退職代行ローキ(労働基準調査組合)

退職意思の通知後、労働環境と給与面の改善を受けて退職手続を取り下げ、職場へ復帰した事例

  • 2024.10.31
  • 2024.10.31
実行日 2024年10月
組合員 Sさん
年齢 40代
地域 神奈川県
職種 営業職
雇用形態 正社員
トラブル種別 労働環境改善により復職

1.相談に至るまでの経緯

Sさんは、親族の体調不良を理由に勤務先からの退職を希望し、当組合へ相談しました。

当組合がSさんの退職意思を勤務先へ通知したところ、会社側は一度、退職を了承しました。

しかし、その後、会社から当組合に対し、「労働環境や給与面を改善した」との報告がありました。当組合がその内容をSさんへ伝えたところ、Sさんからは「条件が改善されたのであれば復職したい」との意向が示されました。

そこで、退職を前提とした手続をそのまま進めるのではなく、改めてSさんと会社双方の意向を確認することとなりました。

2.本件の法的な問題点

(1)無期雇用の労働者による退職の意思表示

期間の定めのない雇用契約では、民法第627条第1項により、労働者は原則として雇用契約の解約を申し入れることができます。

ただし、退職に関する意思表示には、一方的な解約の申入れとして行われる場合と、会社との合意による退職を申し込む場合があります。どちらに当たるかによって、撤回できる時期や条件の考え方が異なります。

(2)退職手続の取下げには双方の意思確認が重要となる

退職に向けた手続が進んだ後に労働者が考えを変えた場合でも、常に一方的に退職を撤回できるとは限りません。

一方で、労働者と会社の双方が雇用関係を継続することに合意すれば、退職手続を取り下げ、引き続き勤務することは可能です。

本件では、Sさんが職場への復帰を希望し、最終的に会社とSさんの双方が合意しました。そのため、退職手続は取り下げられ、Sさんは職場へ復帰しています。

(3)労働条件の変更内容は明確に確認する必要がある

労働契約法第8条では、労働者と使用者の合意によって、労働契約の内容である労働条件を変更できるとされています。

本件では、会社から「労働環境や給与面を改善した」との報告があり、それを受けてSさんが復職を希望しました。

労働条件の改善を前提として勤務を継続する場合には、認識の食い違いを防ぐため、変更内容を具体的に確認することが重要です。

(4)退職だけでなく雇用継続に関する事項も団体交渉の対象となり得る

労働組合は、組合員の退職意思を会社へ伝えるだけでなく、労働条件や雇用関係の継続に関する事項についても、使用者に処分可能な範囲で交渉や調整を行うことができます。

労働組合法第6条は、労働組合の代表者などが、組合員のために使用者と交渉する権限を有することを定めています。

本件では、当初の退職意思の通知に加え、会社から報告された改善内容をSさんへ伝え、本人の最終的な意向を確認しました。

3.労働組合による会社への対応

当組合は、労働組合法第6条に基づく団体交渉権の範囲内で、組合員のために会社へ退職意思を通知し、その後の労働関係上の連絡および調整を行いました。

実際に行った対応は、次のとおりです。

 

  1. 親族の体調不良を理由とするSさんの退職意思を会社へ通知すること
  2. 会社から、労働環境および給与面を改善したとの報告を受けること
  3. 会社から報告された改善内容をSさんへ伝えること
  4. 改善後の条件であれば職場へ復帰したいというSさんの意向を確認すること
  5. 会社とSさん双方が、退職手続の取下げおよび職場復帰に合意したことを確認すること

     

本件では、当初の依頼内容であった退職を機械的に進めるのではなく、状況の変化とSさんの最終的な希望を踏まえて対応しました。

4.結果および成果

会社は、当組合からの退職通知を受けた後、一度はSさんの退職を了承しました。

その後、会社から「労働環境や給与面を改善した」との報告がありました。当組合がその内容をSさんへ伝えたところ、Sさんは、条件が改善されたのであれば職場へ復帰したいとの意向を示しました。

最終的には、会社とSさんの双方が雇用関係を継続することに合意しました。これにより、退職手続は取り下げられ、Sさんは正式に職場へ復帰しました。

本件は、退職手続の完了を目指した事案ではなく、会社からの改善報告と本人の意向の変化を受け、双方の合意によって退職手続を取り下げた例外的なケースです。

5.組合としての総括

一度退職を申し出た後に会社から条件改善の提案や報告があった場合、「退職を取り下げられるのだろうか」と不安を感じる方もいます。

退職意思を撤回できるかどうかは、退職の意思表示がどのような内容で行われたか、会社が承諾しているか、退職日が確定しているかなどによって異なります。そのため、退職通知後であれば常に自由に撤回できるとは限りません。

本件で重要だったのは、当初の退職希望だけにとらわれず、会社からの報告をSさんへ正確に伝え、改めて本人の最終的な意向を確認した点です。その結果、会社とSさん双方の合意により、退職手続を取り下げて雇用関係を継続することとなりました。

労働組合による対応は、必ず退職を成立させることだけを目的とするものではありません。事情が変化した場合には、組合員本人の希望を確認し、使用者に処分可能な労働条件や雇用継続に関する事項について連絡・調整することも重要です。

当組合は今後も、雇用関係に関する退職、復職、労働条件の変更等の問題について、使用者に処分可能な事項の範囲内で、労働組合法に基づく団体交渉を通じて組合員の権利を守ってまいります。

6.本件で問題となり得た主な法令・参考判例。

民法

民法第627条

期間の定めのない雇用契約について、当事者が解約を申し入れることができる旨を定めています。

本件では無期雇用であったため関係する可能性がありますが、最初の退職意思表示が一方的な解約の申入れであったか、合意退職の申込みであったかは個別に確認する必要があります。

参考:民法(e-Gov法令検索)

その他の労働関係法令

労働契約法第8条

労働者と使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができると定めています。

会社が報告した労働環境や給与面の改善を、継続して勤務する際の労働条件とする場合には、その具体的な内容について労使間で認識を一致させることが重要です。

参考:労働契約法(e-Gov法令検索)

労働組合法

労働組合法第6条

労働組合の代表者または労働組合から委任を受けた者が、組合員のために使用者と交渉する権限を有することを定めています。

本件では、退職意思の通知、会社から報告された改善内容の伝達、雇用関係を継続する意思の確認などが、労働関係上の対応として行われました。

参考:労働組合法(e-Gov法令検索)

参考判例・公表事例

厚生労働省「退職、解雇、雇止めなど」

期間の定めのない雇用契約における退職の基本的な考え方などを、労働者向けに解説している公表資料です。

参考:退職、解雇、雇止めなど|確かめよう労働条件

※本事例は、個人および会社を特定できないよう、一部を匿名化・一般化しています。
※記載した法令は、会社の具体的な対応によって問題となり得る法令であり、本件において法令違反が確定したことを意味するものではありません。
※法的評価は、雇用契約の内容、会社の対応、証拠その他の個別事情によって異なります。

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