引継ぎの完了を理由に退職届を受理されなかったケースで、退職手続が進められた事例
- 2024.11.26
- 2024.11.27
| 実行日 | 2024年11月 |
|---|---|
| 組合員 | Aさん |
| 年齢 | 30代 |
| 地域 | 大阪府 |
| 職種 | 製造業 |
| 雇用形態 | 正社員 |
| トラブル種別 | 退職妨害 |
1.相談に至るまでの経緯
Aさんは会社に退職の意思を伝え、退職届を提出しようとしていました。
しかし、会社からは「引継ぎを終えるまでは退職できない」と言われ、退職届を受理してもらえない状況が続いていました。
そのため、Aさんが退職を希望しているにもかかわらず、具体的な退職手続を進めることができませんでした。
引継ぎが完了する時期も明確ではなく、会社の対応次第では退職時期がさらに先延ばしになる可能性がある状況でした。そこでAさんは、退職手続を進めるため、当組合へ相談しました。
2.本件の法的な問題点
(1)無期雇用では、会社の承諾がなければ退職できないわけではありません
期間の定めのない雇用契約では、労働者はいつでも雇用契約の解約を申し入れることができます。
民法第627条第1項では、原則として、解約の申入れから2週間を経過することによって雇用契約が終了すると定められています。
したがって、無期雇用の労働者による退職は、会社との合意がなければ成立しない「合意退職」とは異なり、会社が退職届を受理しないことだけで退職できなくなるものではありません。もっとも、実際の退職時期については、賃金の定め方、就業規則、退職の申入れをした時期など、個別の事情を確認する必要があります。
(2)引継ぎの完了は、原則として退職成立の条件ではありません
業務上の混乱を防ぐため、労働者が可能な範囲で引継ぎに協力することは、実務上重要です。
一方で、「後任者への引継ぎがすべて完了するまで退職できない」など、終了時期が明確でない条件を付けて退職を一律に認めない対応は、民法第627条との関係で問題となる可能性があります。
会社にとって引継ぎが必要であることと、労働者による退職の申入れの効力は、分けて考える必要があります。
本件では、Aさんに簡単な引継ぎメモを作成してもらうことで、退職の意思を維持しながら、実務上の混乱を可能な限り抑える方法を取りました。
3.労働組合による会社への対応
当組合は、労働組合法第6条に基づき、組合員であるAさんのために会社へ通知および団体交渉の申入れを行いました。労働組合法第6条は、労働組合の代表者または委任を受けた者が、組合員のために使用者と交渉する権限を定めています。
会社に対しては、次の内容を文書で伝えました。
● Aさんが退職の意思を明確にしていること
● Aさんの雇用契約が期間の定めのない契約であること
● 民法第627条に基づき、原則として解約の申入れから2週間を経過することで雇用契約が終了すること
● 引継ぎが完了していないことだけを理由として、退職手続を進めないことは適切ではないこと
● Aさんの退職手続を進めること
また、退職による会社側の実務上の混乱をできる限り抑えるため、Aさんには簡単な引継ぎメモを作成してもらいました。
退職の法的な手続と、可能な範囲で行う引継ぎを切り分けた上で、双方の事情に配慮しながら対応を進めました。
4.結果および成果
当組合が会社へ書面で退職に関する法的な考え方を伝えた結果、会社はAさんの退職を認め、退職に必要な手続を進めることとなりました。
当初、会社は「引継ぎを終えるまでは退職できない」として退職届を受理していませんでしたが、その後は退職手続が進められました。
Aさんも簡単な引継ぎメモを作成し、退職の意思を維持しながら、業務上必要な情報を残す対応を行いました。
本件では、引継ぎの完了を退職の条件とするのではなく、退職手続と引継ぎへの実務的な協力を分けて整理したことで、円滑に退職手続を進めることができました。
5.組合としての総括
会社から「引継ぎが終わるまで辞められない」「後任者が決まるまで退職届を受け取らない」と言われると、労働者は退職時期が分からず、不安を感じることがあります。
しかし、期間の定めのない雇用契約では、会社の承諾がなければ退職できないわけではありません。原則として、民法第627条に基づく退職の申入れによって雇用契約を終了させることができます。
一方で、退職する労働者が可能な範囲で引継ぎに協力することは、職場の混乱を抑え、退職後のトラブルを防ぐ上でも重要です。本件では、退職の法的な効力と実務上の引継ぎを切り分け、簡単な引継ぎメモを作成する方法が取られました。
労働組合が会社との窓口となり、退職の意思や法的な基本原則を文書で明確に伝えることで、本人だけでは進められなかった退職手続を進展させることができました。
当組合は今後も、引継ぎを理由とする退職手続の引延ばしや、退職日、最終出勤日その他の雇用関係上の問題について、使用者に処分可能な事項の範囲内で、労働組合法に基づく団体交渉を通じて組合員の権利を守ってまいります。
6.本件で問題となり得た主な法令・参考判例
民法
民法第627条(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)
期間の定めのない雇用契約では、各当事者はいつでも解約を申し入れることができ、原則として申入れから2週間を経過することで雇用契約が終了すると定められています。
本件では、Aさんが無期雇用の正社員であったため、退職の申入れと引継ぎの問題を切り分ける際の基本的な根拠となりました。
参考リンク:e-Gov法令検索「民法」
労働組合法
労働組合法第6条(交渉権限)
労働組合の代表者または労働組合から委任を受けた者は、労働組合または組合員のために、使用者と交渉する権限を有します。
本件では、Aさんの退職意思、退職手続および引継ぎの取扱いについて会社へ通知し、交渉を申し入れる根拠となりました。
参考リンク:e-Gov法令検索「労働組合法」
参考判例・公表事例
大阪労働局「よくあるご質問(退職・解雇・雇止め)」
期間の定めのない雇用契約について、会社が退職願を受け取らない場合でも、会社の同意がなければ退職できないものではないことが説明されています。
参考リンク:大阪労働局「よくあるご質問(退職・解雇・雇止め)」
※本事例は、個人および会社を特定できないよう、一部を匿名化・一般化しています。
※記載した法令は、会社の具体的な対応によって問題となり得る法令であり、本件において法令違反が確定したことを意味するものではありません。
※法的評価は、雇用契約の内容、会社の対応、証拠その他の個別事情によって異なります。

