
2026年8月24日にオトナンサーが配信した記事では、芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士が「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、または損害賠償額を予定する契約をしてはならない」という条文を挙げ、一定期間内に退職したら研修費を返すという約束は法律上無効になり得ると解説しています。
同記事では、「辞めたら高額な違約金を払え」という契約が有効だとしたら、労働者は借金のような重圧を感じ、不当な労働環境であっても辞められなくなる、という趣旨の指摘もされています。返還を迫るための提訴の予告や給与天引きは、伝え方によってはハラスメントに当たり得るとも述べられています。
- 短期退職を理由とする研修費返還の定めは無効となり得る
- 返還義務が生じ得るのは実質的に「貸与」といえる場合に限られる
- 提訴予告や給与天引きはハラスメントに当たる場合がある



金額を言われて怯む必要はありません。まず法律の建て付けを知ってください。
研修費返還が原則無効になる法的な理由
研修費の返還請求が原則として通らないのは、労働基準法16条が「辞めたらお金を払う」という形の約束そのものを禁じているからです。金額の多い少ないではなく、約束の形が問題になります。
労働基準法16条は何を禁じている?
労働基準法16条は「賠償予定の禁止」と呼ばれる条文で、会社が労働契約の不履行について違約金を決めたり、損害賠償の額をあらかじめ決めておいたりする契約を禁止しています。
狙いは、お金を理由に労働者が辞められなくなる状態を防ぐことにあります。「3年以内に辞めたら研修費50万円」という定めがあると、辞めたいのに借金を背負う気がして動けなくなります。この状態そのものを法律が禁じている、と考えると理解しやすくなります。
給料から勝手に引かれるのはなぜ違法?
研修費を最後の給料から差し引く扱いも、原則として認められません。労働基準法24条が、賃金は通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならないと定めているためです。これを賃金全額払いの原則と呼びます。
会社が賃金の一部を控除できるのは、法令に定めがある場合(所得税や社会保険料など)か、労使協定がある場合に限られます。「研修費を引いておいたから」と一方的に減額された給料は、未払い賃金として請求できる対象になります。
- その場で「払います」と口約束をしてしまう
- 言われるまま返還の同意書や借用書にサインする
- 天引きされた給料明細を確認せず捨ててしまう
- 怖くなって連絡を絶ち、そのまま無断欠勤にする
特に注意したいのが2つ目です。退職の場面で新たに書面へサインすると、後から争うときの負担が重くなります。その場で判断せず、持ち帰ると伝えて構いません。



迷ったら、その場でサインしない。これだけ守れば選択肢は残ります。
例外的に返還義務が生じるのはどんなとき?
返還を求められるケースがまったくないわけではありません。裁判所が返還を認めてきたのは、その費用が実質的に会社からの「貸付け」だったと評価できる場合です。判断の分かれ目を整理します。
| 判断の観点 | 返還義務が生じにくい(原則) | 返還義務が生じ得る(例外) |
|---|---|---|
| 受けた経緯 | 会社の業務命令で受けさせられた | 本人が希望し自由に選んで受けた |
| 業務との関係 | その会社の仕事に直結する内容 | 業務との関連が薄く本人の資産になる |
| 契約の形 | 就業規則や誓約書に返還条項があるだけ | 個別に金銭消費貸借契約を結んでいる |
| 研修中の賃金 | 研修中も給料が支払われていた | 無給で本人の都合により受講した |
※裁判例で示されてきた判断要素を整理したものです。最終的な判断は個別の事情によります。
分かれ目は金額ではありません。その研修が「会社の仕事のため」だったか「本人のため」だったかです。入社時の必須研修や、その会社の商品知識・接客手順を覚えるための教育は、まず前者にあたります。
実際に返還が認められた裁判例は、本人が強く希望して海外留学し、留学先の科目も自分で選び、費用について個別の貸付契約を交わしていた、というような事案です。入社研修や新人教育とはかなり事情が違います。
また、返還を求められる期間が不当に長い場合や、実際にかかった費用を大きく超える金額を求められている場合も、退職の自由を縛るものとして無効を主張しやすくなります。



入社時の必須研修で「返せ」と言われているなら、まず疑ってよい請求です。
「3年以内に辞めたら全額」は有効?拘束期間と金額の考え方
返還条項でよく見るのが「入社から3年以内に退職した場合は全額を返還する」という形です。結論として、拘束される期間が長いほど、また金額が実費とかけ離れているほど、無効と判断されやすくなります。
期間が長いほど「退職の自由を縛る」と評価される
返還を免除されるまでの期間は、判断の重要な材料です。研修の内容や費用の規模に見合わない長さで縛る定めは、お金を理由に退職をためらわせるものとして、退職の自由を侵害すると評価されやすくなります。
数日から数週間の入社研修に対して「3年」「5年」といった拘束を課しているのであれば、その不均衡自体が無効の根拠になります。逆に、高額な海外留学の費用について一定の勤務期間を求めるケースは、事情が異なります。
実費を超える請求・研修中の給料の返還請求はどうなる?
請求額が実際にかかった費用を超えている場合も問題です。会社が「機会損失」や「人件費」を上乗せして請求してくることがありますが、それは損害賠償額をあらかじめ決めておく行為に近づき、労働基準法16条の禁止に触れやすくなります。
研修期間中に支払われた給料まで返せと求められるケースもあります。これは応じる必要のない請求と考えてよいものです。給料は労働の対価として支払われたものであり、研修が業務命令であれば、その時間は労働時間として扱われているからです。
だからこそ、請求されたときは金額の総額ではなく内訳を出させることが重要になります。内訳を分けると、返す必要のない部分が浮かび上がってきます。
- 研修中に支払われた給料(労働の対価であり返還対象になりにくい)
- 外部講座の受講料など実際に会社が支出した費用
- 指導した社員の人件費や機会損失など会社が上乗せした分



総額ではなく内訳を聞く。それだけで請求の中身が変わってきます。
請求されたときの対処3ステップ
結論として、やることは3つです。書面を確認し、その場で応じず、記録が残る形でやり取りする。この順番を守れば、後から不利になることはほとんどありません。
ステップ1|何にサインしたかを確認する
まず、入社時に受け取った書類を探してください。雇用契約書、就業規則、誓約書、研修同意書のどれかに返還の定めがあるはずです。返還条項が「就業規則や誓約書にあるだけ」なのか、「個別に借入れの契約書を交わしている」のかで、見通しが大きく変わります。
研修中に給料が支払われていたかどうかも重要です。給料が出ていたのであれば、その時間は労働時間として扱われていたことになり、会社の業務の一環だったと主張しやすくなります。
ステップ2|その場で支払わず、意思を書面で残す
口頭でのやり取りは記録が残りません。返還に応じられないという意思は、メールなど文字で残る方法で伝えてください。そのまま使える文例を置いておきます。
メール文例(研修費の返還を求められたとき)
件名:研修費用のご請求について(所属・氏名)
ご連絡いただいた研修費用の返還についてです。
当該研修は業務命令により受講したものであり、返還の義務はないものと考えております。
つきましては、返還のご請求には応じかねます。
なお、ご請求の根拠となる規程の条文と、費用の内訳を書面でお示しくださいますようお願いいたします。
また、給与からの控除は行わないようお願いいたします。
根拠と内訳を書面で求めると、請求そのものが立ち消えになることがあります。会社側も、説明できる根拠がないまま金額だけを口にしている場合があるからです。
ステップ3|天引きされた分は未払い賃金として請求する
すでに給料から引かれてしまった場合も、諦める必要はありません。控除の根拠がなければ、その分は未払いの賃金です。給与明細と雇用契約書を手元に置き、支払いを求めてください。
会社が応じない場合は、労働基準監督署への申告や、総合労働相談コーナーでの相談という道があります。金額が大きい場合は労働審判という手続きもあります。



払わない意思を、文字で一度だけ明確に伝える。これが一番効きます。
労働組合の現場から見た「金銭を盾にした引き止め」
相談の現場で見ていると、問題の本体は法律論ではありません。「請求は無効かもしれない」と分かっていても、会社と話し続けること自体が耐えられない、という段階で相談に来られる方がほとんどです。
研修費のほかにも、制服代、資格取得費用、社宅の原状回復費、会社からの貸付金など、金銭を持ち出して退職を思いとどまらせようとする場面はいくつもあります。会社からの借入れがある場合の扱いは、会社から借金があるけど一括返済しないと退職できない?で解説しています。
相談が集まりやすいのは、入社時の研修が長く、資格や技術の習得を伴う仕事です。美容や理容の技術研修、警備員の法定教育、運送業の免許取得費用、介護資格の受講料などが典型で、いずれも「会社の業務に必要だから受けさせた」性格が強いものです。この性格が強いほど、返還を求める側の根拠は弱くなります。
当組合の依頼実績を匿名集計すると、退職代行の利用者の62.0%が入社1年未満、30.7%は入社3ヶ月未満でした。研修費の返還条項が最も効いてしまうのは、まさにこの入社直後の層です。辞めたい気持ちが固まる時期と、返還を求められる時期が重なっている構図があります。
- 金額の大きさに驚き、法的な有効性を確かめないまま応じてしまう
- 会社と直接やり取りするのがつらく、話を打ち切るために払ってしまう
- 争うより早く縁を切りたいと考え、離職票の請求まで諦めてしまう
3つ目は損失が大きくなりがちです。離職票が届かないと失業保険の手続きが進みません。研修費の話と退職書類の話は切り離して考えてください。



お金の話と、退職書類の話。この2つは分けて進めるのが大切です。
会社とのやり取り自体がつらいときの選択肢
先にお伝えすると、すでに訴訟を起こされている場合や、会社を訴えて損害賠償を取りに行きたい場合は、労働組合ではなく弁護士事務所への依頼が適切です。当組合は裁判の代理人にはなれません。
その上で、「返還請求には応じない」と会社へ通告し、退職日や退職書類の受け取りまでを引き受ける役割は、労働組合が担えます。退職代行ローキは労働基準調査組合が運営しており、組合として会社と直接やり取りできるためです。
ここで一つ、言葉の注意があります。退職代行の広告でよく見る「追加料金なし」は、サービスの範囲内での話であって、あらゆる法的トラブルが料金に含まれるという意味ではありません。何が範囲に入るのかを申し込み前に確認してください。
- 返還請求に応じない意思を、組合として会社へ通告する
- 退職日・有給消化・退職書類の送付について会社と交渉する
- 離職票などが届かない場合に会社へ督促する
料金は組合費19,800円(税込)のみで、追加料金は原則かかりません。※後払いを選ぶ場合の手数料と振込手数料は除きます。また、退職したことを理由に会社から損害賠償請求や懲戒解雇処分を受けた場合は、追加料金なしで弁護士が撤回交渉を行います。※故意による損害など、退職と無関係な請求は対象外です。
退職に伴う損害賠償の考え方は、退職代行で訴えられる?損害賠償のリスクと安心できる業者の選び方でも解説しています。
「うちの契約書はどうなんだろう」も、LINEで内容を送っていただければ無料でお答えします。



会社と話すこと自体が負担なら、その部分だけ代わることができます。
よくある質問(FAQ)
誓約書にサインしていても、研修費の返還を拒否できますか?
拒否できる場合が多いです。労働基準法16条は、辞めたら違約金を払うという形の約束自体を禁じているため、サインの有無にかかわらず定めが無効となり得ます。ただし、個別に金銭の貸付契約を結んでいる場合は判断が変わるため、書面の内容を確認してください。
最後の給料から研修費を天引きされました。取り戻せますか?
控除の根拠がなければ、その分は未払い賃金として請求できます。賃金は全額を支払わなければならないと法律で定められており、控除できるのは法令に定めがある場合か労使協定がある場合に限られます。給与明細を保管し、書面で支払いを求めてください。
研修費を返さないと退職させないと言われています。辞められますか?
辞められます。期間の定めのない雇用であれば、退職の意思表示から2週間で退職が成立し、会社の承諾は必要ありません。お金の支払いを退職の条件にすることはできないため、返還の話と退職手続きは切り離して進めて構いません。
資格取得費用や制服代の返還を求められた場合も同じ考え方ですか?
基本的な考え方は同じです。業務命令で取らされた資格や、業務に必要な備品の費用は、会社が負担すべきものと整理されます。本人が希望して自由に選んだもので、個別の貸付契約がある場合には返還義務が生じ得ますが、その判断は書面の内容によります。
研修中に受け取った給料まで返せと言われました。応じる必要はありますか?
応じる必要のない請求と考えてよいものです。研修が業務命令によるものであれば、その時間は労働時間として扱われ、支払われた給料は労働の対価にあたります。会社から請求を受けたときは総額ではなく内訳を書面で求め、給料の部分と実費の部分を分けて確認してください。
まとめ|「返せ」と言われても、退職の自由は守られている
研修費の返還請求は、金額を突きつけられると強い圧力に感じられます。しかし法律の建て付けは、お金で辞められなくすることを許していません。要点をまとめます。
- 短期退職を理由とする研修費返還の定めは原則無効
- 返還義務が生じ得るのは実質的に貸付けといえる場合
- その場でサインせず、応じない意思を書面で伝える
- 天引き分は未払い賃金として請求できる
判断の軸は、請求に勝てるかどうかではありません。この会社とお金の話を続けることに、これから何ヶ月を使うのか、という点です。争わずに退職だけを確実に進める道も、正当な選択肢のひとつです。
会社とのやり取りが負担なら、退職代行ローキが労働組合として通告と交渉を引き受けます。相談は無料で、LINEなら24時間受け付けています。



ひとりで抱えず、まず契約書の写真だけでも送ってみてください。
「この請求、払わなきゃダメ?」も、まずはLINEでお聞かせください。
退職代行ローキは労働組合として会社と直接交渉します。
料金は19,800円(税込)で、相談は無料です。
参考情報・出典
・オトナンサー「半年で退職…『研修費を返せ』と請求されたら? 実は拒否できるワケ【弁護士解説】」(2026年8月24日)
・e-Gov法令検索「労働基準法」(16条・24条・115条・附則143条)
・e-Gov法令検索「民法」(627条)
・e-Gov法令検索「労働組合法」(6条)
・厚生労働省「都道府県労働局(労働基準監督署)所在地一覧」
・厚生労働省「総合労働相談コーナーのご案内」
・裁判所「労働審判手続」
執筆者


労働基準調査組合 執行委員長
谷本 祥子
私は飲食店勤務やメーカー代理店勤務など、さまざまな仕事を経験してきました。メーカー代理店では、商品販売の営業職として働いていました。現場では長時間労働や無理なノルマ強要が当たり前で、私も同僚たちも皆疲弊しきっていました。従業員たちが「辞めたい」と申し出ても、会社は「後任が見つかるまで待て」とか「引き継ぎが終わるまでダメだ」と拒み続け、退職を認めませんでした。中には精神的に追い詰められて鬱病になり、ある日突然来なくなってしまう同僚もいました。
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私自身も会社の方針に疑問を感じ、労働環境の改善を上層部に提案しましたが、全く聞き入れてもらえませんでした。それどころか「部下をもっと厳しく指導しろ」と圧力をかけられる始末でした。私も心身ともに不調をきたしたため、退職を申し出ましたが、やはり引き止められ、なかなか辞めることができませんでした。
最終的に、労働問題に明るい仲間達の力を借りて退職することができました。この経験から「働く人たちがもっと気軽に、安心して退職できる仕組みが必要だ」と痛感しました。このような辛い経験をした自分だからこそ、労働者の立場に立って支援したいと考え、現在は労働基準調査組合の執行委員長として活動しています。
同じように悩み苦しむ方々が孤立せず、労働現場で生じるあらゆる労働問題に真摯に向き合い、実効性ある労働法に則った支援を行ってまいります。









