精神的な体調不良について診断書を提出し、有期雇用契約の途中で即日退職した事例
- 2025.04.21
- 2025.04.21
| 実行日 | 2025年4月 |
|---|---|
| 組合員 | Wさん |
| 年齢 | 30代 |
| 地域 | 東京都 |
| 職種 | システムエンジニア |
| 雇用形態 | 契約社員 |
| トラブル種別 | 有期雇用契約社員の即日退職 |
1.相談に至るまでの経緯
Wさんは、有期雇用契約社員として勤務していました。
退職を考えていたものの、契約期間の途中であったため、「契約社員でも退職代行を利用して辞めることができるのか」と不安を感じていました。
インターネット上で「契約社員は契約期間の途中では退職できない」という情報を目にしたことも、不安が大きくなった理由の一つでした。
一方、Wさんには精神的な体調不良があり、勤務を続けることが難しい状況にありました。そこで、有期雇用契約の途中でも退職できる可能性があるのかを確認するため、当組合へ相談しました。
当組合は、有期雇用契約の途中で退職する場合には、民法第628条の「やむを得ない事由」が問題となることを説明しました。
そのうえで、精神的な体調不良は、症状や就労継続の可否などの具体的事情によっては、契約途中の退職を申し入れる理由となり得ることを案内しました。また、診断書は、健康状態や勤務継続の困難さを会社へ説明するための資料になり得ることも伝えました。
Wさんは実際に医療機関を受診し、診断書を取得しました。その診断書を会社へ提出したうえで、退職手続を進めることになりました。
2.本件の法的な問題点
(1)有期雇用契約でも途中退職が一律に禁止されるわけではない
有期雇用契約であっても、「やむを得ない事由」がある場合には、契約期間の途中で労働契約を終了できる可能性があります。
民法第628条は、雇用期間を定めている場合でも、やむを得ない事由があるときは、各当事者が直ちに契約を解除できると定めています。
したがって、「契約社員は契約期間が終わるまで絶対に退職できない」という理解は正確ではありません。ただし、どのような事情が「やむを得ない事由」に該当するかは、健康状態、業務内容、勤務継続の可能性、契約内容などを踏まえて個別に判断する必要があります。
(2)診断書があれば自動的に即日退職できるわけではない
診断書は、精神的な体調不良や就労継続の困難さを会社へ説明するための重要な資料となり得ます。
もっとも、民法第628条は「診断書を提出すれば必ず即日退職できる」と定めているわけではありません。診断書の内容だけでなく、本人の症状、担当業務、勤務を続けることによる影響など、個別の事情を踏まえて判断されます。
本件では、Wさんが医療機関を受診して診断書を取得し、それを会社へ提出したうえで退職手続を進めています。
(3)会社が合意すれば契約期間の途中でも退職できる
有期雇用契約の途中であっても、労働者と会社が退職日について合意した場合には、その合意に基づいて労働契約を終了させることができます。
本件では、会社がWさんの即日付での退職を受け入れたため、「やむを得ない事由」の該当性について法的な争いを続けることなく、退職手続を進めることができました。
3.労働組合による会社への対応
当組合は、労働組合法第6条に基づき、組合員のために会社へ通知および団体交渉の申入れを行いました。
実際に行った対応は、次のとおりです。
● Wさんが有期雇用契約の途中で退職を希望していることを会社へ通知しました。
● Wさんが即日付での退職を希望していることを申し入れました。
● Wさんが医療機関を受診して取得した診断書を会社へ提出しました。
● 診断書を提出したうえで、会社との間で退職手続を進めました。
労働組合法第6条は、労働組合の代表者または委任を受けた者が、組合員のために使用者と交渉する権限を有することを定めています。
4.結果および成果
会社は、Wさんから提出された診断書を受け取り、即日付での退職を受け入れました。
その結果、Wさんは契約期間の満了を待つことなく、即日で退職することができました。
元記事には、その後に会社との間で未解決の問題が残ったとの記載はありません。
「有期雇用契約だから退職できないのではないか」と不安を抱えていたWさんについて、健康状態を示す資料を提出し、会社の了解を得たうえで、契約途中の退職手続を進められたことが本件の成果です。
5.組合としての総括
有期雇用契約で働いている方の中には、「契約期間が終わるまでは、どのような事情があっても辞められない」と考え、体調が悪化していても退職を申し出られずにいる方がいます。
しかし、有期雇用契約であっても、やむを得ない事由がある場合や、会社が契約途中の退職に同意した場合には、期間満了前に退職できる可能性があります。
本件で重要だったのは、精神的な体調不良について医療機関を受診し、診断書を取得したうえで、その事情を会社へ伝えたことです。ただし、診断書があることだけで、すべてのケースにおいて即日退職の法的効果が当然に認められるわけではありません。契約期間や健康状態など、個別の事情を確認する必要があります。
また、労働組合が組合員に代わって退職意思を通知し、退職日について会社と交渉することで、本人だけで対応する場合よりも、法的な論点を整理しながら手続を進められることがあります。
当組合は今後も、有期雇用契約の途中退職、退職日および健康上の事情に伴う就労継続等の問題について、使用者に処分可能な事項の範囲内で、労働組合法に基づく団体交渉を通じて組合員の権利を守ってまいります。
6.本件で問題となり得た主な法令・参考判例
労働基準法
労働基準法附則第137条
一定の例外を除き、契約期間が1年を超える有期労働契約については、契約開始から1年を経過した後、労働者はいつでも退職できるとされています。
ただし、元記事にはWさんの契約期間や契約開始日の記載がないため、本件に同条が適用されたかどうかは確認できません。
民法
民法第628条(やむを得ない事由による雇用の解除)
期間の定めがある雇用契約でも、やむを得ない事由がある場合には、各当事者が直ちに契約を解除できると定めています。
精神的な体調不良が同条の「やむを得ない事由」に当たるかどうかは、症状や勤務継続の可否などを踏まえて個別に判断されます。
参考:民法・e-Gov法令検索
参考:大阪労働局「よくあるご質問(退職・解雇・雇止め)」
労働組合法
労働組合法第6条(交渉権限)
労働組合の代表者または労働組合から委任を受けた者が、労働組合または組合員のために、使用者と交渉する権限を有することを定めています。
本件では、Wさんの退職意思の通知、即日付での退職の申入れおよび退職手続に関する対応の根拠となる規定です。
参考判例・公表事例
厚生労働省「労働契約の終了」
有期労働契約についても、やむを得ない事由がある場合には、契約期間の途中で退職できることを案内しています。
大阪労働局「よくあるご質問(退職・解雇・雇止め)」
民法第628条に基づき、雇用期間を定めている場合でも、やむを得ない事由があるときは直ちに契約を解除できることを説明しています。
参考:大阪労働局公式サイト
※本事例は、個人および会社を特定できないよう、一部を匿名化・一般化しています。
※記載した法令は、会社の具体的な対応によって問題となり得る法令であり、本件において法令違反が確定したことを意味するものではありません。
※法的評価は、雇用契約の内容、会社の対応、証拠その他の個別事情によって異なります。

