精神的な体調不良で退職を検討していたRさんについて、会社へ傷病手当金申請への協力を求め、受給開始に至った事例
- 2025.03.31
- 2025.03.31
| 実行日 | 2025年3月 |
|---|---|
| 組合員 | Rさん |
| 年齢 | 40代 |
| 地域 | 東京都 |
| 職種 | 医療事務 |
| 雇用形態 | 正社員 |
| トラブル種別 | 会社のハラスメントによる精神的な体調不良に対する傷病手当金協力要請 |
1.相談に至るまでの経緯
Rさんは、精神的な体調不良を抱えながら、医療事務として勤務を続けていました。
Rさんからは、会社でのハラスメントが精神的な体調不良につながったとの申告がありました。ただし、具体的なハラスメントの内容や、会社の責任について公的な判断が示された事実は、元記事には記載されていません。
体調に不安を抱えるなか、Rさんは傷病手当金を受給したうえで退職することを検討していました。
しかし、傷病手当金を受給するために何日間休む必要があるのか、退職後も受給を継続できるのか、どの時点で退職すればよいのかが分からず、不安を感じていました。
そこでRさんは、傷病手当金の申請条件や退職時期について確認するため、当組合へ相談しました。
2.本件の法的な問題点
(1)傷病手当金は「4日休めば必ず受給できる」という制度ではありません
傷病手当金を受給するためには、単に4日間休むだけでなく、法律上の支給要件を満たす必要があります。
健康保険の傷病手当金は、原則として、業務外の病気やけがの療養のために仕事ができず、連続する3日間の待期期間を含めて4日以上休み、休業期間について十分な給与を受けられない場合に支給対象となります。
最初の連続する3日間は「待期期間」となり、4日目以降の労務不能日が支給対象です。仕事ができない状態かどうかは、医師の意見、本人の業務内容その他の事情を踏まえて保険者が判断します。
ただし、4日間休んだことだけで、傷病手当金の受給や退職後の継続給付が確定するものではありません。
(2)退職後の継続給付には、別の要件があります
退職後も傷病手当金を継続して受給するためには、退職日時点で所定の要件を満たしている必要があります。
協会けんぽでは、資格喪失日の前日である退職日までに、原則として継続1年以上の健康保険被保険者期間があることに加え、資格喪失時点で傷病手当金を受給しているか、受給できる状態にあることが必要とされています。
また、退職日に出勤した場合は、原則として退職後の継続給付を受けるための要件を満たさないとされています。
したがって、傷病手当金を受給してから退職する場合には、休業開始日、待期期間、退職日、退職日の出勤状況、健康保険の加入期間などを事前に確認することが重要です。
(3)傷病手当金の支給を決定するのは会社や労働組合ではありません
傷病手当金の支給可否を最終的に判断するのは、加入している健康保険の保険者です。
傷病手当金支給申請書には、被保険者本人の記入欄のほか、勤務状況や報酬の支払い状況を証明する事業主記入欄、労務不能期間などについて医師が意見を記載する療養担当者記入欄があります。
協会けんぽも、申請書は被保険者、事業主および主治医がそれぞれ必要事項を記入して提出するものと案内しています。
労働組合が行えるのは、会社に対して雇用関係上必要となる事業主証明への協力を求めることです。傷病手当金の支給決定そのものを、会社や労働組合が行うことはできません。
(4)体調不良が業務上の疾病に当たるかは別途判断されます
健康保険の傷病手当金は、原則として業務外の病気やけがを対象とする制度です。
一方、ハラスメントなどの業務上の出来事が原因となった精神障害について、所定の要件を満たし、業務上の疾病と認められた場合には、労災保険の給付が問題となることがあります。
健康保険の給付と労災保険の給付のどちらが対象となるかは、それぞれの保険者や行政機関が具体的な事情に基づいて判断します。健康保険は業務外の疾病・負傷、労災保険は業務上の疾病・負傷を対象とする制度です。
3.労働組合による会社への対応
当組合は、労働組合法第6条に基づき、組合員のために会社への申入れを行いました。
本件で当組合が行った対応は、次のとおりです。
● 傷病手当金の基本的な申請条件をRさんに説明すること
● 連続する休業期間と退職時期の関係について説明すること
● 退職後の継続給付を検討するうえで、退職前に受給要件を満たしておく必要があることを説明すること
● 医師による労務不能についての記載を受けたうえで申請する必要があることを案内すること
● 会社に対し、傷病手当金支給申請書の事業主記入欄など、申請に必要な書類への記入協力を求めること
傷病手当金の支給判断は保険者が行うため、当組合は保険者との支給判断に関する代理交渉を行ったものではありません。
雇用関係上必要となる会社の証明や書類記入について、会社へ協力を申し入れ、申請手続が進められるよう支援しました。
4.結果および成果
必要な申請手続が進められ、Rさんは傷病手当金の受給を開始することができました。
また、Rさんが退職後も傷病手当金の継続給付を受けたこと。退職手続や退職後の継続給付まで完了したことを確認しました。
5.組合としての総括
精神的な体調不良によって勤務の継続が難しくなった場合、「退職すると収入がなくなるのではないか」「退職後も傷病手当金を受け取れるのか」と不安を感じる方は少なくありません。
傷病手当金には、連続する3日間の待期、4日目以降の労務不能、給与の支払い状況など、複数の要件があります。退職後の継続給付を希望する場合には、健康保険の加入期間や退職日時点の受給資格も確認する必要があります。
本件で重要だったのは、Rさんが退職を急ぐ前に、傷病手当金の申請条件と退職時期の関係を確認したことです。また、申請に必要な事業主証明について、当組合から会社へ協力を求めた点にも意義がありました。
会社への書類記入の協力要請は、組合員の休業中および退職前後の生活保障に関係する雇用上の問題として、労働組合による団体交渉の対象となり得ます。ただし、傷病手当金の支給可否を決定するのは、あくまで健康保険の保険者です。
当組合は今後も、雇用関係に伴う傷病手当金申請への会社協力、休業期間、退職時期その他の問題について、使用者に処分可能な事項の範囲内で、労働組合法に基づく団体交渉を通じて組合員の権利を守ってまいります。
6.本件で問題となり得た主な法令・参考判例
健康保険法
健康保険法第99条
業務外の病気やけがの療養により労務に服することができず、報酬を受けられない場合の傷病手当金について定めています。支給には待期期間その他の要件を満たす必要があります。
健康保険法第104条
健康保険の資格を喪失した後に傷病手当金の継続給付を受けるための要件を定めています。退職後の継続給付には、原則として1年以上の被保険者期間などが必要です。
健康保険法施行規則
健康保険法施行規則第84条
傷病手当金の支給申請について、労務に服することができなかった期間、報酬の額や期間など、申請書に記載すべき事項を定めています。
その他の労働関係法令
労働者災害補償保険法
精神的な体調不良が業務上の出来事を原因とする疾病として認められる場合には、健康保険の傷病手当金ではなく、労災保険の休業補償給付などが問題となる可能性があります。
労働組合法
労働組合法第6条
労働組合の代表者または労働組合から委任を受けた者が、労働組合または組合員のため、使用者と交渉する権限を有することを定めています。
本件では、傷病手当金申請に必要となる会社の書類記入など、雇用関係上の手続への協力を求める根拠となります。
参考となる公表資料
全国健康保険協会「病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)」
傷病手当金の支給要件、待期期間、退職後の継続給付、事業主および医師による申請書記入について確認できる公式資料です。
全国健康保険協会「健康保険傷病手当金支給申請書」
傷病手当金支給申請書の様式、提出方法および必要書類を確認できる公式資料です。
※本事例は、個人および会社を特定できないよう、一部を匿名化・一般化しています。
※記載した法令は、会社の具体的な対応によって問題となり得る法令であり、本件において法令違反が確定したことを意味するものではありません。
※法的評価は、雇用契約の内容、会社の対応、証拠その他の個別事情によって異なります。

