退職の意思表示に返答がなかった歯科医院へ書面で通知し、即日退職が成立した事例
- 2025.01.29
- 2025.01.29
| 実行日 | 2025年1月 |
|---|---|
| 組合員 | Iさん |
| 年齢 | 20代 |
| 地域 | 東京都 |
| 職種 | 歯科助手 |
| 雇用形態 | 契約社員 |
| トラブル種別 | 退職拒否 |
1.相談に至るまでの経緯
Iさんは、東京都内の歯科医院で、歯科助手として有期雇用の契約社員で勤務していました。
Iさんは歯科医院側へ退職の意思を伝えていましたが、院長からは返答がありませんでした。折り返しの連絡もないまま、退職の話が進まない状態が続いていました。
退職について確認するため複数回電話をかけても、「院長は不在です」との理由で取り次いでもらえませんでした。
このままでは退職の意思が院長へ伝わっているのか、退職手続が進められるのか分からない状況でした。そこでIさんは、退職の意思を正式な形で伝えるため、当組合へ相談しました。
2.本件の法的な問題点
(1)退職の意思表示は、会社へ到達したことが重要です
退職の意思表示は、原則として、相手方へ到達した時点で効力が生じます。
民法第97条では、意思表示は相手方に到達した時から効力を生ずると定められています。そのため、電話で院長本人につながらない場合には、退職の意思を記載した書面を、歯科医院側が受け取れる方法で送付することが重要になります。
会社から返答がないことと、退職の意思表示が会社へ到達していないことは、同じではありません。もっとも、後日の行き違いを防ぐためには、「いつ、どのような内容を通知したのか」を客観的に確認できる方法を選ぶことが有効です。
(2)内容証明郵便は、通知内容を記録として残すための手段です
内容証明郵便は、いつ、どのような内容の文書を、誰から誰に宛てて差し出したのかを日本郵便が証明する制度です。
ただし、内容証明郵便によって証明されるのは文書の内容や差出しに関する事実であり、文書に記載された内容そのものが真実であることまで証明する制度ではありません。
本件では、電話による連絡だけに頼らず、退職の意思を書面にして送付することで、通知内容を記録として残しました。
(3)有期雇用契約の途中退職は、契約内容の確認が必要です
Iさんは、有期雇用の契約社員でした。
有期雇用契約について、契約期間の途中で労働者が一方的に直ちに契約を終了させる場合には、民法第628条の「やむを得ない事由」の有無などが問題となることがあります。
一方、使用者と労働者が退職日について合意した場合は、合意した日をもって雇用契約を終了させることができます。
本件では、内容証明郵便が到達した後、院長側が退職を受け入れ、即日退職が成立しています。そのため、本件の結果は、会社側の対応によって退職日が確定したものとして整理するのが適切です。
3.労働組合による会社への対応
当組合は、労働組合法第6条に基づき、組合員のために歯科医院側へ通知および団体交渉の申入れを行いました。
実際に行った対応は、次のとおりです。
● 歯科医院へ複数回電話をかけ、院長への取次ぎと退職に関する回答を求めること
● 電話だけでなく、FAXまたはメールによる退職通知が可能か確認すること
● 歯科医院側から「院長に確認しなければ教えられない」と回答されたため、郵送によって正式に通知する旨を伝えること
● Iさんの退職意思を記載した書面を、内容証明郵便で送付すること
● 退職意思を口頭だけでなく、後から通知内容を確認できる形で記録に残すこと
当組合が行ったのは、組合員の退職意思を使用者へ正式に通知し、退職手続について回答を求める団体交渉上の対応です。
4.結果および成果
内容証明郵便による退職通知が歯科医院側へ到達した後、院長側はIさんの退職を受け入れました。
その結果、即日をもって退職することが成立しました。
電話では院長へ取り次いでもらえず、折り返しの連絡もない状態が続いていましたが、通知方法を書面へ切り替えたことで、Iさんの退職意思を正式な記録として残すことができました。
また、院長本人からの返答を待ち続ける状態から、退職日を確定し、退職手続を進められる状態へ移行しました。
本件では、口頭での連絡だけに頼らず、記録が残る方法で退職意思を通知したことが、手続を前へ進めるうえで重要な対応となりました。
5.組合としての総括
退職の意思を伝えても会社から返答がない場合、「返事がない以上、退職できないのではないか」と不安になる方は少なくありません。
しかし、会社から返答がないという事情だけで、労働者の退職意思がなかったことになるわけではありません。重要なのは、誰に対して、いつ、どのような内容の意思表示を行い、その意思表示がどのように到達したのかを確認できる状態にすることです。
特に、電話で担当者や経営者につないでもらえない場合には、書面による通知を検討する必要があります。内容証明郵便などを利用すれば、少なくとも、どのような内容の文書を差し出したのかを記録として残すことができます。
一方、有期雇用契約の途中退職については、契約期間、勤務開始からの経過期間、退職理由、会社との合意の有無などによって法的な整理が異なります。本件では、院長側が退職を受け入れたことで、即日退職が成立しました。
当組合は今後も、退職意思への返答がない場合や、有期雇用契約における退職日等の問題について、使用者に処分可能な事項の範囲内で、労働組合法に基づく団体交渉を通じて組合員の権利を守ってまいります。
6.本件で問題となり得た主な法令・参考判例
労働基準法
労働基準法附則第137条
1年を超える期間を定めた一定の有期労働契約について、契約開始から1年が経過した後は、労働者がいつでも退職できる場合を定めた規定です。
本件では契約期間および契約開始日が不明であるため、同条の適用可否は判断できません。
民法
民法第97条(意思表示の効力発生時期等)
意思表示は、原則として、相手方に到達した時から効力を生じます。
退職の意思表示についても、会社側へ到達したことを確認できる方法で通知することが重要です。
民法第628条(やむを得ない事由による雇用の解除)
雇用期間が定められている場合でも、やむを得ない事由があるときは、各当事者が直ちに契約を解除できると定めています。
ただし、本件では「やむを得ない事由」の具体的内容が記載されておらず、最終的には院長側が退職を受け入れているため、同条による一方的な解除が成立したと断定するものではありません。
参考:民法|e-Gov法令検索
労働組合法
労働組合法第6条(交渉権限)
労働組合の代表者または労働組合から委任を受けた者が、組合員のために使用者と交渉する権限を定めています。
本件では、この規定に基づき、組合員の退職意思の通知および退職手続に関する申入れを行いました。
参考判例・公表事例
日本郵便「内容証明」
内容証明郵便が、文書を差し出した日時、文書の内容、差出人および宛先を証明する制度であることを説明した公式資料です。
参考:内容証明|日本郵便
※本事例は、個人および会社を特定できないよう、一部を匿名化・一般化しています。
※記載した法令は、会社の具体的な対応によって問題となり得る法令であり、本件において法令違反が確定したことを意味するものではありません。
※法的評価は、雇用契約の内容、会社の対応、証拠その他の個別事情によって異なります。

