退職代行ローキ(労働基準調査組合)

園長の怒号や退職申出後の無視・業務分離に悩んだ保育士について、交渉により退職手続を完了した事例

  • 2026.01.30
  • 2026.01.31
実行日 2026年1月
組合員 Zさん
年齢 20代
地域 島根県
職種 保育士
雇用形態 契約社員
トラブル種別 パワハラ

1.相談に至るまでの経緯


Zさんは、島根県内の保育園で、有期雇用の契約社員として働いていました。時短勤務で、所定の終業時刻は16時30分でした。

問題の発端は、2025年9月頃にさかのぼります。

Zさんは、上司から不快に感じる対応を受けたとして、2025年9月末頃、管理者より上の立場にある上司へ相談しました。その後、同年12月には職場内のコミュニケーションについて話し合う会議が行われ、Zさんも関係改善に向けて努力しました。

Zさんは、上司の攻撃的な態度については以前より改善したように感じていました。しかし、その一方で、管理者から次のような趣旨の発言を受けました。

「私が話すと、指摘してきたなどと言われるから、もう何も言えません」

Zさんは、自分がパワーハラスメントについて相談したことによって現在の状況が生じたかのように伝えられ、改善を求めた自分が悪いと言われているように感じていました。

また、2025年11月末頃から行われたミーティングの結果、「業務改善」として新たな業務が示されました。

Zさんは、時短勤務では16時30分までに終わらない可能性があることを伝えました。上司からは「帰れるように考えて、何かあったら言って」と言われたため、Zさんはその後も業務について掛け合いましたが、改善には至らず、残業が続いたとのことです。

その結果、Zさんは疲労が蓄積し、家族にも影響が出るようになりました。さらに、次のような体調不良を抱えていました。
 

  • 食欲がなくなる
  • 眠れなくなる
  • 出勤前に緊張して吐き気がする
  • 無理に気分を高めなければ勤務中の精神状態を保てない
  • 帰宅すると無気力になる
  • 情緒が不安定になる
     

Zさんは、適応障害との診断も受けていました。

Zさんは子どもを抱えており、本当に気持ちを保てなくなる前に退職する必要があると考えました。そこで、2025年12月26日、会社に対して1月末で退職したいと伝えました。

会社には退職を3か月前に申請するという規則があるとされていましたが、Zさんは自身の状態を踏まえ、1か月前の申出による退職を希望しました。

これに対し、会社からは、3か月前に申請するという規則を守り、3月まで在籍するよう求められました。

さらに、Zさんの説明によると、退職を申し出た後の年明けから、次のような扱いが始まりました。
 

  • 上司と新しく入った社員だけが別室でランチを取り、退職予定のZさんが残された
  • 挨拶をしても無視された
  • 職員会議が行われなくなった
  • 正式な説明がないまま、退職予定者だけ業務が分けられた
     

Zさんは、こうした扱いによって精神的苦痛を受けたと感じ、「ヤメハラに耐えられない」として退職の意思をさらに強くしました。

園長へ直接退職の話をすることにも強い不安があったため、Zさんは当組合へ相談しました。会社への連絡を急いでおり、当日中に退職意思を伝えることを希望していました。
 

2.本件の法的な問題点

(1)有期雇用では、会社の「3か月前申請」という説明だけで退職の可否が決まるわけではありません


Zさんは有期雇用の契約社員であったため、期間の定めがない労働契約と同じように、一律に「退職を申し入れてから2週間で契約が終了する」と判断することはできません。

有期労働契約については、民法第628条により、「やむを得ない事由」がある場合には、契約期間の途中でも雇用契約を解除できるとされています。心身の状態や職場でのハラスメントが「やむを得ない事由」に当たるかどうかは、言動の内容、継続期間、診断内容、勤務継続が心身に与える影響などを踏まえて個別に判断する必要があります。

また、会社と労働者が合意すれば、契約期間の途中でも合意した日に退職することが可能です。

そのため、会社側が「3か月前に申請する規則がある」と説明していたとしても、その説明だけで3月までの在籍が当然に確定するものではありません。契約内容や退職理由を確認した上で、希望する退職日について会社と交渉する余地があります。
 

(2)退職申出後の無視や業務上の切り離しは、実際の態様によってはハラスメントとして問題となります


「ヤメハラ」は法律上の正式な用語ではありません。退職を申し出た労働者に対して行われた個々の言動を確認し、パワーハラスメントなどに該当する可能性があるかを判断します。

厚生労働省は、職場におけるパワーハラスメントの典型例として、ひどい暴言などの「精神的な攻撃」や、隔離、仲間外し、無視などの「人間関係からの切り離し」を挙げています。

例えば、集団で一人の労働者を無視して職場で孤立させる行為や、本人の意に沿わないことを理由に仕事から外す行為は、その期間や目的、業務上の必要性などによって、パワーハラスメントに該当する可能性があります。

本件では、挨拶を無視されたこと、ランチの場から事実上切り離されたこと、正式な説明のないまま業務を分けられたことが申告されています。

ただし、これらの行為がパワーハラスメントに該当するかどうかは、会社側の説明や行為の継続期間、業務上の理由なども含めて判断する必要があります。
 

(3)ハラスメントを相談したことを理由とする不利益な取扱いは禁止されています


労働施策総合推進法第30条の2は、職場におけるパワーハラスメントを防止するため、事業主に相談体制の整備などを求めています。

同条では、労働者がパワーハラスメントについて相談したことや、事実確認に協力して事実を述べたことを理由として、解雇その他の不利益な取扱いをしてはならないとされています。

Zさんは、2025年9月末に上司の対応について社内で相談していました。その後、管理者から、Zさんが指摘したため何も言えなくなったという趣旨の発言を受けたとしています。

さらに、退職申出後には無視や業務上の切り分けがあったと申告しています。

もっとも、これらの対応が相談を理由とする不利益な取扱いであったかどうかは、各行為の目的や経緯を確認しなければ断定できません。
 

(4)残業の継続と適応障害については、会社の安全配慮が問題となる可能性があります


労働契約法第5条は、使用者に対し、労働者が生命や身体などの安全を確保しながら働けるよう、必要な配慮をすることを求めています。この安全には、心身の健康も含まれます。

Zさんは、時短勤務では16時30分までに業務を終えられない可能性があると伝え、業務改善を求めていました。しかし、Zさんの説明では、その後も残業が続き、食欲不振、不眠、吐き気、無気力、情緒不安定などの症状が現れ、適応障害と診断されています。

会社がZさんの心身の状態をどの程度把握していたか、具体的にどのような対応を取ったかによっては、安全配慮との関係が問題となる可能性があります。

ただし、診断と業務との医学的な因果関係や、会社が負う法的責任が本件で確定したわけではありません。
 

3.労働組合による会社への対応


当組合は、労働組合法第6条に基づき、組合員のために会社へ通知および団体交渉の申入れを行いました。同条は、労働組合の代表者または委任を受けた者が、組合員のために使用者と交渉する権限を定めています。

本件で実際に行った対応は、次のとおりです。

 

● Zさんが退職を希望していることを、当日中に保育園へ正式に通知しました。

● Zさんが有期雇用の契約社員であることを踏まえ、退職手続について園長と交渉しました。

● 園長から当組合職員に対して怒声や罵声が発せられる状況でも、感情的に応じず、労働法上の退職手続について説明を続けました。

● 園長との交渉を約30分にわたって継続し、Zさんの退職について回答を求めました。

 

本件における組合対応は、退職意思の通知および退職手続に関する交渉です。
 

4.結果および成果


保育園への連絡時、園長は当組合職員に対して怒声や罵声を発しました。

当組合は、こうした状況でも冷静に説明を続け、約30分にわたって退職手続について交渉しました。

その結果、園長からZさんの退職を了承する旨の回答が得られました。

退職了承後は、退職に伴う書類の交付を含む具体的な手続も進められ、最終的に退職手続は完了しています。

Zさん本人は、怒声や罵声を発する園長との約30分に及ぶ交渉を直接行う必要がなく、当組合が窓口となって退職意思を伝えることができました。

 

5.組合としての総括


有期雇用で働く方の中には、「契約期間が残っている」「会社の規則では数か月前の申請が必要だと言われた」という理由から、退職できないのではないかと不安を抱える方が少なくありません。

有期労働契約の途中退職については、契約期間や契約開始日、退職理由、心身の状態などを確認した上で、個別に判断する必要があります。一方で、契約期間の途中であっても、会社と退職日について合意することは可能です。

また、退職を申し出た後に、無視、仲間外し、業務からの切り離しなどを受けた場合、労働者は「辞めると言った自分が悪いのではないか」と悩み、精神的に追い詰められることがあります。しかし、退職意思を伝えたことによって、職場でどのような扱いを受けても耐えなければならないわけではありません。

本件では、園長が組合職員に対しても怒声や罵声を発する状況において、当組合が冷静に説明を続け、退職手続について交渉したことが重要でした。感情的な応酬を避け、組合員の退職意思と雇用関係上の手続を整理して伝えることで、園長から退職の了承を得て、その後の手続完了につなげることができました。

当組合は今後も、雇用関係に関する退職手続、ハラスメント、長時間労働および退職申出後の取扱いなどの問題について、使用者に処分可能な事項の範囲内で、労働組合法に基づく団体交渉を通じて組合員の権利を守ってまいります。
 

6.本件で問題となり得た主な法令・参考公表資料

労働基準法


第32条(労働時間)

使用者は、原則として、労働者を1日8時間、1週間40時間を超えて働かせてはならないと定めています。

第36条(時間外・休日労働に関する協定)

法定労働時間を超えて時間外労働をさせる場合には、原則として労使協定の締結と届出が必要です。

第37条(時間外、休日および深夜の割増賃金)

法定時間外労働などを行わせた場合には、所定の割増賃金を支払う必要があります。

労働基準法|e-Gov法令検索
 

民法


第628条(やむを得ない事由による雇用の解除)

雇用期間が定められている場合でも、やむを得ない事由があるときは、契約期間の途中で雇用契約を解除できることを定めています。該当性は、退職理由、心身の状態、契約内容などの個別事情を踏まえて判断されます。

民法|e-Gov法令検索
 

その他の労働関係法令


労働契約法第5条(労働者の安全への配慮)

使用者は、労働契約に伴い、労働者が生命や身体などの安全を確保しながら働けるよう、必要な配慮をするものと定められています。

労働契約法|e-Gov法令検索

労働施策総合推進法第30条の2

事業主に対し、職場におけるパワーハラスメントを防止するための相談体制の整備など、雇用管理上必要な措置を講じることを求めています。また、相談や事実確認への協力を理由とする不利益な取扱いを禁止しています。

労働施策総合推進法|e-Gov法令検索
 

労働組合法


第6条(交渉権限)

労働組合の代表者または労働組合から委任を受けた者が、組合員のために使用者と交渉する権限を有することを定めています。

労働組合法|e-Gov法令検索
 

参考公表資料


事業主が講ずべきハラスメント対策パンフレット

厚生労働省は、パワーハラスメントに該当すると考えられる例として、大声での威圧的な叱責、人格を否定する言動、集団による無視、長期間の隔離などを挙げています。実際の該当性については、行為の目的、態様、継続性、当事者間の関係などを踏まえて判断する必要があります。

事業主が講ずべきハラスメント対策|厚生労働省

※本事例は、個人および会社を特定できないよう、一部を匿名化・一般化しています。
※記載した法令は、会社の具体的な対応によって問題となり得る法令であり、本件において法令違反が確定したことを意味するものではありません。
※法的評価は、雇用契約の内容、会社の対応、証拠その他の個別事情によって異なります。

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