会社から組合自身への金銭要求を団体交渉事項と切り分け、組合員の退職手続を進めた事例
- 2024.11.01
- 2024.11.01
| 実行日 | 2024年11月 |
|---|---|
| 組合員 | Kさん |
| 年齢 | 30代 |
| 地域 | 東京都 |
| 職種 | 客先常駐SE |
| 雇用形態 | 正社員 |
| トラブル種別 | 休日に連絡したことによるトラブル |
1.相談に至るまでの経緯
Kさんは客先常駐SEとして勤務していましたが、会社を退職するため、労働組合へ相談しました。
Kさん本人から強い希望があったため、当組合は土曜日に上司へ連絡し、Kさんの退職意思を伝えました。
ところが、連絡を受けた上司は、休日に連絡したことについて「非常識だ」と激昂しました。その後も約1時間にわたり対応が続き、会社側は当組合に対して、「休日に連絡したのだから私に残業代を支払え」と主張しました。
退職の意思を伝えるための連絡をきっかけとして、会社と当組合との間で新たな金銭上の主張が生じる事態となりました。
2.本件の法的な問題点
(1)労働組合は組合員の退職について会社と交渉できる
労働組合は、組合員の退職意思や退職手続など、雇用関係に関する事項について会社と交渉できます。
労働組合法第6条は、労働組合の代表者または労働組合から委任を受けた者が、労働組合や組合員のために使用者と交渉する権限を定めています。
本件でも、Kさんの退職意思を会社へ通知し、退職手続に関するやり取りを行うことは、組合員と会社との労働関係に関する対応として位置づけられます。
(2)休日の対応時間について、組合に当然に残業代の支払義務が生じるわけではない
会社の従業員が休日や時間外に業務を行った場合、その時間について賃金や割増賃金が発生するかどうかは、原則として会社とその従業員との労働関係において判断されます。
労働基準法第37条は、使用者が労働者に法定時間外労働や法定休日労働をさせた場合の割増賃金について定めています。土曜日の対応が法定時間外労働や法定休日労働に当たるかは、会社の勤務制度や上司の労働時間などによって異なります。
一方、会社が第三者である労働組合に金銭の支払いを求める場合には、別途、具体的な法的根拠を確認する必要があります。休日に連絡したという事実だけで、直ちに労働組合の支払義務が確定するものではありません。
(3)退職の成立時期は雇用期間の定めによって異なる
労働者からの退職の申入れに適用される規定は、雇用契約に期間の定めがあるかどうかによって異なります。
期間の定めがない雇用契約では、民法第627条が退職の申入れに関する基本的な規定となります。これに対し、有期雇用契約の契約期間中に退職する場合は、民法第628条の「やむを得ない事由」の有無などが問題となります。
本件では、Kさんが正社員であることは記載されていますが、雇用期間の定めの有無や具体的な退職申入れ日が明らかではありません。そのため、どの条文によって退職が成立したのかを断定することはできません。
3.労働組合による会社への対応
当組合は、労働組合法第6条に基づき、組合員のために会社へ通知および団体交渉の申入れを行いました。
実際に行った対応は、次のとおりです。
● Kさん本人の強い希望に基づき、土曜日に上司へ連絡したこと
● Kさんの退職意思を会社へ通知したこと
● 労働組合として、組合員の退職に関する団体交渉を行っていることを会社へ説明したこと
● 会社から当組合に向けられた残業代の支払要求には応じないとの立場を示したこと
● 会社から協力的な姿勢が得られない状況でも、Kさんの退職に向けた対応を継続したこと
会社から労働組合自身に向けられた金銭上の要求については団体交渉ではないため、組合員の労働条件に関する団体交渉事項とは区別して取り扱う必要があります。
4.結果および成果
会社は、やり取りの間、終始協力的な姿勢を示しませんでした。
一方、Kさんの勤続年数が短かったことや、退職に必要な法的要件を満たしていたことから、最終的に退職に至りました。
本件での成果は、会社から協力的な対応が得られない状況でも退職に向けた対応を継続し、Kさんが最終的に退職に至ったことです。
5.組合としての総括
退職の連絡を休日に行ったことで会社側が強く反発すると、「退職できなくなるのではないか」「会社から金銭を請求されるのではないか」と不安を感じる方も少なくありません。
もっとも、会社の担当者が休日や時間外に対応した場合の賃金は、原則として会社とその担当者との労働関係において処理される問題です。外部から連絡を受けたことだけを理由として、連絡をした労働組合に当然に残業代の支払義務が生じるわけではありません。
本件では、Kさんの退職に関する問題と、会社から当組合に向けられた金銭上の主張とを区別しながら対応を進めた点が重要でした。会社が感情的な反応を示した場合でも、退職に関する法的な要件や手続を確認し、論点を整理して対応する必要があります。
労働組合が窓口となることで、会社の反応に左右されず、組合員の退職意思を正式に伝え、雇用関係上の事項について交渉を続けることができます。
当組合は今後も、雇用関係に関する退職意思の通知や退職手続等の問題について、使用者に処分可能な事項の範囲内で、労働組合法に基づく団体交渉を通じて組合員の権利を守ってまいります。
6.本件で問題となり得た主な法令・参考判例
労働基準法
第37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
使用者が労働者に法定時間外労働や法定休日労働をさせた場合の割増賃金について定めています。本件では、会社側が主張した「残業代」が、誰に対するどのような法的根拠に基づく請求であったのかを区別する必要があります。
民法
第627条(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)
雇用期間の定めがない場合、当事者はいつでも解約を申し入れることができ、原則として申入れから2週間を経過することで雇用が終了すると定めています。
第628条(やむを得ない事由による雇用の解除)
雇用期間の定めがある場合でも、やむを得ない事由があるときは、契約期間の途中で解除できることを定めています。本件では契約期間の定めが明らかでないため、いずれの条文が適用されたかは確認が必要です。
労働組合法
第6条(交渉権限)
労働組合の代表者または労働組合から委任を受けた者が、労働組合または組合員のために使用者と交渉する権限を定めています。本件では、Kさんの退職意思の通知や退職手続に関する対応の根拠となります。
参考判例・公表事例
本件と直接対応し、かつ公式資料で内容を確認できる判例は掲載していません。
※本事例は、個人および会社を特定できないよう、一部を匿名化・一般化しています。
※記載した法令は、会社の具体的な対応によって問題となり得る法令であり、本件において法令違反が確定したことを意味するものではありません。
※法的評価は、雇用契約の内容、会社の対応、証拠その他の個別事情によって異なります。

