社会保険資格喪失証明書が届かず国民健康保険への切替に支障が出たケースで、行政窓口への相談を経て手続を完了した事例
- 2025.03.24
- 2025.03.24
| 実行日 | 2025年3月 |
|---|---|
| 組合員 | Jさん |
| 年齢 | 50代 |
| 地域 | 大阪府 |
| 職種 | 製造業 |
| 雇用形態 | 正社員 |
| トラブル種別 | 退職関連書類トラブル |
1.相談に至るまでの経緯
Jさんは会社を退職した後、使用していた健康保険証を会社へ返却しました。
しかし、その後も会社から社会保険資格喪失証明書が届かない状態が続いていました。社会保険資格喪失証明書は、退職した会社の健康保険から国民健康保険へ切り替える際に、資格喪失日を確認するために求められることがある書類です。
Jさんは証明書が届かなかったため、国民健康保険への切替手続を進めることができず、生活にも影響が生じていました。
「会社へ連絡しても書類が発行されないままなのではないか」「健康保険の切替ができない状態が続くのではないか」という問題を抱え、当組合へ相談されました。
2.本件の法的な問題点
(1)会社には資格喪失届を提出する手続が求められる
従業員が退職して健康保険および厚生年金保険の資格を喪失した場合、事業主は日本年金機構へ被保険者資格喪失届を提出する必要があります。
健康保険法第48条は、事業主に被保険者の資格喪失等に関する届出を求めています。また、健康保険法施行規則第29条では、資格喪失に関する事項を記載した届書を、資格喪失の事実が生じた日から5日以内に提出することとされています。
ただし、この資格喪失届の提出義務と、会社が退職者に対して任意様式の社会保険資格喪失証明書を発行することは、区別して整理する必要があります。日本年金機構も、退職時には事業主が資格喪失届を提出する手続を案内しています。
(2)会社から証明書が届かない場合は、本人が日本年金機構へ確認を求める方法がある
会社から社会保険資格喪失証明書が発行されない場合でも、直ちに国民健康保険への切替手続ができなくなるとは限りません。
協会けんぽの被保険者または被保険者であった方は、日本年金機構へ「健康保険・厚生年金保険資格取得・資格喪失等確認請求書」を提出し、資格喪失日等が記載された確認通知書の交付を求めることができます。
この請求は、被保険者であった本人が、年金事務所または事務センターに対して行う手続です。会社の対応が進まない場合には、年金事務所や住所地の市区町村へ早めに相談することが重要です。
(3)退職後の社会保険手続も団体交渉の対象となり得る
退職後であっても、社会保険の資格喪失手続や退職関連書類の交付など、雇用関係に由来する清算事項が残っている場合があります。
労働組合は、労働組合法第6条に基づき、組合員の労働関係上の問題について使用者と団体交渉を行うことができます。
本件では、会社に対して社会保険資格喪失証明書の発行を求めることや、退職後の社会保険手続の進捗を確認することが、雇用関係上の清算問題に関する対応となりました。
3.労働組合による会社への対応
当組合は、労働組合法第6条に基づき、組合員のために会社へ通知および団体交渉の申入れを行いました。
実際に行った対応は、次のとおりです。
●Jさんが退職後に健康保険証を返却しているにもかかわらず、社会保険資格喪失証明書が届いていない状況を会社へ伝えました。
●国民健康保険への切替手続に支障が生じていることを説明し、社会保険資格喪失証明書を速やかに発行するよう再三要請しました。
●会社から応答がなかったため、Jさんに対し、年金事務所および市区町村の国民健康保険担当窓口へ相談する方法を案内しました。
●行政窓口から会社へ資格喪失手続の状況を直接確認してもらうよう、Jさん本人から相談する方法を案内しました。
当組合が行ったのは、会社に対する書類発行の要請と、Jさんが利用できる行政手続の案内です。行政機関への申請や資格喪失の認定を、当組合が本人に代わって行ったものではありません。
4.結果および成果
会社は、当組合からの再三の要請に対して、当初は応答しませんでした。
そのため、Jさんには年金事務所や市区町村窓口へ相談し、行政窓口から会社へ直接確認してもらう方法を案内しました。
その後、Jさん本人が年金事務所または市区町村の担当窓口へ相談し、行政窓口から会社へ資格喪失手続の状況確認が行われた後、会社から社会保険資格喪失証明書が発行されました。
Jさんは発行された証明書を使用して国民健康保険への切替手続を行い、必要な手続を完了することができました。
本件では、会社への要請だけで対応が進まなかった段階で、本人が利用できる行政上の確認手続を案内したことにより、社会保険資格喪失証明書の発行と国民健康保険への切替手続につながりました。
5.組合としての総括
退職後に社会保険資格喪失証明書が届かないと、国民健康保険への切替や新しい勤務先での手続に支障が生じることがあります。
特に、病院を受診する予定がある場合には、「健康保険に加入できない期間が生じるのではないか」と不安を感じる方も少なくありません。
会社には、退職等によって健康保険の資格を喪失した従業員について、所定の期限内に日本年金機構へ資格喪失届を提出する手続が求められます。一方、会社から任意様式の資格喪失証明書が届かない場合には、被保険者であった本人が日本年金機構へ資格喪失等の確認通知書を請求する方法もあります。
本件では、会社への書類発行要請と、年金事務所や市区町村窓口を利用する手続を切り分けて対応したことが重要でした。会社との連絡だけで解決しない場合でも、行政窓口へ相談することで手続が進む可能性があります。
当組合は今後も、退職後の社会保険手続、退職関連書類の交付その他の雇用関係上の清算問題について、使用者に処分可能な事項の範囲内で、労働組合法に基づく団体交渉を通じて組合員の権利を守ってまいります。
6.本件で問題となり得た主な法令・参考判例
健康保険法
第48条(届出)
事業主は、被保険者の資格取得・資格喪失等について、厚生労働省令で定めるところにより届け出る必要があります。
健康保険法施行規則
第29条(被保険者の資格喪失の届出)
事業主が行う資格喪失の届出事項を定めています。日本年金機構の公表手続では、事業主は資格喪失の事実が発生してから5日以内に資格喪失届を提出するものと案内されています。
第50条(資格確認書の検認または更新等)
資格確認書の検認・更新等に関する規定です。社会保険資格喪失証明書の発行義務を直接定めた条文ではないため、本件における法的根拠として使用する場合には注意が必要です。
労働組合法
第6条(交渉権限)
労働組合の代表者または労働組合の委任を受けた者が、組合員のために使用者と交渉する権限を定めています。
本件では、退職後も残っていた社会保険手続および書類交付に関する問題について、会社へ確認や要請を行う根拠となります。
参考となる公表手続
日本年金機構「従業員が退職・死亡したとき」
退職等によって健康保険および厚生年金保険の資格を喪失した場合に、事業主が資格喪失届を提出する手続が案内されています。
日本年金機構「国民健康保険等へ切り替えるときの手続き」
会社から資格喪失証明書を受け取れない場合などに、本人が資格喪失等確認通知書の交付を求める手続が案内されています。
※本事例は、個人および会社を特定できないよう、一部を匿名化・一般化しています。
※記載した法令は、会社の具体的な対応によって問題となり得る法令であり、本件において法令違反が確定したことを意味するものではありません。
※法的評価は、雇用契約の内容、会社の対応、証拠その他の個別事情によって異なります。

