精神的不調による1週間の無断欠勤で懲戒解雇を通告されたDさんについて、撤回申入れ後に希望に沿った退職となった事例
- 2025.04.04
- 2025.04.04
| 実行日 | 2025年4月 |
|---|---|
| 組合員 | Dさん |
| 年齢 | 20代 |
| 地域 | 神奈川県 |
| 職種 | 販売職 |
| 雇用形態 | 正社員 |
| トラブル種別 | 無断欠勤により懲戒解雇処分にされ撤回要求 |
1.相談に至るまでの経緯
Dさんは、精神的な不調によって出勤できない状態となり、会社への連絡もできないまま、1週間にわたって欠勤を続けてしまいました。
その後、会社から、無断欠勤を理由として懲戒解雇を通告されました。
Dさん自身には退職する意思がありましたが、精神的な不調から会社と直接連絡を取ることが難しい状況でした。そのため、退職意思をどのように伝えればよいのか、また、懲戒解雇の通告にどのように対応すればよいのか分からず、当組合へ相談しました。
Dさんは医師の診断も受けており、今回の欠勤には精神的な体調不良という背景がありました。
2.本件の法的な問題点
(1)無断欠勤という形式だけで懲戒解雇の有効性は決まりません
欠勤が会社への事前連絡を伴わないものであっても、それだけで直ちに懲戒解雇が有効になるわけではありません。
労働契約法第15条では、懲戒処分について、労働者の行為の性質や態様その他の事情を踏まえ、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当と認められない場合には無効となることが定められています。
本件では、欠勤期間が1週間であったことに加え、欠勤の背景に精神的な不調があり、医師の診断も受けていたという事情がありました。
懲戒解雇の有効性は、就業規則の内容、欠勤の理由や期間、本人が連絡できなかった事情、医師の診断内容、会社が事前に行った確認や対応などを踏まえて、個別に判断する必要があります。
(2)懲戒解雇には、解雇としての合理性と相当性も必要です
懲戒解雇は、懲戒処分であると同時に、労働契約を終了させる重大な処分です。
労働契約法第16条では、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない解雇は、権利の濫用として無効になると定められています。
そのため、欠勤が就業規則上の懲戒事由に該当するかだけでなく、欠勤に至った経緯や体調、会社がより軽い処分や休職等を検討したかなども、処分の相当性を判断する事情となり得ます。
ただし、精神的な不調や医師の診断があれば、すべての欠勤について懲戒処分が認められなくなるわけではありません。具体的な事情を踏まえた判断が必要です。
(3)無期雇用の労働者は、会社へ退職を申し入れることができます
Dさんは、雇用期間の定めがない正社員でした。
民法第627条第1項では、期間の定めのない雇用契約について、各当事者が解約を申し入れることができ、原則として申入れから2週間が経過すると雇用契約が終了すると定められています。
退職日について会社と合意することも可能ですが、無期雇用の労働者が退職するために、常に会社の許可や承認が必要となるわけではありません。
3.労働組合による会社への対応
当組合は、労働組合法第6条に基づき、組合員のために会社へ通知および団体交渉の申入れを行いました。
実際に行った対応は、次のとおりです。
● Dさんの退職意思を正式に会社へ通知すること
● 1週間の欠勤には、精神的な体調不良という背景があったことを伝えること
● Dさんが医師の診断を受けていることを伝えること
●欠勤の経緯、精神的な体調不良および医師の診断内容を踏まえ、懲戒解雇の取扱いを見直すべきであるとの組合員側の見解を伝えること
4.結果および成果
当組合からの通知および懲戒解雇の撤回申入れを受け、会社はDさんに対する懲戒解雇を撤回しました。
その後、Dさんは希望に沿って退職しました。
懲戒解雇処分が撤回され、懲戒解雇ではない形で退職するという結果が確認されました。
また、Dさんが直接伝えることが困難だった退職意思や精神的な体調不良については、当組合から会社へ正式に伝えました。
5.組合としての総括
精神的な不調によって出勤や会社への連絡ができなくなると、「無断欠勤を理由に懲戒解雇にされるのではないか」「会社へ連絡できないままでは退職できないのではないか」と不安を感じる方も少なくありません。
しかし、無断欠勤があったという事実だけで、直ちに懲戒解雇の有効性が確定するものではありません。欠勤期間、欠勤の原因、本人の健康状態、医師の診断、会社が事情を把握していたかなどを踏まえ、個別に検討する必要があります。
本件では、Dさんの退職意思を明確に会社へ伝えることに加え、欠勤の背景に精神的な体調不良があり、医師の診断も受けていたことを会社へ説明した点が重要でした。
そのうえで、懲戒解雇の取扱いを見直すべきであるとの組合員側の見解を伝え、使用者に処分可能な雇用関係上の事項として、処分の撤回を申し入れました。
会社との直接連絡が難しい状態であっても、労働組合へ加入し、労働関係上の問題として団体交渉を申し入れることは可能です。
当組合は今後も、退職、懲戒処分、心身の不調に伴う欠勤などの雇用関係上の問題について、使用者に処分可能な事項の範囲内で、労働組合法に基づく団体交渉を通じて組合員の権利を守ってまいります。
当組合は、懲戒解雇の法的有効性を確定したものではありません。本件では、退職および懲戒処分という雇用関係上の事項について、使用者に処分可能な範囲で撤回を求め、団体交渉を行いました。
6.本件で問題となり得た主な法令・参考判例
労働基準法
第20条(解雇の予告)
使用者が労働者を解雇する場合、原則として30日前に予告するか、不足する日数分の解雇予告手当を支払う必要があります。
本件では、懲戒解雇の効力発生日や解雇予告手当の有無が元記事に記載されておらず、その後に処分が撤回されているため、同条への適合性については判断できません。
民法
第627条第1項(期間の定めのない雇用の解約)
期間の定めのない雇用契約では、各当事者は解約を申し入れることができます。原則として、申入れから2週間が経過することにより雇用契約が終了します。
その他の労働関係法令
労働契約法第15条(懲戒)
使用者による懲戒が、労働者の行為の性質や態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合、その懲戒は無効となります。
労働契約法第16条(解雇)
客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない解雇は、権利の濫用として無効となります。
労働組合法
第6条(交渉権限)
労働組合の代表者または労働組合から委任を受けた者は、労働組合または組合員のために、使用者と労働協約の締結その他の事項について交渉する権限を有します。
本件では、この規定に基づき、退職意思の通知、欠勤事情の説明および懲戒解雇の撤回申入れを行いました。
参考判例・公表事例
日本ヒューレット・パッカード事件
最高裁判所第二小法廷・平成24年4月27日判決
平成23年(受)第903号・地位確認等請求事件
精神的な不調によって欠勤を続けた労働者に対し、使用者が健康診断、治療の勧奨、休職等を検討することなく、正当な理由のない無断欠勤として懲戒処分を行った事案です。
最高裁判所は、当該事案の具体的事情の下では、欠勤が就業規則所定の懲戒事由に該当せず、懲戒処分は無効であると判断しました。
本件とは欠勤期間や会社との連絡状況などが異なるため、同判決によって直ちに本件の法的結論が決まるものではありませんが、精神的な不調を背景とする欠勤と懲戒処分の関係を検討する上で参考となります。
※本事例は、個人および会社を特定できないよう、一部を匿名化・一般化しています。
※記載した法令は、会社の具体的な対応によって問題となり得る法令であり、本件において法令違反が確定したことを意味するものではありません。
※法的評価は、雇用契約の内容、会社の対応、証拠その他の個別事情によって異なります。

