退職を理由に謝罪や誓約書を求められた歯科助手が、直接謝罪せず退職手続きを完了した事例
- 2025.03.17
- 2025.03.17
| 実行日 | 2025年3月 |
|---|---|
| 組合員 | Kさん |
| 年齢 | 40代 |
| 地域 | 神奈川県 |
| 職種 | 歯科助手 |
| 雇用形態 | 正社員 |
| トラブル種別 | 謝罪の強要 |
1.相談に至るまでの経緯
Kさんは、神奈川県内の歯科クリニックで、正社員の歯科助手として勤務していました。
Kさんが退職の意思を伝えたところ、院長らは「突然辞めたことで、ほかのスタッフに迷惑がかかった」と主張しました。そのうえで、Kさんに対し、謝罪や反省の言葉を示すことに加え、退職届と誓約書を提出するよう強く求めました。
さらに、院長らからは「誠意ある対応がなければ話し合いに応じない」との発言もあり、感情的なやり取りが続いていました。
退職の手続きとは別に謝罪や反省を強く求められる状況となったため、Kさんは当組合へ相談しました。当組合は、会社側との直接のやり取りを引き受け、電話とメールによる交渉を開始しました。
2.本件の法的な問題点
(1)無期雇用の退職は、会社の納得や謝罪を当然の条件とするものではない
期間の定めのない雇用契約では、労働者は民法第627条に基づいて退職を申し入れることができます。原則として、退職の申入れから2週間が経過すると、雇用契約は終了します。
会社の就業規則や実際の退職手続を確認する必要はありますが、会社が退職理由に納得することや、労働者が謝罪することが、退職の効力を発生させるための当然の条件になるわけではありません。厚生労働省も、無期労働契約では、会社が退職を認めない場合であっても、原則として申入れから2週間で労働契約が終了すると案内しています。
(2)退職届と誓約書は、目的や記載内容を分けて確認する必要がある
退職届は、労働者の退職意思を書面で明確にするために使用されることがあります。一方、誓約書については、記載されている内容によって法的な意味や効果が異なります。
そのため、会社から複数の書類を求められた場合には、退職手続に必要な書類なのか、謝罪や責任の承認など別の内容を含む書類なのかを分けて確認することが重要です。
(3)退職手続と感情的な要求は切り分けて話し合う必要がある
急な退職によって、会社が人員配置や業務の引継ぎに影響を受ける場合はあります。しかし、そのような業務上の事情と、労働者に謝罪や反省を求めることは、別の問題です。
退職によって会社に影響が生じたという理由だけで、労働者に一般的な法的謝罪義務が当然に発生するものではありません。具体的な責任の有無を問題とする場合には、会社側が問題とする事実や根拠を明確にする必要があります。
本件では、退職手続を進めるために、謝罪の要求と雇用契約の終了に必要な手続を切り分けて交渉することが重要となりました。
3.労働組合による会社への対応
当組合は、労働組合法第6条に基づき、組合員のために会社へ通知および団体交渉の申入れを行いました。
具体的には、約2か月にわたり、電話とメールで次の対応を行いました。
- Kさんの退職意思を会社へ伝えること
- 退職手続と謝罪・反省の要求を切り分けて対応するよう求めること
- 退職したことだけを理由として、謝罪義務が当然に発生するものではないと説明すること
- Kさん本人による直接の謝罪を退職手続の条件としないよう申し入れること
- 感情的なやり取りを避け、退職に必要な手続を進めるよう交渉すること
労働組合法第6条は、労働組合の代表者などが、労働組合または組合員のために、使用者と交渉する権限を有することを定めています。退職に伴う手続や会社から求められた対応は、組合員と使用者との労働関係に関する事項として、団体交渉の対象となり得ます。
4.結果および成果
当組合が電話とメールによる交渉を続けた結果、Kさんが院長らへ直接謝罪することなく、退職手続きを完了することができました。
また、会社側から求められていた謝罪や反省の言葉を示すことを、退職手続の条件とせずに対応を終えています。
これにより、Kさん本人が会社側との感情的なやり取りを直接続ける必要はなくなり、当組合を窓口として手続きを進めることができました。
なお、退職届および誓約書を最終的に提出したかどうかや、会社がどのような回答をしたうえで手続を進めたのかについては、元記事に記載がありません。そのため、本件で確認できる成果は、Kさんが直接謝罪することなく、退職手続が完了したことです。
5.組合としての総括
退職を申し出た際に、「同僚へ迷惑をかけた」「誠意を示してほしい」などと言われると、謝罪をしなければ退職できないのではないかと感じる労働者も少なくありません。
しかし、会社に業務上の事情があることと、退職の法的な手続は区別して考える必要があります。特に無期雇用契約では、会社の感情的な納得や、謝罪・反省の表明がなければ退職できないというものではありません。
本件では、謝罪の要求に対して感情的に反論するのではなく、退職手続に必要な事項と、それ以外の要求を切り分けて交渉したことが重要でした。約2か月にわたって連絡を継続することで、Kさんが会社へ直接謝罪することなく、退職手続きを終えています。
会社とのやり取りが感情的になっている場合、労働組合が交渉窓口となることで、組合員本人の負担を抑えながら、法的な論点に沿って手続を整理できることがあります。
当組合は今後も、雇用関係に関する退職手続、謝罪要求、誓約書の提出その他の問題について、使用者に処分可能な事項の範囲内で、労働組合法に基づく団体交渉を通じて組合員の権利を守ってまいります。
6.本件で問題となり得た主な法令・参考判例
民法
期間の定めのない雇用契約では、当事者はいつでも解約を申し入れることができ、原則として申入れから2週間で雇用契約が終了すると定めています。本件は無期雇用であったため、退職の基本的なルールとして関係する条文です。
労働組合法
労働組合の代表者または労働組合から委任を受けた者が、組合員のために使用者と交渉する権限を有することを定めています。当組合がKさんの退職手続や会社からの要求について交渉した根拠となる条文です。
参考公表資料
無期労働契約における退職申出の時期や、会社が退職を認めない場合の基本的な考え方について解説している厚生労働省の公表資料です。
※本事例は、個人および会社を特定できないよう、一部を匿名化・一般化しています。
※記載した法令は、会社の具体的な対応によって問題となり得る法令であり、本件において法令違反が確定したことを意味するものではありません。
※法的評価は、雇用契約の内容、会社の対応、証拠その他の個別事情によって異なります。

