退職時に私物の直接受取りを求められたものの、自宅への郵送対応となった事例
- 2025.02.03
- 2025.02.03
| 実行日 | 2025年2月 |
|---|---|
| 組合員 | Nさん |
| 年齢 | 20代 |
| 地域 | 福岡県 |
| 職種 | 中古車販売店 |
| 雇用形態 | 正社員 |
| トラブル種別 | 私物に関する対応 |
1.相談に至るまでの経緯
Nさんは、中古車販売店で正社員として勤務していました。
しかし、出張の多さに加えて体調不良も重なったことから、勤務を続けることが難しくなり、退職を希望して当組合へ相談されました。
当組合がNさんの退職意思を会社へ通知したところ、会社から、退職後に職場へ残された私物について「本人が直接取りに来るように」との回答がありました。
ところが、Nさんは体調面の問題から、会社へ直接出向くことが困難な状況でした。そのため、Nさんは、職場に残された私物を会社で処分してもらうか、自宅へ郵送してもらうことを希望しました。
当組合がNさんの希望を会社へ伝えたところ、会社からは「それなら当組合が代わりに取りに来てほしい」と求められました。
そこで当組合は、退職後の私物の取扱いについて、Nさん本人が来社する方法以外での対応を求め、会社との調整を行いました。
2.本件の法的な問題点
(1)退職の申入れと私物の返却方法は、分けて整理する必要があります
Nさんは期間の定めのない労働契約で勤務していたため、退職の申入れについては民法第627条が関係します。
一方、職場に残された私物の返却方法は、退職意思の通知とは別の問題です。私物の受取り方法について調整が必要であったとしても、そのことだけで退職の意思表示自体が左右されるわけではありません。
退職手続と私物の返却を切り分け、それぞれについて具体的な方法を調整することが重要です。
(2)本人による直接の受取りだけが、唯一の返却方法ではありません
職場に残された物が労働者本人の所有物である場合、その所有権は原則として本人にあります。民法第206条は、所有者が法令の制限内で、その所有物を使用、収益および処分する権利を有することを定めています。
ただし、私物が職場に残されている場合の返却方法について、会社が必ず送料を負担して郵送しなければならない、あるいは本人が必ず直接取りに行かなければならないと一律に定めた労働法上の規定があるわけではありません。
本人の体調、物品の内容、保管状況、郵送の可否などを踏まえ、郵送、代理人による受取り、本人の同意を得た処分など、現実的な方法を労使間で調整する必要があります。本人が処分を希望する場合も、対象となる物品や処分の意思を明確に確認することが大切です。
(3)退職時の私物返却は、雇用関係上の清算事項として交渉できます
労働組合法第6条により、労働組合の代表者または委任を受けた者は、組合員のために使用者と交渉する権限を有します。
退職時に職場へ残された私物の返却方法は、雇用関係の終了に伴って生じた清算事項です。会社が対応可能な範囲であれば、労働組合が組合員の事情や希望を伝え、返却方法について会社と交渉・調整することができます。
3.労働組合による会社への対応
当組合は、労働組合法第6条に基づき、組合員のために会社へ通知および団体交渉の申入れを行いました。
実際に行った対応は、次のとおりです。
- Nさんの退職意思を会社へ通知すること
- Nさんが体調面の問題から来社することが困難であると伝えること
- 職場に残された私物について、処分または自宅への郵送を希望していると伝えること
- 会社から「当組合が代わりに取りに来てほしい」と求められたことに対し、本人や組合による直接の受取り以外の方法で対応するよう求めること
- 私物をNさんの自宅へ郵送する方法について会社と調整すること
当組合は、私物の返却方法は本人の体調や具体的な事情を踏まえて調整すべき事項であり、本人による直接の来社だけが唯一の方法ではない旨を会社へ伝えました。
4.結果および成果
会社は最終的に、Nさんの私物を自宅へ郵送しました。
これにより、Nさんが体調不良の状態で会社へ直接出向くことや、当組合が私物を受け取りに行くことなく、私物の返却が行われました。
本件で確認できた成果は、Nさんの体調面の事情を踏まえた返却方法について会社と調整し、私物の自宅郵送という対応に至ったことです。
5.組合としての総括
退職時に職場へ私物を残していると、「自分で取りに行かなければ退職できないのではないか」「会社の人と直接顔を合わせなければならないのではないか」と不安を感じる方も少なくありません。
しかし、退職の意思表示と私物の返却方法は、別の問題として整理する必要があります。私物が残っていることだけを理由として、退職手続そのものが進められないと一律に決まるわけではありません。
また、私物の返却についても、本人による直接の受取りだけが唯一の方法ではありません。本人の体調や物品の内容などを踏まえ、郵送や本人の同意に基づく処分など、実行可能な方法を具体的に調整することが重要です。
本件では、Nさんが体調面の問題から来社できない事情を会社へ伝え、雇用関係上の清算事項として私物の返却方法を調整した結果、自宅への郵送対応となりました。
当組合は今後も、退職時の私物返却、貸与品の返却、退職日その他の雇用関係上の清算問題について、使用者に処分可能な事項の範囲内で、労働組合法に基づく団体交渉を通じて組合員の権利を守ってまいります。
6.本件で問題となり得た主な法令・参考判例
民法
第206条(所有権の内容)
所有者は、法令の制限内において、自らの所有物を使用、収益および処分する権利を有します。職場に残された私物についても、原則として所有者本人の意思を確認しながら返却または処分方法を調整する必要があります。
第627条(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)
期間の定めのない雇用契約について、労働者からの解約の申入れを定めた条文です。本件のNさんは無期雇用契約であったため、退職の申入れに関係する規定となります。
労働組合法
第6条(交渉権限)
労働組合の代表者または労働組合から委任を受けた者が、組合員のために使用者と交渉する権限を定めています。本件では、退職に伴う私物の返却方法について、当組合が会社へ申入れと調整を行う根拠となります。

