退職代行ローキ(労働基準調査組合)

将来の請求権放棄を含む退職合意書から該当条項を削除し、通常の退職手続を完了した事例

  • 2024.09.30
  • 2024.09.30
実行日 2024年9月
組合員 Sさん
年齢 40代
地域 栃木県
職種 フロント業務
雇用形態 正社員
トラブル種別 同意出来ない誓約書

1.相談に至るまでの経緯


Sさんは、正社員としてフロント業務に従事していました。

退職手続を進める中で、会社から「退職合意書」が提示されました。しかし、その第3条と第4条には、次のような内容が含まれていました。


「第三者への情報開示を禁止する」

「今後一切の異議申立てや請求等を放棄する」
 

これらの条項に同意して署名した場合、Sさんが将来何らかの問題に気づいたとしても、会社に対する権利行使が制限される可能性がありました。

Sさんは、内容に納得できないまま署名することを避け、退職合意書への署名を拒否しました。

さらに、会社から送付された文書には「解雇予告通知」という記載もありました。しかし、今回の退職はSさん本人の自由意思によるものであり、本人が申し出た退職と、会社の意思による解雇とが混同されかねない状況でした。

そこでSさんは、同意できない条項を含む退職合意書と、解雇予告通知の記載について、当組合へ相談しました。
 

2.本件の法的な問題点

(1)同意できない退職合意書に署名する必要があるのか


退職合意書は、労働者と会社の双方が内容に同意することによって成立する合意です。

会社から書面を提示されたからといって、労働者がそのすべての条項に同意し、署名しなければならないわけではありません。

特に、「今後一切の請求を放棄する」といった条項は、未払い賃金その他の権利行使にも影響する可能性があります。そのため、対象となる権利や適用範囲を確認し、納得できない場合には署名を保留することが重要です。

民法第522条は、契約が当事者間の意思の合致によって成立することを定めています。退職合意書についても、一方的に提示された内容だけで、直ちに合意が成立するものではありません。
 

(2)本人の退職と会社による解雇は区別する必要がある


労働者本人が退職を申し出る場合と、会社が労働契約を終了させる解雇とは、法律上の性質が異なります。

書面に「解雇予告通知」と記載されていても、名称だけで法的な取扱いが確定するわけではありません。本人の退職意思、会社の意思表示、退職に至る経緯などを踏まえて判断する必要があります。

仮に会社の意思による解雇であれば、労働契約法第16条が問題となります。同条は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない解雇を、権利濫用として無効とする規定です。

また、実際に会社が解雇を行う場合には、原則として30日前の予告または不足日数分の解雇予告手当について定めた労働基準法第20条も関係します。

本件では、Sさんの意思は自ら退職することであったため、会社に対して退職と解雇の取扱いを明確にする必要がありました。
 

(3)無期雇用の労働者による退職の申入れ


Sさんは、雇用期間の定めのない正社員でした。

民法第627条第1項は、雇用期間を定めていない場合、各当事者がいつでも解約の申入れをすることができ、原則として申入れから2週間を経過することで雇用が終了すると定めています。

もっとも、実際の退職日は、退職の申入れを行った日、会社との合意内容、就業規則その他の個別事情を踏まえて確認する必要があります。
 

3.労働組合による会社への対応


当組合は、労働組合法第6条に基づき、組合員のために会社へ通知および団体交渉の申入れを行いました。

実際に行った対応は、次のとおりです。
 

● Sさんは、退職合意書の第3条および第4条に同意しておらず、署名を希望していないことを会社へ伝えました。

● 「第三者への情報開示禁止」および「今後一切の異議申立てや請求等を放棄する」とする条項について、Sさんの将来の権利行使を制限する可能性があることを指摘しました。

● Sさんの意向を踏まえ、第3条および第4条を削除した退職合意書へ修正するよう求めました。

● 会社文書に記載された「解雇予告通知」について、本件はSさん本人の自由意思による退職であることを伝え、通常の退職手続として取り扱うよう申し入れました。
 

当組合は、会社が提示した退職条件への同意をSさんに代わって行うのではなく、Sさん本人の意向に基づき、退職手続および退職条件に関する団体交渉を行いました。
 

4.結果および成果


会社は、当組合からの指摘を受け入れました。

その後、問題となっていた第3条および第4条を削除した退職合意書が新たに作成され、Sさんへ再送付されました。

これにより、Sさんは「第三者への情報開示禁止」や「今後一切の異議申立てや請求等を放棄する」といった条項に同意することなく、退職手続を進めることができました。

また、本件は会社による解雇ではなく、Sさん本人の意思に基づく通常の退職手続として取り扱われ、最終的に退職が成立しました。
 

5.組合としての総括


会社から退職合意書や誓約書への署名を求められると、「署名しなければ退職できないのではないか」と不安になる方も少なくありません。

しかし、退職合意書に、秘密保持、権利放棄、損害負担などの条項が含まれている場合、その内容は退職後の権利や義務にも影響する可能性があります。同意できない内容があるときは、その場で署名せず、条項の意味や対象範囲を確認することが大切です。

本件では、Sさんが同意できない条項を明確にし、当組合がその意向に基づいて会社へ削除を申し入れたことが重要でした。また、「解雇予告通知」という記載についても、本人の自由意思による退職であることを会社へ伝え、退職と解雇の取扱いを整理しました。

労働組合は、組合員の退職条件や退職手続など、使用者が対応・処分できる労働関係上の事項について、会社と団体交渉を行うことができます。

当組合は今後も、退職合意書、誓約書、退職条件、解雇の取扱いなどの雇用関係上の問題について、使用者に処分可能な事項の範囲内で、労働組合法に基づく団体交渉を通じて組合員の権利を守ってまいります。
 

6.本件で問題となり得た主な法令・参考判例

労働基準法


第20条(解雇の予告)

会社が労働者を解雇する場合、原則として少なくとも30日前に予告するか、不足する日数分の平均賃金を支払うことを定めています。本件では文書に「解雇予告通知」と記載されていたため、実際の退職理由および会社の意思を区別する上で関係する規定です。

参考リンク:労働基準法|e-Gov法令検索
 

民法


第522条(契約の成立と方式)

契約は、当事者間の意思表示が合致することによって成立することを定めています。労働者が内容に同意していない退職合意書について、提示されたことだけをもって合意が成立するわけではありません。

第627条(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)

期間の定めのない雇用では、各当事者がいつでも解約を申し入れることができ、原則として申入れから2週間を経過することで雇用が終了すると定めています。

参考リンク:民法|e-Gov法令検索
 

その他の労働関係法令


労働契約法第16条(解雇)

解雇について、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合には、権利濫用として無効になることを定めています。本件で実際に解雇が行われたと認定されたものではありませんが、「解雇予告通知」という記載との関係で問題となり得る規定です。

参考リンク:労働契約法|e-Gov法令検索
 

労働組合法


第6条(交渉権限)

労働組合の代表者または労働組合から委任を受けた者が、労働組合または組合員のために使用者と交渉する権限を有することを定めています。

本件では、退職合意書の条項、退職の取扱いおよび退職手続が団体交渉の対象となりました。

参考リンク:労働組合法|e-Gov法令検索
 

参考となる公表資料


栃木労働局「解雇の予告(第20条)」

労働基準法第20条に基づく解雇予告および解雇予告手当の基本的な取扱いが示されています。

参考リンク:解雇の予告(第20条)|栃木労働局

※本事例は、個人および会社を特定できないよう、一部を匿名化・一般化しています。
※記載した法令は、会社の具体的な対応によって問題となり得る法令であり、本件において法令違反が確定したことを意味するものではありません。
※法的評価は、雇用契約の内容、会社の対応、証拠その他の個別事情によって異なります。

退職代行はローキにお任せください